北海道産チーズだけに特化した専門店「チーズのこえ」

昨年11月、チーズ専門店「チーズのこえ」が江東区にオープンした。といっても外国産チーズはいっさいない。北海道産チーズだけに特化した専門店だ。

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「北海道には大小合わせて100ほどのチーズ工房があります。第一世代と呼ばれる60代のチーズ職人が営む工房や、そこで修業した若者が独立するなど、道内でチーズ作りを始める人が増えています。

うちでは熟練のチーズ職人や若手のチーズ職人が作ったものも含め、30のチーズ工房の製品を扱っています」

と話すのは、オーナーでチーズコンシェルジュの今野徹さんだ。

そもそもなぜ北海道産チーズ専門店を開業することにしたのか。

「デパートで開催される物産展などで道産チーズを販売していますが、ただ置いておくだけではそのチーズの良さが伝わりません。どう食べるとおいしいのか。どんな人が作っているのかを語れるコンシェルジュになろうと思い、チーズのこえを始めました」

今野さんは北海道庁及び農林水産省で、15年間、酪農の生産現場において道産チーズに関わる仕事をしてきた。その経験を生かし、チーズ職人の個性や特徴、その味を語れるコンシェルジュになり、農場と食卓のつなぎ役になりたいと思い、チーズのこえを立ち上げた。

長年道内のチーズ工房に足を運び、数多くのチーズ職人と接してきた。ときに家に泊めてもらい、食事をご馳走になるなど、親戚づきあいしてきたチーズ職人も少なくない。

開業にあたり、信頼できるチーズ職人が作ったおいしいチーズだけを販売しようと考え、チーズ工房を厳選。30人のチーズ職人を選んだ。

チーズが作られている背景や環境、ストーリーを語るだけでなく、客のレスポンスをチーズ工房にフィードバックし、双方の「声」をつなぐ役割もになっている。

その中から、冬におすすめのチーズを5つ選んでもらった。

冬におすすめのチーズ5選

チーズフォンデュ

ひとつ目は、チーズ工房 白糠酪恵舎がチーズフォンデュ用に考案した「チーズフォンデュ」。

ご存知のように、チーズフォンデュはスイス名物料理だ。5年ほど前、マッターホルンのお膝元、ツェルマットのレストランで食べたことがある。注文したところ、別室に案内された。匂いがきついたことから、チーズフォンデュ専用の部屋が用意されていたのである。

白糠酪恵舎の「チーズフォンデュ」を使い、久しぶりにスイスの名物料理を食べたのだが、気になる匂いをまったく感じなかった。

スイスでは、エメンタールとグリュイエールという2種類のチーズでこの料理を作る。片や、白糠酪恵舎の「チーズフォンデュ」には、セミハードの「テネレッロ・シラリカ」とハードの「モンヴィーゾ」を使用。チーズフォンデュ特有の匂いもなく、熱々のスイス料理にありつけたというわけだ。

ただし、この料理を食べる際、ひとつだけ注意したいことがある。まちがってもビールを飲まないこと。冷たくて、アルコール度数が低いビールを飲むと、胃の中でチーズが固まり、腹痛を起こす。下手をすると腹痛だけではすまされないので、ビールだけは避けたいところだ。

「ル・クールゼのような厚手の鍋にニンニクをこすりつけ、『チーズフォンデュ』とワインを入れます。ワインは月浦ワイナリーの『ミュラー・トゥルガウ』か、千歳ワイナリーの『北ワイン ケルナー』をおすすめします」

拙宅にはル・クールゼがないので、やや厚めのステンレスの鍋で作った。パンなどを刺してチーズフォンデュに付ける道具もないのでフォークで代用。台所にある道具と、白糠酪恵舎の「チーズフォンデュ」、ワイン、パン、お好みの野菜があれば、本格的なスイス料理が楽しめる。

ラクレット

冬に食べたいチーズといえば、「ラクレット」を忘れてはならない。

「うちでは道内の5つの工房のラクレットを扱っています。いまの時期なら、しあわせチーズ工房(足寄町)の『ラクレット』を食べてください」

専用オーブンにラクレットをのせ、とろけたところをパンや、ゆでておいたジャガイモにつけて食べる。専用の道具がなくても大丈夫。1cm程に切ったラクレットをホットプレートに並べ、とけたらすかさずジャガイモにたっぷりつけてほおばる。

赤ワインも用意したい。

スカモルツァ・ビアンコ

イタリアには、カチョカバロと呼ばれるチーズがある。ひょうたん型に整形したものに、紐を結び、ぶらさげて熟成させたのがカチョカバロだ。完成するまでに手間がかかるため、高額でなかなか手が出ない。

オホーツク海に面した興部町にあるアドナイでは、カチョカバロを小さくしたような「スカモルツァ・ビアンコ」を製品化している。お手頃価格なので、購入しやすいのが嬉しい。

やや厚めにカットしたものをテフロン加工のフライパンで焼き、ステーキにして食べるのが一般的だが、今野さんによればハンバーグにのせてもおいしいという。

「ドミグラスソースをかけてもいいし、チーズの塩分だけで食べてもおいしいんです」

ミモレット

白いチーズが続いたので、暖色系の色合いのミモレットを推薦してもらった。

「ミモレットは、フランス語で『半分柔らかい』という意味があります。輸入もののミモレットは1年以上熟成させたものが多いのですが、ニセコチーズ工房(ニセコ町)の『二世古ミモレット』は3〜4か月熟成なので、その言葉どおりの柔らかさで、お子様からご年配まで爽やかな味わいを愉しめます。

カットしたものをサラダに入れたり、サンドイッチに使ってください。オレンジ色のこのチーズは、視覚的に暖まれると思います」

シマフクロウ

根室にあるチーズ工房チカプでは、「シマフクロウ」と命名したハードチーズを作っている。
根室は野鳥が多いことから、アイヌ語で「鳥」を意味するチカプを工房の名に頂戴した。

「夏に放牧した牛の乳で作ったチーズを半年間熟成させたのがシマフクロウです。うちには1月頃届きます。手元になくなったら売り切れ。

そのままでもいいし、薄く切ったものをグラタンにのせて焼いてください。放牧全盛期の牛乳なので、草に含まれるβカロテンがチーズに反映され、黄色味を帯びているのが特徴です」

当初チーズとそれに合う道産ワインやハチミツを扱っていた。その後、チーズ工房チカプが、チーズに合うクラッカーを作っているVOSTOK labo(根室市)を紹介してくれた。

道産小麦、道産米油、大雪山のミネラルウォーター、ゲランドの塩にポルチーニ、青のり、塩昆布、トマトを練り込んで焼き上げたクラッカーだ。

「お好みの道産チーズをこのクラッカーにのせて食べてみてください。クリーミィな白カビタイプのものと相性がいいと思います。中でも、塩昆布と青のりは、漁業の盛んな根室市でとれた地場のものを使っているので、特におすすめです」

チーズはもちろん、ワインもハチミツもクラッカーも持ち帰ることができるが、ここで食べるしかないものがひとつだけある。

「店内にあるアイスクリームメーカーで作ったアイスクリームがそれです。北海道の牧場から届く牛乳に砂糖などを加えて作っています。不定期で牧場が変わるため、あっさりとしたアイスクリームもあれば、濃厚な味わいのものとも出会うことができるはずです」

■チーズ専門店「チーズのこえ」
東京都江東区平野1-7-7第一近藤ビル 
03-5875-8023
営業時間 11:00?19:00
定休日 不定休