米国で対北制裁の強化法案が成立する見通しとなっている。核・ミサイル開発のみならず、ぜいたく品の輸出入、人権侵害、マネーロンダリング(資金洗浄)、サイバー攻撃なども対象に含めた包括的な内容だ。

もちろん、そのすべてが額面通りに運用されるとは限らないし、実効性より政治的な意味合いが重視されている部分もある。しかし、たとえそうであっても、人権問題が法案に含められたことは歓迎したい。

キューバ政府は、米国との国交正常化交渉入りに伴い、政治犯53人の釈放を約束。これが実行されたことを受け、米国務省は「非常に前向きな動きであり歓迎する」と表明していた。

米国と国交を結ぶのに政治犯の釈放が必須であるなら、それは北朝鮮にはとうていムリな相談だ。何しろ、北朝鮮の政治犯収容所ではすでに万単位、あるいは十万単位の人々が凄惨な虐待の末に殺されている。そして今なお、同じくらいの数の人々が囚われ、虐待を受けている。

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「政治犯収容所」の実態

その人々が自由を手に入れ、世界に向かって真実を語り始めるなどという事態は、それこそ北朝鮮の体制にとって「悪夢」であり「自殺」に等しい行為だ。金正恩体制がいくら米国との関係改善を待望しているとしても、それを実現するために「自殺」してしまっては話にならない。

米国もまた、最近まで政府としては、人権問題を前面に出してはこなかった。米国にとっては、自国の安全保障に直接影響する核・ミサイル問題の方が優先度は高い。彼らは交渉を通じてそうした危険要素を取り除こうとしているのであって、そのためには、北朝鮮に「見返り」を期待させなければならない。だから北朝鮮の体制を脅かす人権問題を真正面から取り上げ、金正恩氏を絶望させるのは「得策でない」と踏んでいたのだ。

しかしそれも、国連で北朝鮮の人権決議が繰り返されるに及び、少しずつ様相が変わってきた。金正恩第1書記は間違いなくプレッシャーを受けており、核やミサイルの「暴走」の裏には人権問題を巡る「絶望」があると筆者は考えている。

ということはつまり、米国も北朝鮮も遅まきながら、人権問題という互いに異なる意味で妥協できない(してはならない)テーマを直視するに至りつつあると言える。

米国は今後、政治犯収容所の膨大な人命を無視し、自国の安全のためだけに北朝鮮と取引きすることがいっそう難しくなるだろう。そうである以上、金正恩氏の暴走は加速し、国際社会の軋轢は増す。

そうするうちに関係各国は、北朝鮮の民主化が自国安保にとって至上命題であることに気付くはずだ。