古矢旬北海商科大学教授(元東京大教授)が「米大統領選―米国のポピュリスト政治」をテーマに講演した。米国では格差が急拡大し、国民大衆が不満を募らせており、国が分断されている、と分析。「左右のポピュリズム対決と言われている」と指摘した。

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2016年2月8日、古矢旬・北海商科大学教授(元東京大教授)が「米大統領選―米国のポピュリスト政治」をテーマに日本記者クラブで講演した。米国では格差が急拡大し、国民大衆が不満を募らせており、国が分断されている、と分析した上で、今回大統領選挙の構図は「民主党のサンダース氏と共和党のトランプ氏による左右のポピュリズム(大衆主義)対決と言われている」と指摘。その上で、社会民主主義を掲げる民主党・サンダース氏に注目していることを明らかにした。

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同教授は、米国の政治社会分析の第一人者で、『アメリカニズム―「普遍国家」のナショナリズム』『アメリカ―過去と現在の間』『ブッシュからオバマへ―アメリカ・変革のゆくえ』などの著書がある。発言要旨は次の通り。

2016年の大統領選挙の構図は民主党のサンダース氏と共和党のトランプ氏によるが左右のポピュリズム対決と言われている。クルーズ氏はトランプ氏よりさらに過激で、白人のブルーカラー層に訴えている。レーガノミクス(レーガン政権の新自由主義経済政策)が主張したトリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるとする経済理論)も全く起きずに格差が拡大。民主党支持層を中心に不満を募らせており、国が分断されている。

ポピュリズムでは「敵探し」が頻繁に行われる。イスラム、移民に対する攻撃は代表的なもので、社会の不安定性や社会組織の「解体」などを背景としている。

ポピュリスト言説は一定の説得力を発揮するが、政治的には限界もあり、米国の歴史を見ても、マッカーシズム(1950年代にアメリカ合衆国で発生した反共産主義に基づく政治社会運動)などは短期間で潰(つい)えた。ただマッカーシズムは共和党右派に引き継がれ、適正な手続きの軽視、市民的自由の蹂躙、反エリート主義、反知性主義、陰謀論、反共主義、反リベラリズム、政府が市場経済に積極的に関与することへの嫌悪―などの特徴がある。トランプ、クルーズ候補の主張に近い。

一方で「80年代以降の格差拡大社会をどう理解するか」が大統領選で問われている。没落する人民=中産階級による新たな人種主義も勃興。スケープゴートとして移民、中東難民などがターゲットになった。社会病理現象が、「9.11」(米国同時テロ)以降顕著になった。ここでもトランプ、クルーズ候補が代弁する形だ。

階級社会の克服を目指す社会民主主義言説を民主党・サンダース氏が代弁、若年層を中心に人気を得ている。社会民主主義は資本主義と議会制民主主義を受け入れ、これまでになおざりにされてきた国民大衆という大規模社会層の利益を守っていこうというもので、これまでの米国にはなかった動きとして、注目に値する。

ポピュリズムを克服するための課題として、(1)米国の内外に敵を仮想することなしに、多様な人民を民主的な参加へと動員することは可能か、(2)既存の民主政治の濫用や失敗をネガティブに突き回すだけでなく、より多様で寛容的かつ平等な社会関係を、社会の末端から小規模な協同作業を積み重ねていくことによって実現しうるか―などが挙げられる。

正統ではないトランプ氏は大統領になれないだろう。ヒラリー・クリントン氏はかつての光り輝く存在感がやや薄れつつある。オバマ大統領の「黒人初」に続いて「女性初」を実現するか注目している。(八牧浩行)