なぜすぐに答えが? シャーロック・ホームズに学ぶ「知識と観察と推理」

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2月12日発売の雑誌『ケトル』は、特集のテーマとして「シャーロック・ホームズ」をピックアップ。「ホームズ&ワトスン解析」「ホームズ名言集」「ホームズのライバルたち」など、シャーロック・ホームズにまつわるあらゆる情報を紹介しています。ホームズといえば、まず思い浮かぶのは、椅子に座って話を聞くだけでたちまち答えを導き出してしまう驚きの推理力。我々と彼は、何が違うのでしょうか?

突然ですが、自宅の階段が何段あるかご存じですか? もしすぐに答えられたら、名探偵の素質ありかもしれません。当然、シャーロック・ホームズは知っています。『ボヘミアの醜聞』の冒頭で、彼は親友のワトスンと暮らす「ベイカー街221B」の部屋までの階段は「17段ある」と即座に答えています。

でもそんな些細なことを覚えているからといって、いったい何の役に立つの? そう思うかもしれません。しかし殺人事件のような難問を解決するためには、階段の段数のような“些細なこと”を知っていることが重要なのだ、とホームズは言うのです。

彼を名探偵たらしめているのは、一を聞いて十を知る驚異の推理力にあると思われています。事件の相談に来た人の話を少し聞いただけで、犯人をズバッと断言する。確かにホームズの推理力は並外れています。

しかし実際に小説を読んでみると、その印象はちょっと違います。むしろ、「僕は当て推量なんてしない。それは恐るべき悪習だ」(『四つの署名』)として、推理力に頼ることを戒めているのです。では、なぜホームズは真実を暴くことができるのか? 彼に言わせると、それは自分以外の人々が「現実をしっかり観察していない」からなのだそうです。

ホームズもワトスンも刑事たちも、殺人現場で同じものを見ています。しかし多くの人が自宅の階段が何段あるか知らないように、いろんなヒントを目にしながらも、「これは関係ない」と思い込み、現実をしっかり観察しようとしません。反対にホームズは、「些細なことはすべてが重要だ」と言います。まずは先入観を持たずに、ありのままの現実を観察する。そこから犯人につながる意外な証拠を見つけるのです。

しかし、それは重要なヒントかもしれないと気がつくためには、常日頃からあらゆることに興味を持ち、一見ムダに思える知識も身につけておく必要があります。だからホームズは、タバコの灰の種類、ファッションの流行、ロンドンの地域別の地質の違いなど、何の役に立つか分からないことも徹底的に研究します。

ホームズは教えてくれます。些細なことに興味を持ち、知識として身につけることの大切さを。人を驚かせる発想は、物事を人と違った視点で観察することから生まれるのだと。その教訓は、どんな仕事術よりも普遍的な知恵であり、時代を超えて伝えられるべき、生きていくうえでの「基本(elementary)」なのです。

◆ケトル VOL.29(2016年2月12日発売)