2日、大矢根聡・同志社大学教授が「TPPの政治学」と題して講演。「米国は中国脅威論には与さなかった」と指摘した上で、TPPについて「世界はグローバル化し、相互に依存しているので、(戦前のような)ブロック化の動きにはつながらない」と強調した。

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2016年2月2日、大矢根聡・同志社大学教授は「環太平洋連携協定(TPP)の政治学―政治家の言葉と外交の視点から」と題して、日本記者クラブで講演した。日本は「中国を囲い込み日米協調を推進するためにTPP は必要と」いう論法だったが、米国は中国脅威論には与(くみ)さなかったと指摘。「世界はグローバル化し、貿易、投資、技術協力などで相互に依存しているので、(戦前のような)ブロック化の動きにはつながらない」とし、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)とも対立しない、と強調した。その上で、「中国など中進国が脅威となり相互に緊張が生じたとしても、経済など協調できる分野から連携し、安全保障など他の分野に広げていく努力が必要だ」と訴えた。

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大矢根氏は日本の外交通商政策に詳しく、「国際レジームと日米の外交構想 ― WTO・APEC・FTAの転換局面」(有斐閣)などの著作がある。発言要旨は次の通り。

環太平洋連携協定(TPP)交渉は、単なる自由貿易協定にとどまらず、安全保障や社会保障なども論じる奇妙な経済外交交渉であった。自由貿易の正当性や信頼性が相対的に低下する中で、「広域的メガFTA(自由貿易協定)」「米中対峙の構図」などの要素があった。

日本でのTPPを巡る国会審議での主張を分析すると、TPP支持(325件)では「地域のルールづくり」「経済成長活性化」などが1位、2位を占め、本来あるべき「自由貿易の推進」は3位にとどまっている。一方で反対意見(936件)では、「農業の打撃」「アメリカの利益・陰謀」「国民への説明不足」「食糧安全保障」の順で農業問題が上位に並んだ。「アジア外交に問題」「医療保険の動揺」など外交・社会保障上の問題点を指摘する主張も目立った。以前の自由化交渉時には自由貿易対保護貿易、工業生産者対農業従事者など個別利害が関心の中心だったが、対立の構図が大きく変化した。

当初、日本は中国を囲い込み、日米協調を推進するためにTPP は必要という論法だったが、米国は中国脅威論には与さなかった。「安全保障ジレンマ」(軍備増強や同盟締結など自国の安全を高めようと意図した国家の行動が、別の国家に類似の措置を促し、結果的に衝突につながる緊張状態を招いてしまう状況)となってしまうからだ。オバマ大統領は「必要以上に日米同盟など安全保障を強調するのは中国への挑発とみなされる」と懸念、日米間には「意識のズレ」があった。安倍首相もTPP大筋合意後は「中国などとの共存共栄を展望すべきである」と言い方が変わった。

TPPをAIIBと対立させる主張もあるが、もともと、貿易協定と投資協定の違いがあり、対立するものではない。世界はグローバル化し、貿易、投資、技術協力などで相互に依存しているので、(戦前のような)ブロック化の動きにはつながらない。

中国などの脅威となる中進国があり、相互に緊張があったとしても、経済など協調できる分野から連携し、安全保障など他の分野に広げていく努力が必要だ。(八牧浩行)