昨シーズンのハッサン・ホワイトサイド(マイアミ・ヒート/C)の活躍ぶりは、間違いなくシンデレラストーリーだった。シーズン途中に彗星のごとく現れ、ある試合で12ブロックを叩いたかと思えば、別の試合では25リバウンドを奪取――。目を見張るような活躍に、「いったい彼は今までどこにいたのか?」という声も出たほどだ。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 とはいっても、彼は別にそれまで洞窟に潜んでいたわけではない。たしかにNBAにはほど遠い、レバノンや中国のリーグに所属していた時期もあったが、それより以前は2010年のNBAドラフトで2巡目(全体33位)ながらサクラメント・キングスに指名され、2シーズンもの間、NBAでプレーしていたのだ。昨シーズン前もメンフィス・グリズリーズと契約し、プレシーズンゲームに出場している(開幕前に解雇)。

 それでも、昨シーズン開幕後にヒートと契約するまであまり知られていない存在だったのは、恵まれた体格(213センチ)と運動能力を持っている一方で、メンタル面やバスケットボールスキルの未熟さがあったからだ。成長を期待してドラフトで指名し、プロ選手としての自覚が出てくるのを2年間待ったキングスですら、しびれを切らしてサマーリーグの途中で彼を解雇してしまったほどだった。

 ヒートは、2010年のドラフト前からホワイトサイドに注目していたと言う。それでも4年待ったのは、ホワイトサイドがどこまでプロとして真剣に取り組めるかに疑問があったからだった。2014年11月、契約を決める前にヒートのエリック・スポールストラ・ヘッドコーチ(HC)は、「努力や成長をチームがどれだけ期待しているか」という話をホワイトサイドにしたという。どんな役割を期待しているかではなく、NBA選手になるために努力する覚悟があるのかを聞きたかったのだ。

「その話をしたときの彼の目は、それまでとは違っていた。まっすぐにこっちを見て、『できます』と言ったんだ」と、スポールストラは説明する。球団社長のパット・ライリーも、「彼の身体も、行動も、そして成熟度も、以前とはまったく違う」とホワイトサイドの成長を認め、契約を決めたという。

 11月下旬にヒートと契約してから、しばらくはローテーション入りできずに出番のない試合が続いた。だが、クリスマス明けにローテーション入りすると、1月11日のロサンゼルス・クリッパーズ戦ではブレイク・グリフィン(PF)やデアンドレ・ジョーダン(C)らを相手に、23得点・16リバウンド・2ブロックの活躍で勝利に大きく貢献。この試合を機に、NBA中から注目されるようになった。

「夢を見ているようだ」と、ホワイトサイドは語った。

「数ヶ月前までは、誰にも見てもらうことがなかった。この夢から目を覚ましたくない。毎日アリーナに来るとき、どれだけ恵まれているかを感じるんだ」

 昨シーズンのホワイトサイドは48試合に出場し、平均11.8得点・10.0リバウンド・2.6ブロックを記録。そしてなにより、選手の1分間あたりの効率性指標となる「PER」では、リーグ5位の26.26を残している。海外リーグを渡り歩いたジャーニーマンから、NBAのエリートへ――。まさに、シンデレラストーリーだ。

 もっとも、実際の人生には常に続編がある。夢物語のようなシーズンを送ったホワイトサイドにも、次のシーズンがあった。目覚ましいスタッツを残すだけで注目され、称賛されていた1年目は終わり、ヒート2年目の今シーズンは足りない部分に対する批判も出るようになった。より高いレベルでチームに貢献することが求められるようになったからだ。

 その高いレベルというのは、単に数字を増やすことではない。むしろ、ヒートのコーチやチームメイトが求めているのは、スタッツに表れないところでの成長だ。

 たとえば、1月15日のデンバー・ナゲッツ戦でホワイトサイドは、19得点・17リバウンド・11ブロックのトリプルダブルで勝利に貢献。試合後のヒーローインタビューでホワイトサイドは、「アシストでトリプルダブルを挙げる選手はよくいるけれど、ブロックでのトリプルダブルは誰もやっていない」と、カメラに向かって豪語した。

 たしかにこの3シーズンの間、ホワイトサイド以外の選手では誰もブロックを含んだトリプルダブルを記録していない。カメラに向かって自慢したくなる気持ちもわからなくはない。しかしチームメイトたちは、「この試合で本当に歴史的だったことは別にある」と冗談交じりに言った。それは、オフェンスリバウンドを取った後、ホワイトサイドはいつものように自分で無理に攻めて自滅するのではなく、外にいたチームメイトにパスを出したことだ。

「あれは本当に歴史的だった。あれこそ、僕らが求めていたことだ。それも1回だけではなかった。いいプレーをしたときは褒めないとね」と、チームメイトのドウェイン・ウェイド(PG)は言って笑った。

 ホワイトサイドはスタッツなど、目に見える数字に対するこだわりが強い選手だ。数字へのこだわりは、NBAで認められなかった年月の長さからくるものなのかもしれない。高いスタッツを残せば、トライアウトのチャンスをもらえることもあるからだ。

 とはいえ、実際に試合を戦ううえで、スタッツは結果の一部分にすぎない。試合に勝つためにはスタッツ以上に、チームとしてやろうとしていることを理解し、それを遂行できる能力が必要とされる。味方にどれだけいいスクリーンをかけることができるか、自分のマークマンを離れてでも味方のヘルプに出ることができるか......等々。試合に勝つためには、時にはスタッツでマイナスになったとしても、やらなくてはいけないことがある。

 ヒートのチームメイトは折に触れ、ホワイトサイドにそういったことを伝えようとしているようだ。また、ホワイトサイドも少しずつだが、それを理解し始めているようにも見える。スポールストラHCは言う。

「自分がどれだけ(スタッツ以外で)インパクトを与えられるのか、理解してきたようだ。みんなが注目するのは、スタッツとは限らない。彼の存在感に注目しているんだ」

 ホワイトサイドにとって、今シーズンは彼のキャリアを左右する重要なシーズンである。ヒートとの契約は今シーズン末で切れ、夏には完全なフリーエージェントとなるからだ。才能の片鱗が見えてきた今、高額の契約オファーを考えているチームも多いとウワサされているが、本当に高額契約に見合う選手なのか、他チームは彼の一挙手一投足を見つめている。26歳になったホワイトサイドを、ここからさらに4〜5年かけて育てるだけの辛抱強さは、どのチームもない。

 ヒートも、叱咤激励しながら根気強く育てる一方で、その教えを本当に理解しているのか、最終的に評価する時期を迎えている。他の選手の契約より優先してサラリーキャップの余地を作り、高額年俸を払うだけの価値がある選手なのか、もしくは今後、高額契約が重荷となる選手なのか――。その判断によっては、2月18日の期限前にトレードで出すことも考えられる。

 はたしてホワイトサイドは、スタッツより大事なものがあることを心から理解できるようになるのか。数字というインパクトでシンデレラボーイになった、ホワイトサイドの今後の行方に注目だ。

宮地陽子●取材・文 text by Miyaji Yoko