新しいお店が次々と生まれる一方、古くから地元で愛される名店が同じエリアに並ぶのが麻布十番という街。

ここでは一度訪れると誰もが虜になる、麻布十番の味な名店をご紹介!



レモンサワー、焼き物盛り合わせ(5串)。「親父の気まぐれ盛りです(笑)」と3代目。この日は右から、レバー、シロ、ハツ、タン、やきとりもも肉。創業以来、継ぎ足しというタレの旨みは濃厚だ。焼きとんはカシラやナンコツもある。店頭でテイクアウトも販売している
※時期などによって、メニューの変動あり。
1933年創業!
創業時から不変の焼きとんで魅了する『あべちゃん』

麻布十番


なるほど、開店までまだ15分もあるというのに軒先には人影がちらほら。

「昔はもっと遅い時間からオープンだったはず」。この街で知らぬ人はモグリと言い切れる、焼きとんの名店だ。「だから開店前にある程度、焼いておかないと間に合わないんです」そう言って微笑む3代目の阿部慎太郎氏。



ミミガー、新鮮キャベツ。ピリ辛ダレで食べるミミガーもキャベツも「4、5年前にメニューに載せた料理」。キャベツは元々、焼きとんの下に敷いていたが、「キャベツだけ頂戴」という声が多く、ならばと焼きとんのタレをかけて単品料理に

屋台で創業し、今の場所に店を構えたのは戦後間もなく。焼き場に立つのは2代目の阿部英機氏で、見る見るうちに串焼きを仕上げていく。熟練の手捌き。少し甘めのタレに潜らせ、焼き台にのせればグッと胃袋を掴まれる、香ばしい匂いが立ち上る。

「ウチの肉は厚いからね、じっくり焼かないと」。2代目の言葉通り、肉は大きく、艶かしい質感で思わず見惚れてしまうほど。

「行きによろうか、帰りにしようか、ならば行きにも帰りにも」。箸袋に書かれた言葉通り、この店には開店前でも立ち止まってしまう、魔性の説得力がある。



黙々と焼く2代目。肉汁が滴るたびに美味しい煙が立ち上る。火元は3つあり、それぞれで異なる火力。場所をこまめに替えて絶妙の加減で焼き上げる



〈名店の理由〉
“樹齢”40年!年季の入ったタレの壺


焼き台の前に置かれたタレの壺は2代目いわく、「40年ぐらいは経っているかな」という代物。串を浸けては焼き、浸けては焼きを繰り返しているうちに、壺の周囲に、まるで樹齢を重ねた木のような太いタレの“幹”が形成された。


お客さんはほぼ常連!麻布十番の中華の名店が登場!



担々麺。ランチタイムでもよく出る人気の麺料理で、胡麻が豊かに香るスープは豆板醤や辣油も効いており、ピリッとほどよい辛さ。今日の青菜は小松菜で箸休めにちょうどよく、細くてパツパツとした食感の麺も旨い。タンメンや五目そば、ネギそばなども人気で常連によって贔屓にする麺料理が必ずあるのも『永新』の個性
1961年創業!近隣に住む常連がこよなく愛する
中華の名店『永新』

麻布十番


コアなランチタイムはとっくに過ぎた昼下がり。それでも、ひっきりなしに訪れる常連たち。「ここはネギそばが美味しいんだよ」「お、担々麺、初めて見た。それも良さそうだね」。挨拶を返しながら、店主の楊伸峰氏は言う。

「いらっしゃるのは知っている方ばかり。一見さんは入ってこないです。表のサンプルを見て『高い』で終わっちゃう(笑)」。確かに、いわゆる街場の中華料理店と比べれば値段は少しだけ高いのかもしれない。けれど、あえて断言してしまおう。この店は何を食べても旨い。



牛肉ピーマンの細切り炒め。美しく切りそろえられ、手早く炒めることでキラキラと輝く具材。時間が経ってもダレることのない仕上がりに、楊氏の実力を知る。もちろん、食べても納得の美味しさ。で、シャキシャキの食感。思わず、新潟から直送される米を炊いたご飯がほしくなる

その鍵を握るのはスープ。素材ももちろん大切と断りつつ、楊氏も「これが決まらないと料理の味が決まらない」と認める。

鶏をベースに「あとはいろいろ」使って仕込んでいる。楊氏がこの店に入ったのは25年ほど前。十数年前には経営まで引き継ぎ、自身の味を追求してきた。

「話すことなんてないですよ(笑)」。ひらりと質問をかわすが、腕は確か。何より、常連の笑顔がその実力を雄弁に物語っている。



餃子(5個)。キャベツと挽肉であんを作った餃子は驚くほどのジューシーさ。そのまま食べて十分に美味しく、焼き目も香ばしい。常連に愛される理由がよくわかる逸品



パティオ十番からすぐのところに店を構えて半世紀以上。街で愛される中国料理店だ。外観は創業当時のままで、建物自体も変わらないそうだが、店内は清潔感ある造り。2階席もあり、夜は宴会を楽しむ客もいる



〈名店の理由〉
自慢の麺の味の礎となるスープ


先代から店を継いだ後、徐々に自身の味を出してきた楊氏。広東料理の店で働いていた実績があり、この店でも本格スープを丁寧に取っている。そのほか、甜麺醤など、自家製で用意する調味料もあり、だからこそ、旨いのだ。


麻布十番で魚が食べたくなったらここで間違いなし!



おまかせ刺身盛り合わせ。仕入れに応じて刺身で旨い魚を提供。この日は、サヨリ、ブリ、平目とエンガワ、しめ鯖の5種類を盛り合わせる。「いろいろブレンドしている」特製刺身醤油やポン酢などをお好みで
昭和初期創業!
魚屋のノウハウを活かして鮮魚の魅力を伝える『魚可津』

麻布十番


元は昭和初期に創業した鮮魚店。6年前まで併設で営まれていたが、時代の要請を受け、今は料理屋一本で勝負している。

「仲買は魚屋時代からの付き合い。今でも毎朝、築地に行って、実際に見てから良いものは箱で買い付けている」。そう語るのは3代目の正木秀逸氏。



きんめの煮付。冬に美味しい魚の代表だが、上品な味付けで、本来の旨みが存分に感じられる仕上がり。ゼラチン質でトロッとした部分、脂ののった部分など、お頭だからいろいろな味わいが楽しめる

広い厨房では、今朝仕入れた鮮魚が次々と捌かれている。「今日のセイゴはカマ残しで頭落とし。半身骨付きで」魚を見極め、その日の料理を思い描く3代目の指示を受けて、テキパキと仕事をこなす料理人たち。

こうした仕事に宿るのは鮮魚店のプライドそのもの。「すべては美味しい魚のために」。メニューに書かれたこの標語が、『魚可津』のすべてを物語る。



麻布十番商店街にあり、1階の交差点に面した角が魚屋時代の入口だった。今はそこもテーブル席。2階には小上がりもあり、グループでの会食にも対応。ランチタイムは定食を提供して人気



〈名店の理由〉
元・鮮魚店だからこその練達の仕込み


魚屋併設時代を知る真保大輔氏。コケヒキと呼ぶ鱗取りを済ませたら次は二枚おろし。あっという間に仕上げていく。「今日は全然、少ないッス。スゴいときは戦争状態ッス(笑)」。ハキハキした受け答えもさすが。


〆のラーメン代わりに、韓国スープはいかが?



タッカルクッス。牛骨のスープに、具材の鶏とじゃがいもからエキスが溶け出して複雑な旨さを醸成。スープを吸ったうどんも美味しく、煮込んでも崩れにくい
韓国の家庭料理を多彩にそろえる
心も和む専門店『シモン』

麻布十番


開店は今から20年程前。当初は「六本木に近いから、〆のラーメン代わりに、韓国スープもいいんじゃないかと」。飄々と、店主の永井茂伸氏は言う。

だから、今でも店頭の看板には「スープ専門店」の文字。もちろん専門ではなく、一品料理もたくさんそろっている。今や名物のチョンゴル(鍋料理)がタッカルクッスだ。

牛骨から取ったベースのスープに、鶏とじゃがいもを投入。少し透明感のある「特殊なうどん」も入れ、刻みネギもたっぷり散らす。それにしても、このボリューム。

「そうですね、おふたりだと鍋にもう一品で結構な量になるかもしれませんね」。五臓六腑に染み渡るスープの滋味はもちろんだが、永井氏の気負いのなさも、この店の魅力だ。



〈名店の理由〉
骨から抽出するトロトロのスープ


味の要は牛骨で作るスープベース。「難しいことは何もしていません」。そう語る永井氏だが、牛骨を随時、追加しながら長時間煮込み、できたら冷やして余計な脂を取り除いて完成する。手間ひまは少しも惜しんでいないのだ。


最後にやっぱり落ち着く、正統派居酒屋をご紹介!



ナスと挽肉の炒め煮。5種類がそろうお通しの中の一品。この日はほかに、春雨のサラダ、高野豆腐とがんもどきの含め煮、南瓜の煮付、青菜のお浸しというラインアップ。大皿に盛られてカウンターの上に並ぶ。それを見て選ぶ客。そこから「今宵も美味しい料理と酒」を標榜する『はじめ』の一夜が始まる
創作料理も唸らせられる
真っ当な居酒屋のお手本『家庭料理 はじめ』

麻布十番


営業が始まる数時間前、静かに仕事をする主人・西山功氏の姿がカウンターの向こうにあった。ボウルの中で春雨と野菜、調味料を入れ、丁寧に和えている。「材料にあまり手をかけず、なるべくいじらないようにする。それがポリシーでしょうか」

創業は天現寺で、麻布十番に移転してから数えてもすでに30年以上。秘かに愛されてきた名店だ。先ほど、和えていた春雨は毎日、5種類を用意する、お通しの中のひとつ。客は好みで選ぶことができる。厚揚げを頼めば、同じ街にある豆腐屋から仕入れた木綿豆腐の水気をしっかり取って、一丁丸ごと揚げていく。



納豆かき揚げ、燗酒(1合)。にんじん、ねぎに納豆を合わせて揚げた人気の一品。納豆が香ばしく、サクサクとした食感で酒が進む。自家製厚揚げも「最近、人気の一品」で、こちらは揚げたてに、今なら大葉、おかかと刻みねぎをという薬味をたっぷりのせて、特製の醤油ダレで食す

「田舎料理ですよ」。西山氏は謙遜するが、こういう店を、良い店というのだろう。ただ真摯に調理し、誠実に客に提供する。

心和む家庭的な味だが、どこかに、家庭では決して出せない奥深さのようなものが宿っている。「うちに、ほかで食べられない料理なんてないですよ」と笑う西山氏。けれど、この安心感、ほかでは決して得られない。



イワシしそ巻揚げ。手開きにしたイワシの身を醤油ダレで軽くヅケに。長ねぎの筒切りを芯にして、大葉とイワシを巻き込み成形。カリッと揚げる。イワシの旨みと大葉の香りも楽しめる一品で、ポン酢をつければさっぱり食すこともできる



定番料理のほか、その日のおすすめは黒板に。素朴な料理の数々で、知らず知らずのうちに長居してしまうナスと挽肉の炒め煮。5種類がそろうお通しの中の一品。この日はほかに、春雨のサラダ、高野豆腐とがんもどきの含め煮、南瓜の煮付、青菜のお浸しというラインアップ。大皿に盛られてカウンターの上に並ぶ。それを見て選ぶ客。そこから「今宵も美味しい料理と酒」を標榜する『はじめ』の一夜が始まる



〈名店の理由〉
好きな一品を選べる実直な味のお通し


日々の仕入れで替わる、お通しは全5種を常に用意。開店当初から続けられてきた。ひとつひとつを丁寧に仕上げていく西山氏。「酒にどう合わせるかという、肴としての家庭料理です」。好きなものが選べる気遣いに、心も和む。