記録はいつか途切れるものとはいえ、それをやってのけたのが31歳で引退間近の“お荷物大関”になるとは誰が予想しただろうか。
 大相撲初場所(東京・両国国技館)で'06年初場所の大関・栃東以来10年ぶりとなる日本出身力士、大関・琴奨菊(31)が初優勝した。それも白鵬など3横綱を3タテするなど、文句のつけようのない内容だった。
 「神がかり的、というのはこの場所の琴奨菊のことです。4日目の安美錦戦で物言いをつけられてもおかしくない勝負を拾うなどツキもありましたが、終盤は持ち前の鋭い出足とパワーで完全に相手をねじ伏せましたから。どうして突然、こんな目の覚めるような相撲が取れたのか。本人もよく掴みきれていないようでしたが、相撲協会の中でも、この優勝に驚いた関係者が多かったことは確かです」(担当記者)

 そんな初優勝の裏にあったのが、新妻の内助の功だ。
 昨年7月に結婚した祐未夫人とは入籍を済ませただけで、式を挙げるのは1月30日。実は今場所好調だったのも「賜杯の横に必ず座らせてあげる」と彼女に約束していたからだという。

 そしてもう一つ、あのルーティンにも秘密があった。
 「琴奨菊は精神的に弱く、小心キャラだった。精神安定剤を服用しながら出場を続けたり、大関昇進前には写経をしていました。今は心を落ち着かせるため、深呼吸をする。それが、最後の仕切りの際、上体を大きく反らして深呼吸をする“琴バウアー”です。確か、深呼吸の効用は東海大の先生に教わったと聞いています」(スポーツ紙記者)

 そんな苦労が知られていただけに、琴奨菊が豪栄道を破って優勝を決めた直後の国技館内はまるでお祭り騒ぎ。初場所が終わると、大相撲界ではもう一つのビッグイベント、理事選(役員候補選挙)が行われるが、苦戦が予想される九重親方(元横綱・千代の富士)までお祝いの言葉を述べたほど。
 だが、当のヒーローの目にはドラマチックな優勝につきものの涙はなく、支度部屋に戻るなり、「感無量。今日も迷いなくいけた。日本人10年ぶりの優勝は、たまたま自分がそのときに優勝しただけ。本当に(ケガだらけの)この体でよく闘った」と語った。

 さあ、来場所は綱取りだ。日本人横綱がいなくなって丸13年。果たして琴奨菊はもう一度、旋風を巻き起こすことができるか。