海水温上昇や海産物の乱獲など、海をめぐる問題が深刻さを増している。昨年はサンマの不漁をはじめ、カツオやアジ、サバ、シシャモなどの水揚げ量が例年になく低かったといわれている。この海の異変は一時的なものなのか、それとも常態化するものなのだろうか。

■2048年、魚が食卓から消える!?

 北海道新幹線の開業やリオ五輪、アメリカの大統領選挙など、ご他聞に漏れずビックイベントが目白押しの2016年だが、年の瀬に向かう11月初旬には、世界最大級の卸売市場である築地市場が江東区豊洲へと移る。利便化が向上した豊洲市場に期待が高まる一方、昨年の不漁だけにとどまらず、日本近海で水揚げされる水産物の量が年々減少していることも事実だ。もちろん漁獲量減少の大きな原因は、日本の漁船があまり外洋へ出なくなったことや、外国の安価な水産物の輸入量が増えたことであるが、世界の海の漁業資源そのものが減っているのではないかという指摘もある。

 2006年、アメリカの科学雑誌の「Science」に衝撃的な論文が発表されて話題になったが、その内容とは「2048年には海から食用魚がいなくなる」という水産業界と消費者に対する警鐘であった。アメリカとカナダの合同研究チームによるこの研究は、海洋の生物多様性が漁業によって急速に失われていることを指摘するもので、すでに(2006年当時までに)人類は29%もの海洋の食用生物種を乱獲などにより絶滅に近い状態に追い込んできたことも断罪している。そして現状のままで何も対策を行なわずに操業と消費を続ければ漁業の対象魚の激減が続き、2048年にはほぼ消滅すると主張している。

魚が食べられなくなる日は近い?乱獲以上に深刻な海のプラスチックごみ問題
National Geographic」より

 魚が食卓から消えるばかりではない。海洋の生物多様性が失われることにより、海の水質が悪化(富栄養化)しアオコなどの藻類が異常発生して沿岸の生態系にさらに悪影響を及ぼすという。また海辺に生物が住めなくなくることで、海岸線が侵食され洪水の被害を受けやすくなるということで、その被害は食糧問題だけにとどまらない。

 この研究を受けてFAO(国連食糧農業機関)などが漁業に関する国際的なガイドラインを整備しているが、規制を実施しても実際には不法操業や密漁が絶えることはなく却って問題を拡大しかねない事態も見えている。世界的に魚食が普及した現在では、世界中の海が漁場となっているからだ。やはりこのまま海洋資源の減少に歯止めをかけることはできないのだろうか。

■2050年、海の主役は“プラスチックごみ”に!?

 懸念されるのは“2048年”ばかりではない。先頃発表されたレポートでは、海に投棄されたペットボトルやビニール袋などのプラスチックごみの量が、2050年には海に生息する魚類よりも多くなるという試算が公表されて世にショックを与えている。2005年に単独無寄港世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」で最速記録をマークした女性ヨットセーラーであるエレン・マッカーサーは、競技引退後には循環経済を提唱・推進する「エレン・マッカーサー財団」 を創設して精力的に活動を行なっている。そしてこのエレン・マッカーサー財団が1月19日に発表したレポートでショッキングな未来が提示されることになった。

 レポートによれば、2014年の時点で全世界のプラスチック生産は3億1100トンにまで増えており、今後も着実に増える見込みであるという。その一方で、全世界で年間に生産されるプラスチックのうちリサイクルされているのはたった5%で、40%が埋め立て処理され、22%が焼却処理、そしてなんと33%が海洋を含む自然環境へ遺棄されているということである。もちろん数十年前からずっとプラスチックは環境問題の重大懸念事項であったが、同レポートの試算によれば今や全世界で年間800万トンものプラスチックごみが海洋へと投棄されているということだ。

 この状況が続けば世界の海の中は2025年には、プラスチックごみ:1に対して、魚:3の割合で同居することになり、2050年には、魚よりもプラスチックごみのほうが重量ベースで多くなるというのだ。海へ釣りに行っても、針にかかってくるのはビニール袋ばかりという笑えない事態が現実味を帯びてきているのだ。

魚が食べられなくなる日は近い?乱獲以上に深刻な海のプラスチックごみ問題
The Guardian」より

 ショッキングな予測を突きつけることになった今回のレポートだが、さらに厄介なのは問題の解決が容易ではないこともまた明らかになったことだ。ごみになりやすい包装類などをメインに、安価なプラスチック製品の需要は新興国をはじめ増える一方で、リサイクル体制は現状ではまったく力不足で施設も足りず、生産するそばからどんどん自然環境へと放擲されているのだ。

 解決へ向けた“特効薬”がない以上、地道にリサイクル体制を徐々に拡大し、一方でなるべく包装を簡易化するなどしてプラスチックの使用量を意図的に抑えることしか今のところ方策はないようだ。遺棄されても最終的に自然環境で分解される生分解性プラスチックや水に溶ける水溶性プラスチックなど、いわゆるバイオプラスチックの効率的な生産方法も模索されてはいるが、残念ながらまだまだコストが高く包装用などに使用するのは現状ではまだ現実性がない。しかしどこかの時点で技術革新が起こり、バイオプラスチックの大量生産が可能になれば、LED照明と同じように普及が進み、大幅にコストが下がるかもしれないのでまったく希望がないわけではないのだが……。

魚が食べられなくなる日は近い?乱獲以上に深刻な海のプラスチックごみ問題
プラスチックごみの被害。

◎動画はコチラ
https://www.youtube.com/watch?v=mkfAnQtIUCw

■深刻な「マイクロプラスチック」問題

 環境破壊だけではない。事態は海産物を食する我々の健康にも及んでいる。マイクロプラスチック問題だ。海洋に投棄されたプラスチックごみが風化の過程で細かく砕けて海水に混ざり込むのだ。カナダ・バンクーバーの研究チームが北東太平洋の海を調べたところによれば、海洋の動物性プランクトンがプラスチックの粒を危険と思われるレベルまで摂取していることが分かったという。海洋の微小な節足動物であるカイアシ類の34匹に1匹、オキアミの17匹に1匹の割合で体内からマイクロプラスチックが検出されたのである。動物性プランクトンの体内からプラスチックが発見された最初の例になるということだ。

魚が食べられなくなる日は近い?乱獲以上に深刻な海のプラスチックごみ問題
Think Progress」より

 海中の動物性プランクトンは海洋の食物連鎖の最下位にいる種であるため、生態系全体に大きな影響を及ぼし、当然のことながら魚を食べる人間にも影響する。調査は北東太平洋のブリティッシュコロンビア沿岸のジョージア海峡、バンクーバー島西岸、ハイダ・グワイ沿岸などで行なわれたが、一番汚染が酷かったのがジョージア海峡であったということだ。ジョージア海峡は川で育った成長期のサケの若魚が外洋へ出る前の身体作りのために旺盛に餌を捕食する餌場であることから、マイクロプラスチックが動物性プランクトンを通じてサケの体内で濃縮することになる。こうしたサケを食用にすることが安全であるはずがない。

 マイクロプラスチックはプラスチックごみが細かく砕けたものであるほかに、歯磨き粉やスクラブ洗顔剤などの製品に研磨材として使われており、家庭排水を通じて海洋を汚染しているといわれている。またゴカイが発泡スチロールを摂取すると、体内で細かく砕いて排出するため、マイクロプラスチックを増やす要因になっているという報告もなされている。カナダ・バンクーバー沿岸だけでなく、マイクロプラスチックは世界中の海を汚染しており、もちろん日本沿岸の海からも発見されている。国際的な取り組みで対策を図ると共に、この問題に対する関心を広めることが急務であることは確かだ。

文/仲田しんじ

フリーライター。海外ニュースからゲーム情報、アダルトネタまで守備範囲は広い。つい放置しがちなツイッターは @nakata66shinji