「木曜夜8時にテレビの前に座り時代劇をご覧になろうっちゅう善男善女のみなさんには釈迦に説法ですが……」
NHK総合の木曜時代劇「ちかえもん」の先週放送分(第4回)を見ていたら、いきなりテレビのなかから近松門左衛門(松尾スズキ)に呼びかけられた。何かと思えば、寺坂吉右衛門について近松直々に解説しようという趣向であった。


黒田屋は赤穂義士の残党なのか


目下、赤穂義士の物語を執筆中の近松、その冒頭には吉良邸討ち入りを遂げた義士らが切腹する場面を持ってきた。そこから時をさかのぼり、なぜこのようなことになったのか顛末を書いていくという構想に「趣向の妙ちゅうやつや!」と自画自賛する近松だが、それを聞かされた万吉(青木崇高)はすかさずダメ出し。「あんまり面白いことおまへんな。ちょっと変わったことしてウケたろいう考え見え見えや」とばっさり斬り捨て、そもそも「討ち入りしたんは四十七人、腹切ったん四十六人や」というのだ。

赤穂四十七士から一抜けしたのは誰か? それが誰あろう寺坂吉右衛門だった。物語の構想を練るうち、近松のなかでふいに寺坂と、そのころ大坂で大儲けしていた油問屋の黒田屋九平次(山崎銀之丞)とが結びつく。思い返せば、黒田屋が大坂に現れたのは前年末(元禄15年12月)とちょうど赤穂義士の討ち入りの時期と重なるし、その行動にも彼が寺坂だと考えれば腑に落ちる点が多々ある――と、勝手に確信する近松。「わしの目に狂いはない」と言い張れば、なじみの遊女・お袖(優香)から「狂いっぱなしやないか」といなされる。

この間、平野屋の若旦那(いまは手代として修業する身)の徳兵衛(小池徹平)が、天満屋へ恋仲の遊女・お初(早見あかり)に会いに来たところを奉行所に捕えられる。しかし黒田屋の口利きであっさり釈放。それにしても、徳兵衛はなぜ「不孝糖を売っていた」という不可解な理由で捕えられ(そもそも不孝糖売りの親分は万吉なのだが)、しかも彼のため黒田屋が動いてくれたのはどういうことか? 近松はこれについても、元赤穂藩家老の大石内蔵助から商いにかかわる密命を帯びた寺坂=黒田屋は、任務遂行には平野屋の協力も必要と考え、あえて商売敵の息子である徳兵衛を助けたのだろうと、自信満々に推理してみせる。そのさなか万吉が、道端で黒田屋と徳兵衛を捕えた与力の高部(瀬川菊之丞)が何やらひそひそと話をする場面を目撃してしまう。

近松&万吉の「元禄探偵物語」?


真相を聞き出すべくいざ黒田屋へ、にわかに降り出した雨のなかを「君に会いに行かなくちゃ」と井上陽水の「傘がない」をBGM(歌うのはいつものとおり近松本人!)に駆け出す近松。そこへ万吉も合流する。もちろん、さっき見た与力との関係を聞き出すためだ。

ここから物語はがぜん探偵物の様相を呈す……のだが、結論からいえば、近松と万吉にはまるで探偵の素質がない。万吉は黒田屋が徳兵衛を助けた理由を、自分の売る不孝糖を狙っての計略だろうと言い募るし、近松は近松で、ずっと黒田屋を寺坂吉右衛門と信じて疑わない。思いこみの強さは、物語作者にとっては強みとなっても、探偵向きではないだろう。

近松はついに黒田屋に面と向かって「寺坂さん!」と口走り、滔々と自分の見立てを語り出す。大石内蔵助より元赤穂藩主の浅野家の再興を託された寺坂は、そのための資金を集めるべく大坂で商人になりすましたのではないかというのだ。

このとき「あんた、消えた四十七人目の赤穂義士、寺坂吉右衛門でっしゃろ」と近松から問い詰められた黒田屋、しばし間を置き、「いかにも。私が寺坂吉右衛門です」と白状する。この間の置き方といい、あっさり認めてしまったことといい、いかにもくさいのだが、近松は喜ぶばかり。これにつけこんでか、黒田屋はさらに、赤穂事件の発端である浅野内匠頭の切腹も、義士の討ち入りも切腹も、すべては自分が藩中で身分の低さゆえさんざん蔑まれてきた怨みからたくらんだことだと、鬼気迫る表情で告白した……かと思いきや一転、笑みを浮かべ「そういった筋が、私には好みです」と話をひっくり返す。ストーリーテラーとしても黒田屋は近松より一枚上手であった。

家に帰ってから、万吉がようやく黒田屋はうさんくさいと気づいたのに対し、近松は頑なに寺坂吉右衛門と信じてやまない。そこへ母・喜里(富司純子)から、井戸端会議で得た情報として、寺坂は大坂にはいないと伝えられ、話は振り出しに戻る。

ちょうどそのころ、黒田屋が天満屋でお初相手に平野屋乗っ取りのたくらみを打ち明けていた。先の徳兵衛の逮捕劇も、その陰謀のため与力と仕組んだものだったのだ。しかしお初がほかならぬ平野屋の徳兵衛と恋仲であることは黒田屋も承知のはず。なのになぜそんなことをわざわざ自分に教えるのか? お初が問えば、黒田屋は「おまえは徳兵衛に惚れてなどいない。ねらいは平野屋……忠右衛門だろ?」と見透かしたように高笑い。これに対し彼女は図星という表情を見せるのであった――。

蛇の道は蛇で、何かをたくらむ者は、他人のたくらみにも敏感なのか。それにしても、まさかお初が徳兵衛の父・忠右衛門(岸部一徳)を狙っていたとは。これは一体どういうわけか。テレビの向こうの善男善女の胸をザワザワさせたところで、物語は今夜放送の第5回に続く!

お初がくちずさんでいた一節にはどんな意味が?


さて、毎週このレビューを読んでくださっているみなさんには釈迦に説法でしょうが、「ちかえもん」でいちばん謎なのはほかの誰でもない、万吉だろう。アホなようでいて、たびたび近松に対し鋭い言葉を発する彼は一体どこの何者なのか? 回を追うごとに気になっている人は少なくないはず。

第4回でも、万吉は先述のとおり近松の原稿の間違いを指摘したうえ、「家に籠って書いてるさかい、世間に疎うなりまんねん。もっと表に出かけんと、ほんとに恥かきまっせ」と物書きには耳の痛いセリフを吐いていたし、さらにラストでは、喜里にせがんで寝しなに読んでもらった近松作『出世景清』(よりにもよって息子の作品を寝物語に選ぶ母ちゃん、すげえ)の一節が、以前、お初が天満屋の女将に折檻を受けた際にくちずさんでいたものであることに気づく。何という記憶力だろうか。

ちなみに『出世景清』はこのドラマの時代より18年前の1685年、近松33歳の出世作で、平家の落武者・悪七兵衛景清の源頼朝に対する復讐劇だ。お初がくちずさんでいた「父は都の六波羅へ 虜(とりこ)となりて あさましや」は、同作中の「小野姫道行(おののひめみちゆき)」という段の一節である。小野姫とは景清の妻のこと。作中、頼朝方の武将たちは、京・清水寺に立て籠もった景清をおびき出すべく、小野姫の父である熱田神宮大宮司を六波羅(鎌倉幕府の京都出先機関)に捕えてしまう。くだんの一節は、小野姫が父の身代わりになるべく、熱田(尾張)から京へ向かう場面に登場する。

こうして元ネタを確認するにつけ、復讐劇の一節をお初がくちずさんでいたことは何やら意味深に思えてくる。古典マスター・藤本有紀による脚本のまさに本領発揮といったところか。ドラマも全8話のうち半分をすぎ、いよいよ佳境に入ろうとしている。
(近藤正高)