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少し前の話になるが、2月7日に米カリフォルニア州サンタクララで第50回スーパーボウルが開催された。今年のTV中継の視聴者数は1億1190万人で、CNN Moneyによると「スーパーボウル50、視聴者数がTV史上第3位」である。30秒CMスポットの料金は500万ドルに到達、1ドル=113円換算で5億6500万円だ。TV健在……と言いたいところだが、それは数字の読み方次第。「スーパーボウルの視聴者数、記録に届かず」や「スーパーボウル視聴者数、1億1190万人に落ち込む」というような記事もあるのだ。で、実際の風向きはどっちなのかというと、個人的な印象は後者である。

これまでのTV視聴者数の第1位は昨年のスーパーボウル49の1億1440万人、そして第2位は2014年のスーパーボウル48の1億1220万人。毎年トップ3の記録を次々に塗り替えているのだからスーパーボウルのコンテンツ力はものスゴい。その数だけでも称賛に値するが、統計を見ると2010年から伸び悩み状態が続いている。

一方、CMスポット料はというと、視聴者数がぐんぐん伸びていた時期の上昇の方が緩やかで、視聴者数の伸びが頭打ち気味になってからぐんぐん伸びている。

2000年代に広告料金を値上げしなかった分を今になって上げているのか? いやいや、そんな適当な世界ではない。2010年以降、CMスポット料が72%も上昇したのは、TVの視聴者数とは別の理由でスーパーボウルCMの価値が上がったと考えるのが自然だ。では、それが何かというと、答えは明白、ネットである。

ここ数年のスーパーボウル広告に対する評価はスーパーボウルでのオンエアよりも、YouTubeなどビデオ共有サービスを通じて視聴される数に移っている。スーパーボウル中からオンラインメディアがスーパーボウルCMを批評し、終わったらランキング形式で総括。ビデオ共有サイトに置かれたCM映像へのリンクを埋め込んでいるから、4時間ぐらいもTVの前で過ごさなくても、そうした記事にアクセスするだけで効率的に話題のCMをチェックできる。そんなCMしか見ない人たちがグローバル規模で増加しているのが、スーパーボウルCMの価値を上げている。

○宣伝効果はネットでの話題次第

スーパーボウルCMの場合、広告主が5億ドルもの広告を出す側の理由は様々である。

Coca-ColaとPepsiはどちらも出しているが、宣伝効果という点では疑問符が付く。過去6年に関しては、CMからの直接的な売上効果が互いのCMによって打ち消されており、向こうが出すからこちらも出すというような状態が続いている。昨年ビールメーカーで単独の広告提供企業になったBudweiserは直後に15.75%もの売上上昇を果たした。そのBudweiserも今年はビールメーカー単独ではない。このあたりの大手は宣伝効果を期待するというよりも、存在をアピールするためだけに出しているような状態だ。

そうした一部の常連を除くと、スーパーボウルCMの出稿企業は年々変化している。CMを入れる理由で最も多いのは、全米規模またはグローバル規模の知名度の獲得だ。1974年に当時はまだ無名だったMaster LockがスーパーボウルCMを出した。CMのインパクトが大きいとは言っても、1回のCMによる鍵の売上の伸びには限りがある。巨額なCM料金は地方の鍵メーカーには重荷だった。それでもMaster LockがCMを出したのは全米の鍵屋や小売店のオーナーが見ると確信していたからだ。実際、スーパーボウルからしばらくの時間を経て、Master Lockの商品は全米に流通するようになった。

テクノロジー産業でもAppleが初代Macintoshを宣伝した「1984」が有名だ。2000年代にはインターネット産業の企業やスタートアップがスーパーボウルCM枠の大きな部分を占めた。それもこれもTVの力が偉大だったからだ。何よりも大きなインパクトを期待できたから、ネット企業もTVの力を借りてネットサービスを宣伝した。しかし、今の広告主は「スーパーボウルCM」を看板に、ネットの力を借りて宣伝している。

スーパーボウルCMは30秒の短編映画のような質の高さも話題になるが、以前は普通のTVCMもたくさんあった。凝ったCMではなくてもTV視聴者はCMを見る。だが、ネットではコンテンツの質で視聴者数に格段の差ができてしまう。話題になったら何度でも見られるが、話題にならなかったらクリックされない。だから、TVでは最も盛り上がるハーフタイムショーの直前の枠を取った広告が、試合が盛り上がらない時間帯の広告にネットも含めた最終的な視聴数で負けるというようなことが起こりうる。

ネットで広がらなければ、高いスーパーボウルCM料がムダになる。だから、視聴者の関心を引き、そのニーズに応えるコンテンツを作らなければならない。

しかし、それなら時間はかかるかもしれないが、近年話題になり始めたコンテンツマーケティングに自ら勤しむだけでも十分ではないだろうか? スーパーボウルCMという看板に数百万ドルもの宣伝費をかける価値があるだろうか?

実は今年、スーパーボウル自体のツイートやいいね!は昨年よりも大きく減少した。視聴者数では横ばいでも、スーパーボウルに対する関心は低下している。むしろ今年は話題性で言ったら、CMやハーフタイムショーにスーパーボウルというイベントが助けられていた。視聴者数は良好だった。総じて話題にも富んでいたが、TV時代のスーパーボウルというお祭りは斜陽に向かい始めた感がある。

(Yoichi Yamashita)