パリに「メゾン・デュ・サケ(La Maison du Sake)」がオープンした。200平方メートルを超える店舗に、ショップやレストラン、バーなどを併設するパリ最大の本格的な日本酒専門店だ。同店をプロデュースしたのは、市内でミシュラン1つ星レストラン「ソラ(Sola)」を経営するユーリン・リーさん。「パリで日本酒が人気」と伝える日本メディアはいるが、リーさんによれば、日本酒はまだ一般的なフランス人にまで浸透しているとは言えないという。パリでの日本酒を取り巻く現状はどうなのか。聞いてみた。


イメージは良くなっているが、経済的には「まだまだ」


――「日本酒がパリで評価を上げている」ということを、日本で耳にする機会がありますが、実際はどうでしょうか?
イメージは以前と比べて良くなっています。ただし経済面から考えると、人気があるとは言えません。フランスで扱われる日本酒の量は横ばいで、劇的な伸びがあるわけではないからです。地方はともかくパリであれば、日本酒に興味を持つ人は一定数いると思います。しかし彼らが普段から日本酒を飲む機会があるかというと、ほぼ無いのが現状です。

――例えば「パリ市内の有名レストランのワインリストに日本酒が入っている」というようなことを聞くと、パリ市民の身近なところまで日本酒が広がってきているような印象を受けますが、まだそこまでではないということですか? 
まだまだです。少しでも日本に詳しい人であれば、パリ市内の日本食材店や日本食レストランが集まる地区へ行けば、それなりの日本酒を見つけられることを知っていますが、知らないフランス人の方が圧倒的です。また、それら日本食材店へ行ったとしても、日本酒専門店ではないため、銘柄の違いを正確にアドバイスできるスタッフがいるとは限りません。結局どの商品を選べば良いのか分からず、好みでないものを購入してしまうこともあります。

――フランスで日本酒は潜在的な需要はあると思いますか?
あると思います。日本には良い蔵元がたくさんありますし、その酒を買いたいフランス人もたくさんいます。そこを繋ぐ人がいないのがフランスの問題です。

――フランスで日本酒が広めるには、どうすればいいと思いますか?
高級店だけでなく、日本の居酒屋のような形式で料理を出す大衆的な店がもっと増えれば、フランスで消費される日本酒量も増えます。ワインは(もちろん食事とのマリアージュという考え方もありますが)そのままで楽しめるものも多いです。しかし日本酒は、必ず料理と一緒に飲むものだと思います。夏は冷、冬は熱燗といったように、季節と料理に合わせて、冷たくても暖かくても楽しめるのが、日本酒の良いところです。日本酒をワインと比べるのではなく、まったく別物だということを知らせたいです。


ファッション業界関係者の口コミで日本酒を「クール」に


――「日本酒をワイングラスで出す」というようなアプローチもありますが、どう思いますか?
それはそれで、すごく良い考え方です。ここ5年くらいは、そこにフレンチを合わせるというのが流れでした。ただし私の考えでは、日本酒はワイングラスではなく、おちょこで飲んでほしいです。日本ではクラシックである飲み方を、パリではモダンなものとして紹介できればいいですよね。

――日本酒をさらに広めるには何が必要ですか?
イメージです。そのため「メゾン・デュ・サケ」の場合は、店のデザインと場所を重視しました。店があるエティエンヌ・マルセルという地区は、パリ市内でも流行に敏感な人が、多く飲みに集まる場所です。そして店内にはカクテルバーも作りました。なぜならカクテルバーがあると、特にファッション業界の人が多く訪れます。彼らの1割でもいいので日本酒を飲んでくれれば、彼らの口コミを通じて日本酒はクールになります。

――今回の専門店ができることで、日本酒は売れていくと思いますか?
正直ショップでは、あまり売れるとは思っていません。持ち帰りでボトルを買ってもらうというよりは、バーやレストランで、食事と一緒に日本酒を楽しんでもらうことが目標です。おつまみを食べながら日本酒を飲み、満足して帰ってもらう。そこから少しずつ日本酒ファンを増やし、将来的にショップで日本酒が売れるようになればいい、と思っています。
(加藤亨延)