自民党民主党ホームページより

写真拡大

 今朝(2月1日)の朝刊各紙に驚かれた読者も多いだろう。金銭スキャンダルを起こした甘利明・経済再生担当兼TPP担当相の辞任を受け、マスコミ各社が世論調査を実施したところ、なんと安倍内閣の支持率が上昇したのだ。

「各社の調査では、甘利さんの辞任を当然と受け止める世論が軒並み70%に達しており、世論の反発を数字が裏付けている。ところが内閣支持率をみると、産経新聞や東京新聞が載せた共同通信のデータでは4ポイント、読売新聞が2ポイント、毎日新聞に至っては8ポイントも上昇し、いずれも支持率は50%を超えてしまった。
 急上昇に驚いたのか、毎日は『甘利氏の問題は支持率に影響せず、安全保障関連法への世論の批判が薄れたことや、外交面での実績などがむしろ数字を押し上げたとみられる』などと解説しているが、これではまるで、世論が甘利スキャンダルに怒っていないかのような言い方ではないか」(野党議員)

 そうでなくても、甘利辞任劇をめぐって「さすが武田信玄の末裔」などと武勇伝のように褒めそやすコメントが一部でわき起こった。しかし、賄賂性のあるカネをもらい、フィリピンパブでの接待を受けている政治家や秘書を肯定する一般市民などいるわけがない。

 今回の世論調査結果といい、重要閣僚を失って断末魔に立たされた安倍政権に延命の手を差し伸べるような報道ではないだろうか。一線で取材する大手紙政治部記者が匿名でこう訴える。

「実は、官邸の巧みな世論操作を真に受けて『甘利続投』と報じてしまったマスコミが報道の修正に困り、『続投のはずだった甘利氏が英断に踏み切った』というおかしなストーリーを描いたせいなんです。マスコミの一人マッチポンプともいえる現象。これは末期的症状だな、と内部にいても頭を抱えざるを得ません」

 なるほど、甘利氏が辞任を表明した1月28日の記者会見からさかのぼること2日前の26日深夜。共同通信が「甘利氏、続投強まる」との記事を特ダネ扱いで報じたという。

 この記事が翌27日朝刊に載ると、マスコミ各社は引きずられるように続投報道に染まっていった。この政治部記者が続ける。

「実際、官邸内は、甘利続投論が支配的でした。官房副長官たちは『安倍首相の本音は続投希望だよ』と盛んに囁きあっていました。なかには『甘利さんの金銭授受なんて、そんなものはない』と吹いて回る官邸スタッフもいました。『後任も決まっていないから』とも言われ、取材現場は『甘利続投で間違いない』ですっかり騙されました」

 官邸の世論誘導はこればかりではない。この27日から会見当日の28日にかけて、「甘利続投」の空気が強まると、これをよしとした官邸サイドは、「週刊文春」(文藝春秋)と告発者の薩摩興産・一色武氏へのアンチキャンペーンを張る。

「一色氏が右翼活動家であること、そして千葉県内の県議を脅していたかのようなあまたの怪情報が官邸からドッと流れました。それに、甘利さんの政治資金の調査や秘書たちをヒアリングしていた第三者委員会に、内閣参与の宗像紀夫・元東京地検特捜部長が関わっていて、『刑事犯罪に問われるような話ではない』という見解が伝わってきた。これで、官邸クラブ詰めの記者たちは『甘利は悪くない。はめられた』と真顔で言いだし、自民党幹部も顔負けの被害妄想に駆られたんです」(前出・政治部記者)
 
 悪質なのは政治記者の現場ばかりではない。大手紙の社会部デスクも自嘲気味に打ち明ける。

「政治部から甘利さんの続投報道が出るようになると、せっかく社会部内に立ち上げた甘利取材班の勢いもそがれてしまったね。困ったことに、『週刊文春』の圧倒的な報道に現場記者も手をこまねいてしまい、やることといったら、文春さんの続報のゲラ刷りを固唾をのんで待ち望むという本末転倒な待ちの姿勢になってしまった。リテラが伝えたようなバンダイ疑惑やその他の特捜部案件を伝える動きは鳴りをひそめてしまったね」

 こうしたマスコミ操作の一方で、しかし、官邸は次の一手を打っていた。甘利氏の後任人事をひそかに進めていたようだ。

 実は、安倍首相は会見の3日前の1月25日午後6時半、東京・南麻布の高級イタリア料理店『Appia』で、厚労大臣の塩崎恭久氏とともに、後に甘利氏の後任に指名された石原伸晃氏と会食をしていたのである。これは明らかに、甘利氏の後任を打診したということだろう。

「官邸は、マスコミには『刑事犯罪に問われるような話ではない』『続投で問題ない』という情報を流しつつ、実際は、かなり危ないと考えていた。一色氏は2回目に50万円を甘利氏に渡した際に、口利きを直接依頼したと言っている。もし、テープがあれば完全にアウトだし、テープがなくてもさらに詳細な証言が出てきたら、状況がひっくり返りかねない。実際、甘利氏については掘ればいくらでもスキャンダルの火種は出てくる。そこで、先手を打って甘利氏辞任を想定して、後任探しに着手したというわけです」(前出・政治部記者)

 石原氏と塩崎氏は、第一次安倍政権を重要閣僚として支えた「古いお友達」と言われている。まさに旧友にすがった格好の安倍首相だが、思惑は見事に的中した。マスコミはギリギリまで「甘利更迭」を知らされず、辞任劇を英断と報じる愚挙に出たのだ。しかも、国会審議を待たず、「甘利続投」の大誤報を雲散霧消させるかのように速やかに世論調査を行った。その結果が、内閣支持率の上昇なのだ。

 この3年間、安倍官邸の狡猾な情報操作とそれに踊らされるマスコミという構図がずっと続いてきた。そして、今回もマスコミはまんまとその構図にはまりこみ、重要閣僚の真っ黒な不正は「お咎めなし」どころか「武士の英断」というような話にすり替わってしまった。いったいこの国はどうなってしまっているのだろうか。
(小和田三郎)