昨年4月に日本で創設されたフォーミュラレース入門カテゴリー『FIA-F4選手権』のピットガレージで、その少女は"お掃除のお姉さん"と呼ばれていた。彼女の名は、小山美姫――。陽の当たらない場所にいた少女は、かつてFIA-F4で優勝争いをする若いドライバーたちとカートで互角以上の走りを見せ、一目置かれた存在だった。そしてライバルたちから遅れること数ヶ月、10月末になってようやくFIA-F4デビューのチャンスを掴んだ。2016年シーズン、18歳になった彼女に話を聞いた。

―― まずは自己紹介をお願いします。

小山美姫(以下:小山):性格をひと言で表すと......、変わり者です(笑)。

―― 「女子ドライバー」ということで好奇の目で見られることもあると思いますが、どう感じますか?

小山:私は内面も"男"なんで照れちゃいますが(笑)、あんまり気にしてないですね。一応、女子なんですけど(笑)。そんなに女子ってことは意識してないかな。

―― レースを始めたきっかけは?

小山:もともとは父ちゃんがバイク好きで、その影響でポケバイに乗っていたんです。でも、女子だから、「本気でやるなら2輪は危なすぎる」と言われたところに、お母さんが書店でカートの雑誌を間違えて買ってきてしまったんです。それを父ちゃんとふたりで見て、「ちょっと(カート場に)行ってみるか!」っていうのがきっかけです。それが5歳のときで、それからはずっとカートをやっていました。

―― 子どものころからレース一筋だったんですか?

小山:私は運動神経がいいほうで、何でもできちゃうんです。スイミングプールに行っても、1日ずつ進級していっちゃうぐらい。テニスもやったし、極真空手もやったけど、どれもすぐに上達してしまって楽しくないから、結局やめちゃうんです。テアトルアカデミー(総合芸能学院)では母がやらせてみたかった子役もやって、4歳のときにはドラマで菅野美穂さんと共演させてもらったこともありました。でも、カートと出会って、『私の人生だから、勝手に決めないで!』って言って子役もやめたんです(笑)。

―― カートの世界は男子だらけで、大変ではないですか。周りに女子ドライバーは?

小山:いなかったですね。でも、そのなかで戦うのも面白いなと思ったんです。野球でも、サッカーでも、普通はスポーツといったら男女が分けられてしまうじゃないですか? でも、レースは男女の差がなく同じ土俵で戦える。私はもともと男っぽい性格だし(笑)、「男に負けんな!」っていう父ちゃんの教えもあったんで、余計に燃えましたね。

―― お父さんの教育はスパルタでした?

小山:腕にウェイトを付けさせられて、幼稚園を休んで走りに行ったり、「今から腕立て伏せ200回だ!」「腹筋200回だ!」という環境でしたね。「できないんならやめちまえ!」とも言われていました(笑)。ただ、私もそんなふうに言われて、負けたままやめるのが嫌だったから、努力して、「どんなクルマに乗っても自分が一番速い」って自信をもって言えるくらいにはなりました。実際に何度も勝ったし、チャンピオンにもなったし。

―― カートで戦っていたライバルが次々と卒業して4輪デビューを果たしていくなか、小山さんは周りからは出遅れる形となりました。

小山:チームのお手伝いでサーキットに来させてもらって、カート時代に一緒に走っていた子たちがレースしているのを見ると、『なんでアイツが乗ってんだよ』っていう気持ちになることはありました。もちろん、みんな努力してそこに行き着いているわけで、自分が乗れないのは努力が足りなかったせい。ひがむというよりも、悔しいとか情けないっていう気持ちのほうが強かったです。

―― のちにシートを獲得することになる『miNami aoYama』のワークアウトに参加したり、FTRS(フォーミュラ・トヨタ・レーシング・スクール)に参加して、いずれもオーディションで不合格という経験もしました。

小山:あのワークアウトでは、すごくひどい落とされ方をしました(苦笑)。「ドライバー失格」と全否定されて、最初は『何、この人たち?』って思いましたね。すごく頭に来たし、『私の何がわかるんだ!?』って思っていました。ただ、今となってみれば、ドライビングだけじゃなくて、人間性も含めて自分に足りないところをたくさん指摘してもらえたことが大きかったです。でも、あのときは悔しくて、「そんなふうに言われて、負けたまま終わりたくない」って思ったので、現場に行けば勉強になるし可能性も広がるだろうから、「お手伝いをさせてください」とお願いしたんです。

―― レース現場に来て、「お掃除のお姉さん」と言われているときは、どんな気持ちでしたか?

小山:「いつか絶対に乗ってやる」「乗ったら私のほうが速いんだ!」って思いながら、とにかく今ある環境のなかで学べることはできるだけ学ぼう、という気持ちでした。乗れないなら乗れないなりに、外から見てわかることもあるだろうと思って、お手伝いでカウルの掃除をしながらレースをしっかり見て吸収して、自分にチャンスが巡ってきたときには全開で行けるようにと。

―― その後、miNami aoYamaのマシンでFIA-F4終盤2ラウンド4戦に出られることになったときの気持ちは?

小山:「え、うそ?」って思いましたね(笑)。絶対に乗ってやると思ってはいたけど、まさか乗れる場所がmiNami aoYamaだとは思ってなかったので、とにかくビックリしました。そのときはまだ、普通運転免許もなかったし。

―― そして実際にデビューしたものの、成績は......(28位、26位、26位、26位)。

小山:いやぁ(苦笑)。

―― もっと上に行けると思っていました?

小山:思っていました。でも、実際に走ってみたら結構遅かった。『ちょー遅いじゃん!』って(苦笑)。思いどおりに走れなくて、情けなくて涙が出てきました。

―― 自分が思ったようなレースはできませんでしたか?

小山:練習走行がほとんどできないまま、いきなりレースをしなきゃならなくて、自分の限界を超えた走りをしてクルマを壊すわけにはいかなかった。どこまで攻めたらスピンするかもわからないし。

―― しかし、今は2016年シーズンに向けて、かなり多くの練習走行をこなしています。

小山:これだけ練習させてもらえると、自分のなかでいろんなトライができるし、走行を重ねるごとにわかることもありましたが、走った分だけ成長するのは当たり前だと思います。ただ、みんなに追いつこうと思ったら、そんな成長じゃ全然足りない。人の何倍も努力して、何倍も速く上がっていかなきゃいけない。そこに焦りはあります。

―― 今年の目標は?

小山:とにかく勝ちたいです。勝つことって本当に大変だし、みんな努力をしているので、今の私が「勝つ」なんて言ったら、「ナメめてんのか!」ってブーイングを浴びると思いますけど(笑)。でも、「勝ちたい」って言えるだけの努力はしているつもりだし、自信を持ってそう言います。

―― レーシングドライバーとしての目標は?

小山:やっぱり、F1ですよ。「何、言ってんの?」って言われるかもしれないけど、夢は大きくてもいいじゃないですか? 夢はF1です。今は現実的じゃないかもしれない。でも、それを少しでも現実に近づけるために、あとは努力するだけです。


【Profile】
小山美姫(こやま・みき)
1997年9月5日生まれ、神奈川県出身。父の影響でカートに興味を持ち、わずか5歳で小学1年生以上の部に特別参加。各カテゴリーで好成績を収め、2013年には海外のレースにも参戦する。「F1レーサーになるために英語は必須」と、2014年にはフィリピンに語学留学。昨年10月、FIA-F4選手権でフォーミュラカーレースデビューを果たした。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki