裁判所が決めた「女のからだの値段」【1】

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事故や事件の加害者に裁判所が下す判決は被害者の性別により異なる傾向があるという。裁判所は「女の値段」をいかに算定しているのか。実際の判例から紐解いていこう。

かつて、裁判所が提示する「体の値段」は、男女ではっきりと違った。そもそも筋肉量が少ない女性は、同じ事故でも男性より肉体的ダメージを受けやすい。さらに、「女性は見た目の傷が価値低下につながりやすい」と考えられていたため、同程度の傷でも女性のほうには高い賠償金が支払われていたのである。

男女平等の考えが浸透した結果、後遺障害を14のランクに分ける「自賠責保険 後遺障害別等級表」が平成23年から改められ、表向きには男も女も体の値段は同額になった。それでもやはり女性のほうが体の傷に対する「心の傷」を考慮されやすい実態はある。「顔に跡が残る火傷をした」という傷そのもののランクは男性と同じ第12級でも、「その傷跡によって鬱になった」というプロセスを経ることで、賠償金を多少引き上げられるというわけだ。

この状況は、警察も検察も裁判所も圧倒的な男社会であることが原因だろう。彼らの根底にある「女の体のほうが傷つきやすい」という思いが、女の体の値段を引き上げている。

また、裁判員裁判が行われるようになってからは、性犯罪を重罪化する傾向にある。犯罪の量刑相場を知らない一般人が、犯人への憎しみから相場より重い刑を判断するからだ。

■「顔に傷」で1000万円超え

交通事故では、慰謝料のほか、「積極損害」と「消極損害」が支払われる。積極損害は事故によって余儀なくされた病院への交通費、治療費など。消極損害は「事故に遭わなければ得られたであろう利益」を補償するもので、「逸失利益」と「休業損害」に分けられる。たとえば事故により数カ月休業することになれば、その間受け取れるはずだった収入をもとに、休業損害が認められる。休業損害は女性よりも男性に高い金額が支払われるケースが多いが、これは性差というより、収入差によるものだ。

一方で、完治しない後遺障害(後遺症)が生じた場合の賠償である逸失利益は男女の別で差が表れやすい。冒頭でも紹介した「後遺障害別等級表」では、後遺障害の程度により、第1〜第14級に分けられている。これは、後遺障害によって労働能力がどれほど低下するかを軸に据えている。たとえば、第1級にあたるのは両目の失明、両脚をひざ関節以上で失う、両腕をひじ関節以上で失う、などの場合で、最高3000万円。

外見に著しい醜状を残す場合は第7級(労働能力が56%以上喪失されたとみなす)で、最高1051万円。外貌に相当程度の醜状を残す、生殖器に著しい障害を残す場合はともに第9級で、最高616万円だ(これらはあくまで自賠責保険の上限であり逸失利益の総額はそれ以上のことがほとんどだが、そこは任意保険で補填される)。

等級が上がるほど認定の基準がはっきりしているので揉めることは少ないが、第14級の「局部に神経症状を残すもの」などは認める、認めないの論争になることが多い。「むち打ちで首の調子が悪いだけでなく、PTSDの状態にあるので、少なくとも14級は認めるべし」などと主張することになるが、その場合も、やはり女性のほうが主張を認められやすい傾向にある。また、男女差が是正されたとはいえ、モデルの顔に傷が残れば「労働力の著しい低下につながる」という主張が通りやすいのは女性のほうかもしれない。「未婚なのに、顔に傷が残ってしまって、結婚できないかもしれないと悩んで鬱になった」などのロジックで、賠償額を少し上げられる可能性が高いのも女性ならではだ。

■局部、胸、尻で異なる値段。高額なのは?

相手が嫌がることを「言って」も「して」もセクハラになってしまう。とはいえ、昨年の高橋大輔さんの例もあるように、女性から男性へのセクハラが認められるケースは非常に少ない。「50歳の女性上司からキスをされた!」と新入社員が警察に駆け込んでも、警察官は「よくあることですよ。告訴状についてはいろいろ考えてから警察で対応しますから」などと言って、笑って追い返すだろう。男性が被害者になる強制わいせつ事件など、事実上100件に1件もないのではないだろうか。警察も検察も裁判所も、これに関しては世間と同じ感覚なのである。そのため、セクハラでは圧倒的に女性が有利だ。

また、同じセクハラでも、言葉だけの場合より、体に触った場合のほうが量刑が上がる傾向にある。たとえば、中学の男性教師が、仕事上のトラブルから被害女性を恨み、「女の武器を使う」「男さえいれば性的に満たされるのに」などと暴言を吐き続けたケースでは、人格権の侵害が認められ、50万円の支払いが命じられた(1997年、大阪地方裁判所判決)。一方、会社会長が新入社員の営業車に乗り込み、デートに誘ったり、太ももをさすったりしたケースでは、1回のみで80万円の支払いが命じられた(96年、大阪地方裁判所判決)。体に触れることで、強制わいせつが認められることも多い。

セクハラや痴漢などで女性の体を触る場合、尻→胸→局部の順に量刑が上がり、服の布地越しであったか、服の中にまで手を入れたかでも量刑に差が出る。また、「手袋をしていたから量刑を軽くしてほしい」と主張することもある。素手で直に局部に触れることが、この分野では一番の重罪なのだ。

【弁護士だけが知っている法律にまつわる男女の秘密】

■手袋ごし――直に触ると言い逃れ不可
直接触れたのか、服の上から触れたのか、手袋ごしで触れたのかによって量刑に違いが出る可能性がある。

■1051万円――男の生殖機能と女の◯◯が同額
改正前の後遺障害等級認定では両側の睾丸を失った男性と外貌に著しい醜状を残す女子は同額の1051万円。

■5年以上――処女が強姦被害を受けた場合
処女膜が傷つけられると、強姦罪よりも罪が重くなり懲役5年以上に。処女でない女性が負傷した場合も同様。

■700万円――腰を無断でズームで撮影したら
セクハラにより退職に追い込まれた女性が訴えを起こし、撮影した上司と会社に対して700万の賠償命令。

■50代以上――女性というだけで狙われる
強姦魔が狙う女性は若者ばかりというわけではない。50歳以上になってからレイプされた女性が3.5%。

■40倍――女性と男性の強制わいせつ被害発生率の開き
平成23年の強制わいせつの認知件数は6870件。男性の被害は161件のみで、被害発生率は40倍の開き。

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弁護士 野澤 隆
1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。

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(弁護士 野澤 隆)