ミステリー初心者でも一気読み!  30万部突破、ベストセラー街道爆走中の『仮面病棟』を読んでみた。

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ある日ふと、自分の本棚を見て思った。
「やっぱりミステリーやサスペンスが苦手なんだなぁ」
そこにあるのは村上春樹やよしもとばななをはじめとするしっとりめな純文学ばかり。ミステリーもサスペンスも、一冊としてない。小説を選ぶ際に無意識に避けてしまうジャンルなのだ。
理由は「むずかしそう…」「怖い…」と至極単純。というより単なる思い込み…?
ほんの数冊を読んだだけで受けた印象を引きずっているだけの、ただの「食わず嫌い」なのはなんとなくわかってはいるんだけど…。世のミステリーファンの方には「人生損してる!」と怒られそうだが、ごめんなさい、それでも避けてしまうんです。どきどきはらはらしたくない、できれば心穏やかでいたいんです……

そんな自分がちょっとしたきっかけで読むことになり、まさに数時間で「一気読み」してしまった一冊、それが『仮面病棟』だ。
「現役医師が描く」
このコピーだけで、わたしのように普段この手の本を読まない人は、ちょっと身構えてしまうかもしれない。なんだか専門用語が並んでいて難しそう…??
読後の今だから言えるのは、そんな心配は一切無用だということ。つかえるどころか、ページをめくる手が止められない。ミステリー敬遠派の自分が驚くほど引き込まれてしまった。

舞台は狛江市の郊外にある療養型病院。元精神科病院だったために残っている錆びついた鉄格子が、刑務所を連想させる。主人公の外科医である秀悟は、急用が入った先輩医師の代わりに当直バイトを引き受けることに。病状が落ち着いた患者が多いその病院では、「寝当直」の平穏な夜となるはずだった。
戦慄の夜は、この病院にピエロの仮面をかぶった強盗犯が籠城するところから始まる。自らが撃った女の治療を要求し、秀悟は運悪く居合わせた二人の看護師とともに緊急オペを開始した。女を治療し脱出を試みるうちに、秀悟は図らずも病院に隠された秘密を知ってしまう―――。
ピエロの目的は何か。閉ざされた病院で繰り広げられる究極の心理戦。

と、ここまでのあらすじをご紹介すると、犯人が凶器を振りかざして読者もろとも血と恐怖に捲し立てられるような内容を想像してしまうかもしれない。もしこれがそういった類の物語であったなら、一気読みどころか読破すら難しかったかもしれない。暴力も血も、本当に苦手だ。しかしこの作品ではそれらの描写は、必要最小限に抑えられている。かわりに鮮やかに立ち上ってくるのが、息つく暇もないストーリー展開の巧みさだ。
「どんでん返し!」ではない。
「怒涛のどんでん返し!」。
ラストに大きな転換が待ち受ける、なんて優しいものではない。この作品では始めから終わりまで、息つく暇なんてないのだ。
ラストに至るまでに、物語は何度も何度も変化と転換を繰り返す。にもかかわらず「ついていくのに必死」な感覚が一切ないのも、シンプルで切り味鋭い文体のおかげだろうか。物語の渦中に投げ込まれて、抜け出せなくなってしまった。
不吉なピエロの嗤いに操られるように、「やっぱり!」「そっちか!」と答え合わせを繰り返しながら、あっという間にエピローグまでたどり着いてしまう。気づけば苦手なハラハラもどきどきも、すべてを忘れて夢中になる読書体験として楽しんでいる自分がいた。

どきどきハラハラしたくない。テレビでも見ながら心穏やかにこたつにあたっていたい。そんな自分が、読書で味わう緊張や興奮を「楽しみ」として感じられた一冊。
エンターテイメントってこういうことか! 
この楽しみを知らなかったわたしは、やっぱり「人生損!」していたのかもしれない。

すでに30万部を突破し、世の中にも一気読みが伝染しているみたいだ。
ミステリー敬遠派のかたもミステリー好きなかたも、書店で嘲笑うピエロには要注意です。

『仮面病棟』

http://www.amazon.co.jp/dp/4408551996/