乳がんを患った妻との闘病手記を出版した清水アナ

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 読売テレビの生放送番組『かんさい情報ネットten.』でメーンキャスターを務める清水健アナウンサー(39才)が、乳がんを患った妻との闘病生活を振り返った手記『112日間のママ』(小学館)を出版した。

 清水アナの妻・奈緒さん(享年29)は、2014年3月に妊娠がわかる。しかし、同年4月30日、奈緒さんの左胸の下の脇に近い部分に乳がんが見つかった。奈緒さんは、出産を選択。2014年10月に長男が誕生したが、奈緒さんの体は病魔に蝕まれていく。そして、2015年2月11日、奈緒さんは息を引き取った──。

 日本で乳がんを患う女性は1年間で約8万人、12人に1人が罹るといわれている。これまで有名人でも田中好子さん(享年55)や川村カオリさん(享年38)らが乳がんで亡くなっているが、壮年女性(30〜64才)のがん死亡原因1位というデータもあり、すべての女性にとって決して他人事ではいられない病気だ。

 昨年は、元プロレスラーでタレントの北斗晶(48才)が乳がんで手術。その後リンパ節への転移と「5年生存率は50%」と宣告されたことを明かし、女性たちに衝撃を与えた。

 ただ一言に乳がんといっても、進行度合いを示す「ステージ」とは別に、増殖が活発か比較的おとなしいかなどを示す、主に4つの「タイプ」がある。「ホルモン受容体」と「HER2」がそれぞれ「陰性」か「陽性」かで、タイプは大きく分類される。日本乳癌学会乳腺専門医のナグモクリニック南雲吉則院長が説明する。

「最近の研究結果で、従来の抗がん剤治療に、ホルモン療法や分子標的薬を併用することで、多くの乳がん患者の命が助かるようになったことがわかりました。これらのタイプは、その有効な治療法を判断するものです。

 例えば『ルミナルAタイプ』(ホルモン受容体陽性、HER2陰性)は、乳がん全体の60〜70%を占めるもっとも多いタイプ。おっぱいは女性ホルモンで成長する臓器で、基本的に乳がんも女性ホルモンをえさに成長します。それがホルモン受容体陽性で、ホルモン療法が効果的です。しかし女性ホルモンがなくてもどんどん成長する乳がん、つまりホルモン受容体陰性となると、非常にタチが悪く、ホルモン療法は効果がありません」

 HER2とは、がん細胞の表面にある抗原タンパク質のことで、これを持っている(=陽性)と、分子標的薬による治療が可能になる。

「HER2陰性の乳がんでは、分子標的薬による治療の効果がないとされます。つまり、ホルモン受容体陰性で、HER2陰性の『トリプルネガティブ』では、ホルモン療法も分子標的薬療法も効果が期待できないため、治療法としては抗がん剤治療しかない。進行度も早く、予後が悪く、肺・肝臓・骨・脳などへの遠隔転移が多く認められ、命にかかわります」(南雲院長)

 2014年5月7日、精密検査の結果、奈緒さんの乳がんはこの「トリプルネガティブ」という診断結果だった。その時妊娠15週目頃だった奈緒さん。35才未満の若い女性の乳がん患者は、厚労省の発表によれば、乳がん患者全体の3〜6%程度と少なく、「妊娠中の乳がん患者は1%以下」とさらに少ない。聖路加国際病院・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内英子医師が言う。

「妊娠期に乳がんに罹患する女性は妊娠している女性の3000人に1人といわれているんですが、最近は増えていく傾向にあるかもしれません。昔は20代や30代前半で出産する女性が多かったのが、今は女性の社会進出もあり、30代後半から40代前半で出産する女性も珍しくなくなり、高齢出産されるかたが増えています。そのようななかで乳がんの罹患年齢のピークである40代と重なることもあります」

◆見つかった亡き妻の日記

 乳がんは、早期に発見して適切な治療を受ければ、より高い確率で完全に治すことができるがんでもある。

 1月に国立がん研究センターは、全国がん(成人病)センター協議会の協力を得て初めて集計したすべてのがんの10年生存率を発表した。大腸や胃が50%以上70%未満、食道が29.7%だったなかで、乳がんの10年生存率は80.4%にものぼった。

 しかし奈緒さんの診断結果は、清水アナを絶望の淵へ追いやった。奈緒さんの乳がんは「トリプルネガティブ」であるばかりでなく、増殖が早いタイプで、手術をしても、現時点で、再発率50%ということがわかったのだ。当時夫妻の相談にのっていた、日本で最初にオープンした出生前診断の専門クリニック『クリフム夫(ぷう)律子マタニティクリニック臨床胎児医学研究所』の夫律子院長が振りかえる。

「健ちゃんは、ひとつひとつの治療法にしても、自分でトコトン調べるんですよ。徹底的に調べて、それでそれを今度は自分の目で確認するんです。その治療法をやられている一番手の先生に会いに行かれたりして、キチッとしたことを自分で確認するんです。妻が重い病気だったら仕事にかこつけて逃げていく男性も少なからずいるのが現実です。でも、健ちゃんは忙しい仕事をやりながら、奈緒ちゃんとも病気とも正面から向き合っていました」

『112日間のママ』には、こんな記述がある。

《「すぐに手術、そして治療に入りましょう」
 この言葉の意味することは、
「出産を諦めるのか、諦めないのか」》

 清水アナが言う。

「奈緒が亡くなってから、日記が出てきたんです。B5くらいの大きさで、かわいいお人形が表紙のノートで、闘病中は、突然入院したこともあって日記を持って行けないこともあったんでしょうね、走り書きのある紙切れもはさんであったり…。思い切って開いた1ページ目に『健さんが、私が死ぬことを前提に考えていることがすごく悔しい』って書いてあったんです。これはぼくが今、いちばん後悔していること。『一緒に頑張ろう』『そんなデータ関係ない。おれたちなら大丈夫だよ』って、なんで言ってあげられなかったんだろうって…」

◆妊娠中の抗がん剤投与

 この子を産みたい──そんな奈緒さんの思いが、清水アナだけでなく周囲を動かした。滋賀県にある乳腺クリニックが、「3人で生きたい」という思いを受け止めてくれたのだ。

 奈緒さんのステージは、超音波検査などから「II期」以上。すでに遠隔転移している疑いも拭えなかった。きちんと調べるためにはCT検査やMRI検査が欠かせないのだが、赤ちゃんへの影響を考えるとそれを行うことができない。しかも進行の早いトリプルネガティブ。それらを踏まえ、奈緒さんの治療方針が「手術→抗がん剤→出産→CT・MRI→抗がん剤→放射線治療」と決まった。

 ここで妊娠中の抗がん剤投与に驚かれたかたもいるだろうが、実は妊娠中に抗がん剤を投与した際、赤ちゃんにどんな影響があるのかというデータがそろったのは最近だという。というのも、抗がん剤治療が始まったのは1960年代からで、妊娠している女性に抗がん剤を投与したデータが出たのが1999年。前出の山内医師によれば、そのデータを受け、聖路加病院でも妊娠中の乳がん患者に対する抗がん剤治療を行える体制を整えてきた。

「妊娠初期(16週目未満)に抗がん剤を使うと子供の成育に影響を与える可能性が高いので手術は行えますが、抗がん剤治療はできません。またいつ赤ちゃんが生まれてもおかしくない状態の妊娠35週目以降も、基本的に抗がん剤治療は行いません。抗がん剤治療を行うと2週間ぐらい、白血球が下がるので、その時に出産して感染症にでもなったら大変なことになるからです。逆にいうと、妊娠中期(妊娠16週〜28週未満)であれば抗がん剤治療ができるのです」(山内医師)

※女性セブン2016年2月25日号