「記憶」が変化していく、ように変化するフォント

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忘れられない想い出や、もう2度と思い出したくもない過去。そんな記憶がきっと誰しもあるだろう。NYの2人のデザイナーは、そんな記憶を表現する「Memoire」と呼ばれる新しいフォントをデザインした。

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記憶とは、実に曖昧なものだ。月日を重ねるごとに、わたしたちが覚えている記憶の輪郭はぼやけていき、徐々にあやふやなものになる。

記憶が時間とともにうつろうという事実は、ときに芸術家やデザイナーたちを刺激する。彼らは長きにわたり、現実と認識の間の微妙な関係を伝えるにはどうすればいいか、試行錯誤してきた。

そんな記憶を表現するべく生まれたのが「Memoire」と呼ばれる新しいフォントで、常に変化するようデザインされている。

このフォントは、ニューヨークのクリエイティヴエージェンシー・Sub Rosaが隔年で発行している雑誌『La Petite Mort』のために、ライアン・バグデンミシェル・ウェイナーの2人のデザイナーが特注した書体だ。このフォントは雑誌の16本の記事の見出し書体として使用され、ページを読み進めるとそれとともに変化していくようデザインされている(本記事冒頭のギャラリーの通り)。

「ある記憶が甦えるとき、その記憶はいま自分が置かれている現実世界のものとなります。それと同じように、このフォントも時間とともに移り変わるというコンセプトなのです」とウェイナーは語る。

実際のところ、その変化に気づくのは、最初は結構難しいかもしれない。

キリッとシャープなセリフ体は、言われなければ気付かないほど微妙に段々と輪郭がぼやけていく。最初のページに描かれたフォントはナイフのように鋭いが、最後のページになると丸みを帯びてほんわかと優しい雰囲気を醸し出している。「わたしたちの心の中とは、何か感じたとしてもはっきりと気付けないような、そんな捉えにくいものなのです」とバグデンは言う。

Memoireは、主に「De Vinne」という書体がベースになっている。この書体は19世紀にグスタフ・シュレーダーがデザインした金属活字書体だ。金属活字の時代、書体の劣化はそのプロセスにおいて避けられないものであった。活字が使用されれば、その分エッジは丸くなっていく(ウェイナー曰く、「まるで山が侵食されていくような感じ」)。

このフォントの始まりは、バグデンが2種類のマスター書体を描くことからスタートした。最初は鮮明なセリフ体、そして、次に丸みがかった書体。そして微妙に変化していく過程を2〜15番目まで順をおってソフトウェアで作成した。中間段階の変化はこうしてマスター書体を変化させてつくられている。

一見すると、フォントが変化とともに大きくなっているようにも見えるが実際はそうではない。「このフォントの面白さは、形うんぬんではなく、変化そのものにあるのです」と彼は言う。

印刷用としてデザインされたMemoireだが、デジタルで見てもまた美しい。デジタルなら、簡単にその変化の様子を見ることができる(雑誌でこの書体を読むのは多少目の鍛錬が必要かもだが)。

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