1984年、日本支社バカラ・パシフィックを設立し、同年、東京にバカラショップを開店しますが、バカラは1909年にはタイユグラヴュールの技法を使って創られた菊の御紋入りのグラスセットを日本皇室に収めて話題を呼びました。

透明度を誇るバカラのクリスタルグラスは、見るだけでもうっとりし、手にするだけでその格調高い趣きに感激をします。そして、感激の次には、天下のバカラまでもがジャポニズムに影響され、新技法タイユグラヴュールを考案したということを誇りたくなるのです。

日本の「侘び」「寂び」の世界を表現しようとしたバカラは、当初随分と苦しみ、悩んだと伝えられます。

それは「侘び・寂び」は日本美術や茶道の基本理念であり、そこにある静寂さ、質素さの持つ美しさ、また、枯れた古さの持つ、美しさ…。そのいくつもの特徴のすべてを表現しなければならなかったからでした。

でも、彼らはその世界を「静寂の中にある美」としたことで、結論を見出しました。さすがでした。“静寂の中に在る美”は正に日本の侘び寂びの世界です。

画像は“線と円”をテーマにしたパリのバカラのショーウィンドーです。ここには「静寂の中にある美…」を思わせるバカラの世界が広がっています。その根底にはジャポニズムの余韻も感じられます。

彼らがウィンドーを飾るこうした製品は、芸術作品のひとつとして誇れるものを選ぶ。そう聞き及んでいます。

その誇りがなおいっそうの気品を漂わせているのかもしれません。

ジャポニズムの世界をパリのショーウィンドーに見ることができます。素敵過ぎる世界です。

《余談》製造された商品のうち消費者の手に渡るのは6〜7割といわれ、残りは品質基準を超えた高さゆえに破棄されてしまうそうです。基準が高く造られても破棄の対象になる。この事実がバカラの品質基準の厳しさを提示していると思います。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、ウィキペディア、取材時に入手したその他の資料を参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。