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●「面白み」をブレずに芯にすること
『のだめカンタービレ』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、ヒットアニメを多く発信しているフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」。多くの人に支持される企画を定期的に発信していくコツなどはあるのか、最新作『僕だけがいない街』のプロデューサーである、アニプレックス 企画制作グループ 企画制作部 鈴木健太さんに話を伺った。

○プロデューサーという仕事

――今、鈴木さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか。

アニプレックスという会社は、アニメの企画制作、宣伝、商品販売、配信、海外、ゲームなど、アニメーション作品をもとにしたビジネスを展開している会社です。私は企画制作部という、アニメーション作品の企画を立て、実際に制作する部署に所属しています。例えば自分が面白いと思う漫画の作品があった時に、その作品のアニメ化の企画を立て、どのように実現させる事が出来るか、を考えるところから始めます。原作があれば、原作元に許諾を頂き、監督をはじめスタッフィングの構築や、フジテレビなどの放送局の方など、ビジネス周りのスタッフに参画頂き、一緒に進めていきます。企画を成立させる面と、作品を実際に作るという面、両方に関わる仕事ですね。

ただ企画には、色々な成り立ち方があります。手を上げる人がプロデューサーなこともあれば、原作元の方のこともあるし、監督や現場の制作スタッフから出てくることもあります。『僕だけがいない街』は、監督の伊藤智彦さんが作品を読んで「面白い、アニメにしたい」と、私達に声をかけてくださったんです。私は伊藤さんの別作品にも関わらせて頂いていたので、「伊藤さんがやってくれるなら」と、企画を動かしていきました。

――企画の発案者が誰であっても、最終的な決断をしなければならないのかなという印象がありますが

プロデューサー個人に企画成立の最終判断権があるというよりは、企画は基本的には様々な人間が集まって成り立っているものなので、まず、その企画に参画するかどうかの個々人の判断があり、最終的に集まった人間たちで企画を動かしていくという事なんだと思います。そういう意味だと、何を判断基準にするかというのは非常に重要です。今回のポイントは二点あって、まずは作品が面白いこと。先が気になって、当時発売されていたコミックスを一気に読んでしまいました。最新7巻までで239万部と大ヒットになっていて、そのくらい反響を引き出す力を持っていたんだと思います。

もう一つは、監督の伊藤智彦さんはじめ、脚本の岸本卓さん、キャラクターデザインの佐々木啓悟さんなど、才能あるクリエイターの人と一緒に仕事ができるということ。この面白い作品を、このスタッフの方々がアニメーションにしたら絶対面白いものになると思ったんです。

――アニメーションを作る際に、いろいろな方が関わっているんですね

そうですね、オープニングとエンディングにクレジットされている方々と、そこに名前が載っていないけど協力頂いている方々を加えると、ものすごい数の人間が関わって企画が成り立ち、作品が生み出されています。製作委員会だけで10社入っています。アニメーションの作り方は映画と同じで、製作委員会方式が多いんです。各社が得意分野で動いて作品を広められる強みがありますけど、逆に意見が分かれた時に意思決定が遅くなることもあります。でも、この企画は、参画している方々全員が作品に惚れ込んでいるので、議論はぶつけ合いますが、みんなが企画と作品をより良くしたい、という方向性はブレがなく、よい雰囲気で進んでいると思います。

――鈴木さんはこれまでどのような作品に関わってこられたのでしょうか

私は入社してからずっと宣伝部にいたので、自分がプロデューサーとしてメインで関わったのはこの作品が初になります。宣伝プロデューサーとしてはたくさんの作品に関わらせてもらいました。関わらせて頂いた作品はどれも思い入れがあるのですが、敢えて挙げるとしたら、ノイタミナで放送していた『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)は転機になった作品です。また、伊藤智彦さんが監督を務めた『ソードアート・オンライン』も関わらせて頂いて胸を張れる、光栄な作品ですね。

○企画の面白みがどこにあるのかは、時間をかけて話し合う

――様々な企画に関わるなかで、大切にしていることはありますか

根本に立ち返ると、やっぱり企画として扱おうとしているものに対して、面白みを感じられるかどうかだと思います。それは作品自体の面白さに感じることもあれば、「こういうやり方をしたら反響がありそうだ」という仕掛けの部分に感じることもあるかもしれません。企画のどこかに面白みを感じないと、成り立たせることは難しいと思います。

――「面白み」をどちらに感じるか、タイプなどはあるんでしょうか?

いろんな人がいますが、どちらかだけで成功することは難しいと思います。私も色々な面で企画を検討するように心がけています。

――自分の感じる「面白み」が間違ってたらとか……

もちろん、あると思います。世の中に出ているもののほとんどは、「絶対ヒットする!」と思って企画されているはずなんです。それなのに、結果が出るものと出ないものにわかれてしまう。

ただ、作り手が企画の選び方、成り立たせ方、作り方でブレなければ、どんな結果は出ても納得はできるはずなんです。自分たちが納得しないまま進んで、結果もだめだったときが、一番つらいですよね。そこはブレないようにしたいと思っています。

――何が「面白み」か、チームで最初に共有されたりはしますか?

作品のテーマはなんだろうという話は、すごくしますね。『僕だけがいない街』でもたくさん話し合いました。サスペンスっぽくもあるし、過去に戻ったときのノスタルジー感もあるし、いろいろ話し合った結果は作品自体にも反映されていると思います。また、「面白み」は、作品を宣伝していく上でも非常に重要な要素なので、作り方だけでなく、伝え方もすごく考えます。

●『あの花』の反響は大きかった
○コミュニケーション能力は、あとから身につくもの

――いろいろな人の主張をまとめるには、コミュニケーション能力がいりそうですね

この仕事は、自ら動いて色々な人と関わらないと何も成り立たないので、必要だとは思います。一方で、生まれ持ったものではないんだなとも思いました。私は学生時代、○○実行委員をやらないと気がすまないとか、そういうタイプの人間では全く無かったので。自らがやりたい仕事に就き、自分が動くことによって企画が動いて、『僕街』や『あの花』のように反響を頂けたり、そういう"仕事が本当に面白い瞬間"を経験して、能力が身についていったと思います

――『あの花』はやはり大きかったですか?

大きかったですね。当時、入社3年目の自分に担わせてくれた、会社とプロデューサーにはとても感謝しています。宣伝の仕事として、間違いなく誇りにしたい作品の一つです。オリジナル作品であれだけ反響や感想を頂いて、すごく嬉しかったです。ふだんアニメを見ない人からもリアクションがあったのは驚きました。思い返せば色々な事をやりましたね。

――具体的にどのようなことを

まずプロモーションスケジュールを、日単位、時間単位で細かく作りました。ニュースリリースや、解禁ネタ、広告や、CM、Twitterなどなど、「この日、このタイミングで!」というのを全て決め、実施していきましたね。もちろんリアルタイムで新しいネタや、アイディアが出てくるので、随時更新して実行して行きました。 ここまで細かく設定して実行していた人間は、少なくとも自分の周りにはいませんでしたね。

ほかには、埼玉県の秩父市が作品の舞台だったので、秩父市の方や、西武鉄道さんと色々な取り組みをしていました。街の方にも作品を受け入れて頂けて、アニメをきっかけに訪れる人が増えているというお話を聞いた時は嬉しかったですね。あとは秩父ミューズパークという5000人くらい収容できる屋外ステージでイベントを開催したのも印象深いです。会場は駅から離れた山のほうだったのですが、本当に沢山の方に集まって頂いてとても感慨深かったです。

まだ三年目ということで、一つの作品に集中できる環境というのもありましたし。宣伝費もたくさん使いましたね。合計するとTVシリーズで考えたらありえないくらい使ってます…。

――そんなに使えるものなんですか! 今はプロデューサーという立場ですが

一番に考えなければいけないのは作品の成功なので、たくさんの人が興味を持ってもらうために宣伝費が多く必要であれば、その前提で予算を組みます。お金がかかるのはしかたのないことです。ただ、費用をかけるタイミングの見極めと、かけるに値するかは、きちんと精査します。それは宣伝をやっていた時から変わりません。

○求められる「見極め力」

――見極めは大事ですか

非常に大事だと思います。世の中に面白いエンタテイメントがあふれている今の時代だからこそ、仕掛けてアクセルを踏むタイミングを見極めたい。そこまでがエンターテイメントだと思っています。

――見極め力を磨くにはどうしたらいいでしょうか

ありきたりかもしれませんが、まずは「考える」ということだと思います。作品のことはもちろん、受けとってくれる方々のことも考える。自分よがりになった瞬間に、エンタテイメントは終わると思うんですよ。意識しないと惰性になってしまうこともあると思うので、そこは気をつけたいと思っています。その企画、作品にとってのベストがあると思っているので、そこは妥協せず考え抜きたいと思いますね。 そして、考えたアイディアは、必ず行動に移さないと行けないと思います。考えただけではそのアイディアは皆さんに伝わっていないですからね。

――何かヒットしたときに、「それ前から考えてたのにな〜」と言う人もいますよね

アイディアは先に実行した人のものだと思います。思いついたら絶対にやったほうがいいですね。

○誰が受け手であっても、作品作りの根本は変わらない

――受け手という話が出てきましたが、どういう受け手をイメージされているのでしょうか。特に「ノイタミナ」という枠は、アニメファンではない人も見るイメージがありますが、違いなどはありますか

私は、「アニメファンか」「そうで無いか」というよりは、「アニメを見るか」「見ないか」、という捉え方をしています。この企画は「アニメーション」なので、「アニメを見る」人達に向けて発信をしていきます。もちろん「アニメを見る」人達の中には様々な趣向の方がいるので、その趣向に合わせて発信の優先順位を付け、発信の仕方を変えます。 ジブリ作品も、細田守監督の作品も、深夜アニメも、基本的には「アニメ」なので、最初の入り口は最も広く捉えた方が良いと思っています。ジブリだけを見る人がいる一方で、深夜アニメだけを見る人もいます。それは決して「アニメファンか」「そうで無いか」という括りではなく、あくまでも趣向の違いだと考えています。

なので、「ノイタミナ」だから、受け手が特別に変わるということは意識していません。ただ、「ノイタミナ」はフジテレビさんで放送される枠なので、 作品への到達のしやすさはあると思います。リアルタイムの反応や、torneの予約数など、より多くの人に見てもらえている感触はありますね。

でも、「ノイタミナだから」という企画や作品は、ないと思っています。作り手がそこを意識しすぎてしまうと、作品が制限されてしまうと思うんです。根本的にエンタテイメントを作ることが大切だと、個人的には思っています。

そういう意味では「僕だけがいない街」は極上のエンターテイメント作品だと思いますので、是非楽しんで頂きたいですね。

――ありがとうございました

『僕だけがいない街』

自分だけの時が巻き戻る現象"再上映(リバイバル)"に悩まされる青年・藤沼悟が、自らの過去と対峙し、もがく姿を描く"時間逆行"サスペンス。

毎週木曜24:55からフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送中

(C)2016 三部けい/KADOKAWA/アニメ「僕街」製作委員会

(佐々木なつみ)