By vaXzine

壮年期に発症し老年期にまで慢性的に進行する疾病のことは老人病と呼ばれ、老人病には心臓疾患や悪性腫瘍などさまざまな疾病が含まれます。ある分子生物学者たちが行ったマウスの実験で、体内にある老化細胞を破壊すると老人病の発症を止めたり遅らせたりできることが判明し、人間にも効果がある可能性が出てきました。

Naturally occurring p16Ink4a-positive cells shorten healthy span

(PDF)http://dx.doi.org/10.1038/nature16932

Destroying worn-out cells makes mice live longer : Nature News & Comment

http://www.nature.com/news/destroying-worn-out-cells-makes-mice-live-longer-1.19287

動物は年を重ねると共に、細胞分裂ができない状態になった老化細胞が体内に蓄積されます。老化細胞は組織周囲に害を及ぼす分子を発生させ、これが腎不全や2型糖尿病といった老人病に関係しているとのこと。アメリカのミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックのDarren Baker博士およびJan van Deursen博士は、老化細胞を破壊すると体にどのような変化が起こるのか調べるべく、ネズミを使った実験を行いました。



By Mycroyance

両博士が率いる研究チームによって行われた実験は、AP20187という薬品を投与すると老化細胞が死滅するマウスと、時間経過と共に老化細胞が増幅するマウスを遺伝子操作で作り、健康状態にどのような違いが起こるのか調べるというもの。実験結果から、老化細胞が死滅したマウスの腎臓は老化細胞が増幅するマウスよりも健康に機能しており、心臓はストレスからの回復が早いことが判明。また、老化細胞が死滅したマウスはもう一方よりも行動が活発的で、ガンの発症も遅かったとのこと。実験データをまとめると、老化細胞が死滅したマウスは、老化細胞が増幅するマウスよりも20〜30%長生きしたことがわかりました。

今回の実験は両博士が2011年に発表した、マウスの老化細胞を除去すると老人病の発症を遅らせることができるという研究の続きとなるものです。

老人病の対処法を見つけるべく、Baker博士やDeursen博士を含む分子生物学者たちは人間の老化細胞を直接破壊する薬、もしくは組織周囲に害を及ぼす分子の発生を止める薬の開発に乗り出しているとのこと。また、Deursen博士は、老化細胞を破壊したり機能を制限したりする薬の特許を取得済みです。



By World Bank Photo Collection

インペリアル・カレッジ・ロンドンの臨床科学者であるDominic Withers博士は「Baker博士とDeursen博士が行った実験により、老化細胞が老人病の発症原因に重要な役割を持っていることが示されました。私自身は、老化細胞への対処が老人病治療の選択肢になり得ると思います」と実験を評価しています。

今回の実験が老人病で悩んでいる人の新しい希望となるのかどうか、今後の展開に期待がかかります。