「日刊ゲンダイがあるんだから報道の自由は守られてる」とネトウヨ答弁した安倍首相に官邸の報道介入の実態を改めて突きつける!

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 詭弁はここまで極められるものなのか、と思わず感心しそうになった。無論、安倍晋三首相が昨日国会で述べた"仰天発言"の話だ。

 それは民主党の階猛議員の質問が発端だった。階議員は憲法21条「表現の自由」が、自民党憲法改正草案では制限がかけられていることを説明した上で、このように改憲されれば「国民、ひいては言論機関が萎縮して権力者の意向を忖度し、権力者の批判を控えるようになるのでは?」と質問。「現に今も安倍政権に批判的なテレビキャスターやコメンテーターが次々と番組を降板している」と、『NEWS23』(TBS)や『報道ステーション』(テレビ朝日)、『クローズアップ現代』(NHK)のキャスター降板劇を取り上げた。

 だが、安倍首相は「現在、まるで言論機関が萎縮しているかのような表現があったが、まったくしていない」と反論し、いつものニヤケ面を浮かべながら、こう言い出したのだ。

「きょう、帰りにでも日刊ゲンダイを読んでみてくださいよ(笑)。これがですね、萎縮している姿ですか?」

 おいおい、日本の代表的言論機関が日刊ゲンダイって、そりゃないだろう(失礼)。たしかに日刊ゲンダイは政権批判に力を入れているが、ここまではっきり批判を書いているメディアなんて、あとは、しんぶん赤旗と本サイトくらい。日刊ゲンダイ編集部も「日刊ゲンダイが自由に報道していることで、報道の自由全体が確保されているとの主張はあまりにもご都合主義ではないか」と安倍発言に対して反論コメントを出しているが、まったくその通りである。

 しかも、安倍首相はつづけてヒートアップして、こんなことまで口走っていた。

「萎縮はしないんですよ、毎晩の報道を観ていただければわかるように。それはですね、むしろ言論機関に対して失礼だ」
「萎縮している機関があるなら言っていただきたい」
「外国から誤解される恐れがある。まるでそんな国だと思われるわけでありますから」

 いや、「毎晩の報道」を観るかぎりNHKや日本テレビ、フジテレビなどは萎縮どころか、政権の代弁者と化しているし、気を吐いていた古舘伊知郎や膳場貴子キャスター、岸井成格は姿を消してしまうではないか。それに「外国から誤解される」と言うが、誤解でもなんでもなく"事実"だとわかっているから、昨年11月、国連の「表現の自由」特別報告者の来日を政府は中止させたのではないか。だいたい、「報道の自由ランキング」では民主党政権時の2010年は11位だったのに昨年は61位まで大幅ランクダウンしているが、これこそが海外から見た客観的な評価なのだ。

 さらに、調子に乗った安倍首相は、「安倍政権を弁護する立場の言論のほうはですね、なかなか貫き通しにくい雰囲気すらあるという人もいるわけで」と口にした。もうここまでくると、ネトウヨによる陰謀論にひたり過ぎじゃないかと心配になってくるが、無知な首相のために教えてさしあげよう。"政権を弁護する報道"なんてものは、もはや報道とは呼ばない。ジャーナリズムは権力の監視が使命なのだから、それを捨てて権力にすり寄る報道は「大本営発表」と言うのだ。

 本サイトでは繰り返し伝えてきたが、今回のキャスター降板劇のすべてに官邸がかかわっているのは明白な事実である。

 まず、『クロ現』の場合、14年に国谷裕子キャスターが集団的自衛権の行使容認について「他国の戦争に巻きこまれるのでは」「憲法を解釈で変えていいのか」と当然の質問を菅義偉官房長官に投げかけたが、番組終了後に秘書官が激怒。官邸はNHK上層部に対して「君たちは現場のコントロールもできないのか」と猛抗議したという。つまり、国谷キャスターは官邸からずっと目をつけられており、NHKはやらせ問題を逆に"隠れ蓑"にして降板させたのだ。

 また、『報ステ』に対しては、川内原発報道をめぐるBPO審査を口実にテレ朝上層部へ介入。イスラム国人質事件をめぐって古賀茂明氏による例の「I am not ABE」発言が飛び出すと、菅義偉官房長官がオフレコ懇談で「放送法に反している」と恫喝、菅氏の秘書官が番組編集長に「古賀は万死に価する」というメールを送付した。これに怯えた上層部がずっと『報ステ』を圧力から守ってきた番組プロデューサーと古賀氏を更迭。それが最終的に古舘の降板につながっていったのだ。

 そして、『NEWS23』は、14年12月に安倍首相が生出演した際に街頭インタビューにケチをつけたことがきっかけだった。自民党は報道圧力文書をキー局に送りつけ、官邸はことあるごとに『NEWS23』と膳場アナを目の敵にするようになる。そして、岸井氏が安保法制批判を始めると、菅官房長官がお忍びで岸井氏の勉強会に出かけたり、官邸幹部がTBS上層部に直接、岸井氏更迭を働きかけるなど、岸井氏への揺さぶりも開始。そして、これに呼応するように、安倍首相の応援団である極右団体「放送法遵守を求める視聴者の会」が岸井攻撃の新聞広告を出稿。TBSが岸井、膳場ふたり揃って番組降板という選択に至ったのである。

 放送法を曲解して解釈し、平気で番組に介入する。それは「圧力」そのものであり、こうしてテレビ局は官邸が嫌うキャスターたちの首を斬り捨てていった──。これを「萎縮」と呼ばないで、何と表現しろと安倍首相は言うのか。

 だが、そんなことは馬の耳に念仏、この人の耳には届かないだろう。というのも、安倍首相の"クレーマー"ぶりは、根っからのものだからだ。

 その事実を暴露しているのは、評論家・佐高信氏の著書『不敵のジャーナリスト 筑紫哲也の流儀と思想』(集英社新書)だ。佐高氏は、久米宏がキャスターを務めていた『ニュースステーション』のコメンテーター時代、証券スキャンダルによって発覚した損失補填問題に絡めて、三塚博の名を挙げ、ブラックジョークを飛ばしたのだが、これに激怒したのが安倍晋三だったという。

〈(佐高氏のコメントが)三塚派(清話会、現町村派)の面々の怒りを買った。当時まだ一年生議員だった安倍晋三が、選挙区から猛抗議の電話をかけてきた、と後で聞いた〉

 一年生議員にして、すでに現在に通じる抗議癖を身につけていた安倍首相。そしてもうひとつ、佐高氏は本書で安倍首相の本質が垣間見えるエピソードを紹介している。

〈ポスト小泉(純一郎)の自民党総裁選挙の時、「筑紫哲也 NEWS23」で候補者の討論番組をし、筑紫が、「自民党の改憲案を読んで失望すると同時に安心もした。こんなものが理想になるはずがないと思ったから」と言ったら、安倍が、「筑紫さんが失望したというのはよい改正案である証拠だ」と返して来たという〉

 安倍首相が仮想敵に仕立て上げる定番中の定番は「朝日新聞」だが、各局のキャスター陣のなかでも安倍氏は朝日新聞出身の筑紫氏がとくに嫌いだったらしい。佐高氏も〈(筑紫氏は)憎悪の対象とされたと言ってもいい〉と書いているが、事実、安倍氏がNHKのドキュメンタリー番組に介入、改変を迫ったという「番組改変問題」が朝日新聞によって報じられた際、安倍氏は『NEWS23』に出演。敵意剥き出しで筑紫氏に"番組に圧力などかけていない"と抗弁したが、それだけでは飽き足らず、タカ派雑誌「諸君!」(文藝春秋/休刊)に登場して筑紫氏をこき下ろした。

〈今回の件で朝日新聞社の姑息な論点のすり替えや、お粗末なこじつけを、元社員である筑紫氏が自ら明らかにしてしまったのです〉
〈なるほど、これが朝日系の人々の発想なのか、と私は心中深く納得するものがありました〉

「姑息な論点のすり替えや、お粗末なこじつけ」って、そりゃアンタの得意技だろう、と思うが、それにしてもすさまじい憎悪である。きっと、このころから安倍氏は何も変わっていないのだ。昔から自分を「弁護」しないメディアはおしなべて「敵」であり、政治家が直接圧力をかけるのも当然の行為だった。そう考えれば、憎き筑紫氏は鬼籍に入ったものの、今回そのイズムが継承された『NEWS23』を骨抜きにしたことは、安倍首相にとって「ようやく宿敵を討った」といったところなのだろう。

 一体、この恐ろしい事態を、安倍首相に敵視されつづけた筑紫氏は草葉の陰からどんな思いで見ているのだろうか。筑紫氏にとって最後の出演となった『NEWS23』2008年3月31日の「多事争論」では、「変わらないもの」と題し、"『NEWS23』のDNA"について、こう語っている。

「力の強いもの、大きな権力に対する監視の役を果たそうとすること。それから、とかくひとつの方向に流れやすいこの国のなかで、この傾向はテレビの影響が大きいんですけれども、少数派であることを恐れないこと。多様な意見や立場をなるだけ登場させることで、この社会に自由の気風を保つこと」

 暴走首相の手によって、こうした志がテレビから失われようとしている。そしてその先に待ち受けるのは、いよいよ戦前の社会だ。それを食い止めるためにも、日刊ゲンダイともども、本サイトは今後も「萎縮しない」所存だ。
(水井多賀子)