北朝鮮が1月の核実験に続いて「ミサイル」を発射した。2002年の一般教書演説でブッシュ米大統領(当時)が、イラク、イラン、北朝鮮を、最も脅威となる国家「悪の枢軸」と非難したが、このうち北朝鮮だけが手つかずのまま放置され、核を保有するに至った。資料写真。

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2016年2月7日、北朝鮮が1月の核実験に続いて「ミサイル」を発射した。2002年の一般教書演説でブッシュ米大統領(当時)が、イラク、イラン、北朝鮮を、最も脅威となる国家「悪の枢軸」と非難したが、この3カ国のうち、北朝鮮だけが手つかずのまま放置され、核を保有するに至った。各国の対朝経済制裁の強化は必至だが、何故このタイミングで強硬策に踏み切ったのか。日米韓をはじめ国際社会は強く非難、朝鮮半島の非核化方針に沿って北朝鮮を説得してきた中国もメンツを潰された格好だ。

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核兵器の小型化が実現すれば、北朝鮮は核ミサイルを手にしたことになる。北朝鮮は2012年に金正恩第1書記政権スタートして以来以来、緩やかな経済成長軌道をたどってきた。北朝鮮は社会主義経済を堅持しながらも、工場など経済活動の現場に権限を与え、一定の範囲で自由な経済活動を許してきた。また貿易全体の9割を中国が占めるなど、中国一辺倒の状態が長く続いてきた。

◆「核トラウマ」にとりつかれた

金正恩氏が切望してきたのは、米国との直接交渉である。自らの権力基盤を固めるために米国からの武力行使を受けないという「体制の保証」が欠かせないためだ。同じ独裁者だったイラク・フセイン大統領が米国の攻撃を受け、あえない最期を遂げたのは、「核兵器」を保持していたかったからだと、同氏は思い込む「核トラウマ」にとりつかれている。

米朝両国は1994年10月にジュネーブで「北朝鮮が核爆弾の原料となるプルトニウムの抽出が容易な黒鉛減速炉の建設・運転を凍結する代わりに、米国が軽水炉(LWR)建設を支援し、完成まで代替エネルギーとして年間50万トンの重油を供給する」との合意文書に調印した。しかし2012年4月に北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を強行し、この米朝合意は破棄された。

その後、米国は一貫して「核放棄に向けた具体的な行動」を要求し、北朝鮮側の対話要求を拒否。米国との交渉は、金正恩体制がスタートした12年初めから4年もの間、途絶えている。オバマ政権が一貫して北朝鮮との直接交渉を拒んでいるのが要因だ。非核化を目指す6カ国協議(日米中露韓と北朝鮮が参加)も7年以上開かれていない。

北朝鮮は1月の核実験後の声明でも「核放棄は絶対あり得ない」と断言した。17年1月までのオバマ大統領の任期中は「対米交渉は困難」と見て、「核保有」アピールの道を選択した可能性が高い。

国内向けには、「水爆成功」を誇示し対米対決を強く打ち出せば、住民にさらなる耐乏を求めやすくなる。今年5月に36年ぶり開催される朝鮮労働党大会に向け、国威発揚のため国際的孤立を逆手にとる作戦だろう。

この結果、拉致問題をはじめとする日朝協議、南北間協議がストップするのは確実。安倍晋三首相は、14年5月に一部緩和した制裁を再び強化せざるを得なくなろう。南北関係の改善を進めていた韓国の朴槿恵大統領も、対話中断を余儀なくされる。

今後の北朝鮮情勢の焦点は、中国の習近平国家主席がどう対応するかである。中国政府は昨年10月、創建70年式典に劉雲山・政治局常務委員を平壌に派遣、核実験をしないよう正恩氏にクギを刺し、冷え込んだ中朝関係の改善を探り始めた矢先。通告もなく核実験に踏み切り、中国のメンツは潰された。金正恩体制の不安定化は避けたいところだが、中国が安保理決議や経済制裁などで具体的な行動を取るかが注目される。日米韓3カ国をはじめとする国際社会は、中国が北朝鮮へ経済制裁で足並みをそろえるよう働きかけることになろう。

◆“未熟な指導者”ではない

一部の専門家は先入観に基づいて金正恩体制について脆弱性を指摘、恐怖政治が体制を不安定にすると分析するが、北朝鮮研究の政治と経済における第一人者である、鄭成長・韓国世宗研究所統一戦略研究室長は、「金正恩が即興的に軍事の人事を断行し、軍部掌握を粛清のみに依存しているというのは事実と大きく違う」と指摘。「金正恩は先代の金正日時代に過度に肥大化し、高齢化した軍部の上層部を縮小し、世代交代を通じて若返りを図った。事なかれ主義に陥った勢力を遮断し、軍紀を引き締めている」と明かす。

さらに、「金正恩の年齢だけを取り上げて、“未熟な指導者”と性急な判断を下し、軍部改革での部分的な動揺をもって不安定と論じるのは不適切である」と話す。金正恩は父親の金正日より緻密で、政治局会議など幹部たちを集めた会議を頻繁に開き、討論を経た後、決定することを好んでいる、という。

米国と中国にとって共通の最優先課題は朝鮮半島の非核化。外交関係筋によると、米国は2013年末、「核開発を放棄して生き残るか、核開発を続けて崩壊の道を歩むのか」との選択を北朝鮮に迫るべきだと中国に要請、原油の供給をストップするよう求めた。核開発継続や北朝鮮の親中派改革開放論者・張成沢氏の粛正などを問題視した習主席がこれに呼応。石油の供給を14年に入って極端に絞ったことが中国の貿易統計で明らかになった。

ほぼ同時期にトップの座に就いた習近平主席と朴槿恵大統領と蜜月関係にあり、慣行を覆し韓国を北朝鮮より先に訪問した。これに対し、北朝鮮・金正恩政権は、頼みの中国に袖にされたために、「拉致問題の解決」を呼び水に日本に接近した。経済支援が目的で、日本には拉致問題打開につなげようとの狙いがあった。その際、米国、韓国はもちろん中国までもが、日本の突出した経済制裁緩和への動きを強く懸念したが、それも制裁再強化により元の状況に戻ることになった。

姜英之・東アジア総合研究所理事長は「北朝鮮は、国際社会の制裁レベルを見極めながら、国威発揚が目的の第7回労働大会(5月)を控え、再び対韓国融和策を持ち出し、中国との関係修復に全力を注ぐことになろう。米国に対しても何らかの秋波を送らざるを得ない」と見ている。(八牧浩行)