のっけから、皆さまにお詫びをしなくてはならない。ここでルノーの4代目ルーテシアを取り上げるのが、ついに通算4回目となってしまった。「ヒイキにもほどがあるだろ!?」とのご指摘には、グウの音も出ない。

 日本における昨年(2015年)のルノー正規販売台数は、史上初めて5000台を突破して、5082台を記録した。そのうち36.3%がルーテシアだそうだから、昨年日本で売れたルーテシアは1850台弱。じつは、その約1850台のうちの1台はワタシのである。第95回で取り上げた"ゼン0.9L"を、昨夏に買ってしまった。「だからなんだ!」とのツッコミに返す言葉はないが、4代目ルーテシアがいいクルマであることは、ワタシが身をもって保証する。

 しかも、昨年末に発売されたルノースポール・トロフィー(以下、トロフィー)に乗ったら、また居ても立ってもいられなくなった。それは間違いなく、現時点でもっとも熱くて速いコンパクト・ホットハッチだったからだ。

 この"トロフィー"とは、既存のルノースポール・シャシーカップ(第66回参照)をベースにして、エンジンや変速機、足まわりに鼻のアブラを塗ったものである。

 フランス本国では追加設定の限定車あつかいのトロフィーだが、期間や台数などの限定条件は明言されていない。この種の限定スポーツ車では「一応は限定ですけど、売れている間はつくりますよ」というノリも少なくなく、このトロフィーもそのひとつと思われる。日本法人のルノージャポンはそのノリをうまく活用して、日本ではあえて非限定カタログモデルとして売ることにした。

 で、前出の"鼻のアブラ"の具体的成分......つまりトロフィー独自のツボには次のようなものがある。ハイグリップ専用タイヤを履いて、サスペンションもそれに合わせて硬くしてローダウン、クイックなステアリング。エンジンの20馬力/20Nmアップ、6速ツインクラッチ・オートマチックの変速動作を速めて......といったところである。

 また、4〜5速でアクセルをベタ踏みすると、オーバーブースト機能というのが作動して、瞬間的にトルクがさらに上乗せ(最大280Nm)されるのもトロフィー専用。もっとも、この機能は「日本の公道では使っちゃいけない領域の話だから」と、日本向けのカタログや資料ではあえて明示されていない。

 こうして中身はマニアックにイジったトロフィーだが、外観を写真で見るだけでは、従来のシャシーカップとほとんど区別がつかない。厳密には外装の数カ所に"TROPHY(=トロフィー)"の文字があしらわれる以外は、真っ黒だったホイールが一部シルバーになって、車高がちょっと低くなった程度で、これらのちがいは写真では表現しづらい。

 ただ、その車高が前20mm、後10mmと、あえて少し前のめりにローダウンされており、現物を目の前にすると、やはり独特の不敵オーラは増している。しかも、サスペンションもバネの硬さをそのままにダンパーだけを締めて......と、鼻のアブラが、なんとも通好みのシブい成分であるところがまたツボ。

 というわけで、トロフィーはこれまでと別物......とまではいわなくとも、ちがいは歴然。もともとキレキレだった操縦性はさらにキレッキレになり、パワートレーン切り替えを"RACE"というトップガンモードにすると、加減速も変速も"バシュバシュッ!"である。タイヤのグリップも明らかに高くなっているのに、タイヤにクルマが負けてフラつく兆候もまるでなし。乗り心地は少しだけゴツゴツ増しだが、そもそもルノースポールを買うような筋金入りなら、100人中98人は迷わず「どうせ買うならトロフィー!」だろう。

 ルノースポールにおける"トロフィー"の位置づけは、ヒマがあればサーキットに出向いて、自分のラップタイムを測って悦に入る......ような本格的な走りマニア向け商品。本域の性能はサーキットでしか引き出せないものの、ワタシのような下手の横好きがそこいらの山坂道で走っても、飛んだり跳ねたりせず、神経質に感じないギリギリ絶妙な寸止めのサジ加減が、ルノースポールの真骨頂。ここだけはホント、ほれぼれする名人芸。

 今回はいつもにも増して、オタク専門用語を羅列した暗号文めいていることを、つつしんでお詫びしたい。ただ、これに乗ったら最後、いろんなツボからいろんな快感物質が噴出することを保証する。昨今のルノーの好調は、こうしてオタク需要を根こそぎ、かっさらっているおかげもある。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune