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●人工知能の進化で人間に残される仕事
今、ITの世界で最もホットなバズワードである人工知能(AI)。人工知能がやがてビジネスの世界にも影響を与えるのは免れないことは、前回紹介した。果たして人工知能は今後どのように進化を遂げ、ビジネスパーソンはそれに対してどう対処していけばいいのか。人工知能開発のエキスパートであるセバスチャン・スラン氏に、人工知能時代のビジネスシーンの将来像を伺ってみた。

○人工知能が仕事を進化させる

セバスチャン・スラン氏は、米Google社で先進的技術の開発部門である「Google X」を創設し、自動運転車やGoogle Glassの開発を率いた人物だ。スラン氏はGoogle Xで自動運転車の開発を進めるにあたって人工知能(機械学習)を採用し、目覚ましい成果を挙げた。現在は科学技術・工学・数学などの分野の教育を提供する「Udacity」のCEOを務め、教育分野に力を入れている。

今回、人工知能を搭載したERPシステム「HUE」の発表に合わせて来日。HUEのデモンストレーションを見たスラン氏は、同システムで仕事の効率が高まることは認めつつも、同時に「ある分野では仕事が減る」とも警告する。

「あと数年すると、大企業の社長が会計士に『今後はコンピュータに会計をまかせるよ』という時代がくるかもしれない」(以下、発言はスラン氏)

そう言って、今後、数年〜数十年で消滅する業種をリストアップして見せた。この中には秘書やパイロット、会計士、弁護士といった、現在では花形といってもいい知的職業も多く含まれているが、スラン氏によればこういった職業の多くは反復作業をしているに過ぎず、クリエイティブな作業ではないのだという。

確かに、パイロットならすでに自動パイロット装置があり、飛行場によっては自動装置の利用を義務付けているところもある。会計士や税理士は本質的にはルーチンワークだし、過去の判例と突き合わせるといった作業においては、人間よりも人工知能のほうがはるかに素早く正確だ(米国ではすでに、特定ジャンルに特化した人工知能を導入した法律事務所もある)。複雑な事件でもなければ、若手の弁護士で足りるような仕事は人工知能がやればいい、というわけだ。

スラン氏は技術の進歩に伴って一定の職業がなくなり、機械に置き換えられるのは、避けられないことだという。グーテンベルグの印刷機によって写筆家が職を失い、産業革命によって多くの手工業が機械工業に取って代わられたように、現代でも技術の進歩によって仕事自体が変わらざるをえない。しかも、その変革は想像しているよりもずっと早くやってくるというのだ。

●人工知能が生み出す変革
○人間はより高度な仕事へシフトする

スラン氏の語るように、人工知能が90%もの仕事を肩代わりしてくれるのであれば、人間は残り10%にもっと力を注げるようになる。過去に調べ物といえば辞書や書籍をめくるしかなかったものが、今は検索エンジンにまかせれば、たいていの情報は百科事典よりも詳しく、瞬時に調べられる。調べ物における検索エンジンの役割を、さまざまな業務で担うのが人工知能というわけだ。

それでは、具体的にどの程度の仕事が機械に取って代わられるのだろうか? ホワイトカラーについては、スラン氏は「反復作業はすべて」と断言する。

報告書や請求書の作成といった作業はまさに、反復作業の典型例だ。一方で「弁護士の仕事も90%はなくなるでしょうが、10%は置き換えられないと思います」ともいう。要は、誰でもこなせる仕事(Low IQな仕事)は人工知能がとって替わり、人工知能がカバーできない高度な知識や技能を要する仕事をこなせる人だけが生き延びられるということだ。

また、自分の職種が前述のリストに入っていないといって安心してはいられない。スラン氏は「なんでもいいから職業を1つ、人工知能に1年間学習させてみれば、おそらく人間よりも効率的にその仕事をこなせるようになるでしょう」とも言っているのだ。

確かに、一部の創造的な業種を除けば、仕事の大半はルーチンワークだったり、過去の事例から類推できることが多く、これらは人工知能がカバーできる範囲だ。このままいけば、やがて現在の人間の仕事の多くは人工知能に取って代わられてしまうのは避けられないようだ。

○人工知能が新たな身分制を生み出す?

一方で懸念もある。企業内の人員はやがて、方針を決める一部の人間と、会社のオペレーションに必要な最小限の人間、そして大量の人工知能だけで賄われることになり、人工知能を使える人間と、人工知能に使われる人間の2種類に大きく分けられてしまうのではないか。いわば、新たな身分制の登場だ。それによって職を失う人もいるかもしれない。

しかしスラン氏は、憂慮ばかりしなくてもいい、とフォローする。「たとえば農業はテクノロジーが関与したことで、400年前と比べて、98%の仕事がなくなりました。鍬や鋤を使って手作業で行っていたものが、機械に置き換えられたのです。しかし、テクノロジーがあることで、パイロットやプログラマー、サウンドエキスパートといった新しい職種が生まれました。だから無職になるわけではありませんし、人はそもそも、働きたい生き物だと思います。きっとやることは見つかります」。

確かに、コンピュータが登場する前は職業プログラマーや、果てはプロゲーマーといった職種が登場すると想像した人はいなかっただろう。たとえば人工知能を搭載したロボットが警備員の仕事を奪うかもしれないが、同時に警備ロボットのメンテナンスという新たな仕事が現れるはず。勤労意欲のある人は、決して悲観するばかりでなくともいいというわけだ。

●賢くなる人工知能にどう対応するか
○変革に備えるために学び続ける

今後、ほとんどの業種で人工知能が関わってくるのは、もう避けられない。人工知能に仕事を奪われる可能性を前提に、ビジネスマンはどのように備えればいいのだろうか。スラン氏は新しい時代に備えるにあたり、教育の重要性について指摘する。ビジネスマンも、人工知能の登場に備えて、新たなテクノロジーか、あらたな職種について学ばねばならないというわけだ。スラン氏自身、Udacityにおいて、社会人への教育に力を入れている。

「教育というのは、人生のある一時受けるものだという考えをやめなければなりません。生涯教育です。人生のお供であり、一生やり続けるものです」。耳の痛いことだが、新たな時代に向けて学ぶ意欲がなければ、適応していけないという指摘は確かだろう。

Udacityでは特にシリコンバレーで必要とされる職種に必要とされる、カリキュラムを無料で受講できる仕組みを用意しているが、これはすべての人が受けられる内容ではない。どんな職種であれ、自分自身のレベルを客観的に判断し、冷静に自分が学ぶべき内容を把握することが大切だ。

「時々辛いと思うのは、労働者の多くが、新しいことを何も学びたくないということです。学ぶということが素晴らしいということを、そうした人たちに伝えたいですね」とスラン氏が語るように、現状の仕事をこなす忙しさのあまり、新たなことを学ぶ努力は怠りがちだ。しかし、今後、仕事のスタイルがこれまでと大きく変わる時代が到来するにあたり、学ぶ努力を怠らなかった者が生き延びられる時代が来るだろう。常にアンテナを広く張り、新しいものを積極的に取り入れていく姿勢こそが、人間が人工知能と共存していくために求められる資質ということになるだろう。

(海老原昭)