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●ディープラーニングが生まれるまで
現在、IT業界のみならず、さまざまな産業界で最もホットな話題のひとつである「人工知能(AI)」。かつてSFの夢物語だった「考える機械」が、今、さまざまな産業界において、急速なピッチで現実のものになろうとしている。人工知能の進化の裏には、技術面での進化が欠かせないものだった。

○人工知能のレベルを引き上げた「ディープラーニング」

人工知能というと、映画「2001年宇宙の旅」の「HAL」のように人類に反乱を起こすちょっと危険なコンピュータ、あるいは「鉄腕アトム」や「ドラえもん」のように人間臭い感情を持ったロボットのことを思い出す人が多いのではないだろうか。現実の人工知能はこういったレベルには達しておらず、画像認識や音声認識など、限られた処理において、「人間が正確に条件を入力しなくても、自分で推測して答えを導き出す」という程度のものにすぎない。しかし、技術の進歩に伴い、その精度と速度は人間を上回るものになろうとしている。

たとえば、画像の中に何が写り込んでいるかを見つけ出す画像認識については、2011年ごろまでは「機械学習」という手法で鍛えられた人工知能は長年、80%程度の正答率を超えることができなかった。しかし2012年に新しい処理方法「ディープラーニング」を使って鍛え上げた人工知能が国際的な画像認識コンテスト「ILSVRC」で前年を大きく下回る誤認識率となった。人間の誤認識率は約5%とされており、2015年にはついに人間を上回る精度を実現している。

機械に、人間のように「自分で判断し、自分で答えを見つけ出す」機能を実現させようという試みは、実は1940年代にはスタートしている。「ニューラルネットワーク」という人間の脳の神経伝達を模倣したモデルのうち、最初期の手法である「パーセプトロン」が、最初の学習機能を持った人工知能として登場した。しかし、このパーセプトロンでは解決できない問題が生じてしまった。やがて、「隠れ層」と呼ばれるものを加えた新たなモデルが登場することが問題解決の糸口となったが、十分な精度をもたらすための莫大なデータと、それを現実的な速度で処理する処理速度がなかったため、2000年代にいたるまで人工知能の進化は限定的なものだった。

2000年代に入りインターネットの普及で、学習に利用できる莫大なデータが容易に入手できるようになり、一気にニューラルネットワークを使った研究が進むようになる。特に数段階以上と深い階層を用いるニューラルネットワークを使った学習を「ディープラーニング」(深層学習)と呼ぶようになり、これがそれまでの限定的な浅い階層しか持たない人工知能との決定的な差を生むことになった。

●ディープラーニングの利点
○ディープラーニングの何がすごいのか

ディープラーニングは、それまでの機械学習を発展させたものだ。機械学習では、コンピュータに入力するデータの中から、解析に役立ちそうな特徴を抽出するための仕組みに人の手が介在した。ところがディープラーニングでは、こうした特徴抽出すらも処理の中に含まれており、特徴の選択も機械が学習する。人間は最小限の下処理をしたデータを人工知能に与えてやるだけでいい。

たとえば10万枚の写真の中から「猫」の映った画像だけを探す場合、従来の手段では猫っぽい特徴のあるデータをあらかじめいくつか用意しておき、その部分を指定しておくと、機械がその特徴に似た部分を探してくれるというものだった。

これがディープラーニングだと、与えられた写真を精査し、「これは猫っぽいのではないか」という答えを機械が人間に示してくる。それに対して人間が評価を与えると、その評価をもとに再度データを調べ直す、という手法で精度が徐々に高まっていく。まるで「これは? これは?」と親に聞いてくる子供が、さまざまなものを覚えていくような動きだ。

ディープラーニングは画像認識のほか、自然言語解析や、いわゆるビッグデータのような莫大なデータの解析を得意としている。人間に並び、あるいは上回る精度で有意なデータを見出すことができるディープラーニングから得られる推測データは、人間が参考にするに十分な信頼性を持っている、あるいは人間の感性を超えた解答をもたらす可能性があるのだ。

たとえば米IBM社の人工知能「Watson」は、数十万のレシピを学習した結果、これまでになかった新しいレシピを「提案」するに至っている。

チェスや将棋の世界でも、ディープラーニングで過去の打ち筋を研究した対戦プログラムが、これまでの定石とは全く異なる新しい打ち筋を「発明」している。つまり、人工知能は人間と並ぶ、あるいは超える「知性」を持って、これまでの人類の知能が発見できなかった新しい知見にたどり着くことができる可能性を持っているわけだ。事実、製薬分野などでこれまでに見つかっていない新薬を人工知能が「発明」しているケースもある。これこそがディープラーニングがもたらした人工知能のブレイクスルーそのものだと言っていいだろう。

●人工知能の発達を決める3つの要素
○ディープラーニングを支える2つの柱

ディープラーニングには、ニューラルネットワークを鍛えるための莫大な量のデータと、それを処理するための超高速なコンピュータの2つが必要だ。ディープラーニングにたどり着くまでに、十分な精度をもたらすための莫大なデータと、それを現実的な速度で処理する処理速度がなかったため、2000年代にいたるまで人工知能の進化は限定的だったと記したが、そのことは、最近の研究事例を見てもわかる。

たとえば、2012年にGoogleが猫の概念をディープラーニングによって抽出するのに、200×200ピクセルのYouTube動画から切り出した画像を1000万枚用意し、1000台のコンピュータ(16000CPUコア)を使ってようやく達成できたものだ。しかも時間は1週間かかっている。

幸い、大量のデータは、今ならインターネットにいくらでもデータが転がっている。企業などであれば、行動データやいわゆるビッグデータも、人工知能を鍛える上でもってこいの「餌」なわけだ。もう1つの超高速なコンピュータについても、毎年の技術革新のおかげで、スーパーコンピュータクラスの超高速処理が可能なコンピュータを、個人の研究者がなんとか揃えられるようなレベルにまで価格が下がってきている。ただし、ここでイメージすべきは、超高性能CPUではない。求められるのは、GPUの性能となる。

そして、GPUの開発環境や実績などを見ていくと、ディープラーニングの発達は米NVIDIAが握っているとも言えるのだ。NVIDIA自身も、今ではこの人工知能の分野に力を入れている。ではなぜGPUの発達が求められるのか、NVIDIAがこの分野で取り組んでいるのは、どんなことか。次回はこの点についてみていこう。

(海老原昭)