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ルネサス エレクトロニクスのブースでは、チップの説明よりも、チップで何ができるかに重点が置かれていた。前編で強調したぶれないルネサスの4つのテーマ。(1) エコカー・燃費向上、(2)メンテナンス性の向上、(3)安全性の向上、(4)クルマのIT化(総合コックピット)について、紹介しよう。

○エコカー・燃費向上のカギは高性能マイコン

今から10年後でも、従来の内燃エンジン車の方が、EV/ハイブリッド(HEV)や燃料電池車よりもずっと多いと予想されている。SiCだ、GaNだ、と新しいパワー半導体が登場してきても価格がIGBTの10倍も高いからまだ普及していない。だからこそ、内燃エンジンの燃費を極限まで追求し、いかに少ないガソリンで遠くまで走れるか、燃費を向上させCO2排出を減らすかを追求していく。このためには、最適なタイミングでの点火や燃料噴射のタイミングをマイコンできっちり制御していくことになる。

ルネサスはマイコン「RH-850」の性能を上げ、制御アルゴリズムを高速に計算できるように進化させ続けている。市販の55/65nmプロセスルールで264MHzのクロックで動かすマイコンと比べ、40nmでその1.7倍、28nmルールに微細化して400MHzで動かすと2.9倍にも性能は上がる(図1)。これにより、細かい分解能のタイミングでエンジンを制御できるため、燃費が良くなりガソリンの消費量が減ることになる。点火に必要な高耐圧ICの性能も上げ、0.18μmの市販品と比べ90nmに微細化した高耐圧ICは1.5倍の電流密度を上げることができる。面積当たりの電流を増やすことができるため、安い価格で電流を高速にスイッチできることになる。

EV/HEVに使うモータ制御にもマイコンは大活躍する。クルマではできるだけ低コストで高性能を実現させることが不可欠。このために2台のモータを1個のマイコンで制御するほどの性能を実証している(図2)。モータ2台が必要なのは、HEV/EVの駆動用のモータと、回生ブレーキ用のモータ(正確には発電機(ダイナモ))を動かすために必要だからである。マイコン1個であってもドライバとパワー半導体はそれぞれのモータに必要だが、低コストでワイヤハーネスも少なくできれば大きなメリットとなる。将来、EVのコストがさらに下がり走行距離が伸びれば、4WB車を駆動する場合にも使える技術となる。

さらに電力効率の向上によりパワーインバータを小型にできるが、インバータの堆積を従来の4.9リットルから2.9リットル、さらには0.9リットルへと小型にしたデモも見せた。0.9リットルはモータの中にECUプリント回路基板を搭載してしまったもの(図3)。モータ専業メーカーの安川電機も1〜2年前に試作した例を見せたが、マイコンメーカーがモータにインバータを集積して見せたのはこれが初めて。

モータ制御回路の効率を上げるためにマイコンからドライバIC、パワー半導体までを組んで実証しなければならないが、それを短期間で開発するためにまずはシミュレーションで確認することが重要。ルネサスはデバイスを作る前に、モデルベースでシミュレーションし、動作を確実にするという手法も開発している。

○メンテナンスの向上

セキュリティを含めた安全分析、安全対策をサポートする制御プログラムを更新するサービスも提供する。クルマの持ち主はディーラーに行かなくてもプログラムのアップデートができる(図4)。このためのプログラムの更新、診断、修復をフラッシュマイコン+セキュリティ技術でメンテナンスできるようにして行く。それもOTA(Over the air)ネットワークなどを通じてフラッシュマイコンのプログラムを更新する。

さらに、クルマを外部のハッカーから守るためのセキュリティにも力を注いでいる。情報系のシステムはセキュリティが入り込みやすい。このため、情報系から制御系(走る・止まる・曲がる)にデータを手渡す時に、認証方式などのセキュリティの壁を設けておく。

○安全性の向上

交通事故を防ぐための安全性の向上も欠かせない。安全性を上げるためには、人やクルマをセンサによって認識し、その結果を制御系システムにつなげて、ブレーキを制御し、ハンドルや姿勢も制御する。認識や意味理解には演算リッチなSoC、ブレーキやハンドルなどの制御には制御命令主体のマイコンを使うが、両方が得意な半導体メーカーがルネサスだ、と執行役員常務の大村隆司氏は強調する。

制御用マイコン「RH-850/P1x-C」は、ISO 26262機能安全規格のASIL-Dレベルに適合しており、いろいろな診断機能を備えている(図5)。車載のセキュリティHSM(Hardware Security Module)にも対応しており、高性能で最大8MBという大容量フラッシュを内蔵し、4チャンネルCANやFlexRayなど合計20チャンネルもの接続インタフェースを持つ。それでいながら消費電力は0.9Wしかないため、熱設計が簡単で特別な放熱フィンは要らない。

自動運転の手前のADASシステムに向けた半導体、開発ツール、ソフトウェアプラットフォームも用意している。衝突防止用のレーダーシステム、4台のカメラによるサラウンドビューモニター、ADASそのものの認識を司るSoC、V2X通信ソリューションなどに向けたソリューションを提供する。例えば、レーダーやライダー(LIDAR)、カメラなどのセンサデータを集め、360度に渡り人や物体を認識する(図6)。そのためのソリューションも準備している。LIDARは、レーザーやLED光を360度回転させ、その反射を検出して距離を測り、クルマの周囲(クルマや人、自転車など)との距離を測る装置であり、メカニカルスキャン方式が主流だが、MEMSによるスキャン方式も提案されている。

今回のカーエレクトロニクス展示会では、駐車場の空き情報をクラウドに蓄え、クルマに泊まるべき場所データを送り、自動運転でその場所に停まる、というデモを行った(図7)。動かない駐車場の情報をクラウドに上げておき、新しいクルマが駐車場にやってくると空き情報をクラウドからクルマに伝える。自動運転車はカメラを備え、駐車場に入ったら駐車場の情報にしたがう。

○クルマのコンピュータ化

クルマの走行中は、データをクラウドに上げて計算するのではなく、クルマ内のコンピュータ能力を高めておく必要がある。クラウドとのやり取りだけに頼っていては、応答が遅くなる恐れがあるためだ。このためにITのコンピュータ能力を高めておく。そして、そのインタフェースとなるのがダッシュボード周りであり、ルネサスはそれをコックピットと呼んでいる(図8)。いわばドライブシミュレータのようなものだ。

今回の展示会で同社は、総合コックピットをフロントガラス前面にヘッドアップディスプレイ(HUD)を用いて表示させるというデモを行った(図9)。例えば霧などで前方がよく見えない場合、AR(拡張現実)を用いて、視界が短くてもHUDを通した景色は、まるで霧が晴れたように遠くまで見通せるようになっている。このIT化には、安全性を向上させるための認識と判断機能を高速に計算するSoCとして、R-Car H3を提案する。R-Car H3はカメラやレーダー、ライダーなどからのカメラ映像と、その情報から車を「走る、止める、曲がる」という操作を行う半導体も用意している。

ルネサスはこれらを提案するための基板プラットフォームを開発した。このことで、ADASやIT関係の機能を実現するためのソフトウェアを作りやすくなる。ルネサスは、クルマをもっと賢く制御するためのソフトウェア開発をはじめ、さまざまなツールやIP、さらにはハードウェアの実装、サービスなどで協業する仲間を集めている。参加企業にとってもビジネスチャンスが広がる。ルネサスがR-Carコンソーシアムと呼ぶ、エコシステムがそれだ。すでに170社以上参加しており、参加企業が増えている。ちなみにこの1年で30社以上増えたとしている。

(津田建二)