大学7連覇の勢いと、トップリーグ(TL)3連覇のプライドがぶつかる。19季ぶりに一発勝負となった日本選手権。実力差はともかく、帝京大は最後までTLの分厚い壁にチャレンジし続けた。

 冬空の1月31日、秩父宮ラグビー場。試合後、帝京大のフッカー、坂手淳史主将は目に涙を溜めた。

「正直、悔しいです。負けた悔しさ、もっとできたなという思い......。みんなの悔し涙や、スタンドの仲間の悔しそうな顔を見たら、自然と(涙が)出てきました」

 そうはいっても、学生王者はよく戦った。立ち上がり、「ロケットスタート」(パナソニック・堀江翔太主将)を狙っていたTL覇者に2連続のノーホイッスルトライを奪われた。前半5分で14点を先行された。

 でも、ゲームは壊れなかった。飯野晃司、金嶺志(きむ・りょんじ)の両ロックが故障で退場しても、フォワードはコンタクトエリアで塊となってファイトした。ラインアウト、スクラムでも圧倒されることはなかった。踏ん張った。

 残り2分。帝京大がペナルティーキックをタッチに蹴って、相手ゴールに迫る。左の5mラインアウト。「絶対、トライをとろう。ラインアウトモールを押し込むぞ」。坂手主将は円陣でそう、声を張り上げた。

 うまく捕球し、赤い塊となって押しこんでいく。が、NO8のブロディ・マクカランはあと30cm、ゴールラインに届かなかった。ドライブし、さらに途中交代のロック姫野和樹がインゴールになだれ込んだが、トライには至らず、5mスクラムと変わる。

「もう一度、前に出るぞ。スクラムを押しこむぞ」

 坂手主将はそう、檄を飛ばした。パナソニックのプッシュにスクラムのバランスを崩したが、左に回りながらも、マクカランがボールをひょいと左ライン際の竹山晃暉につなぎ、その1年生ウイングが鋭いダッシュで左隅ギリギリに飛び込んだ。まさに学生王者の意地だった。

 微妙なトライでビデオ判定に持ち込まれたが、坂手主将は「早く(自陣に)戻れ」とチームメイトに声をかけた。

 坂手主将の試合後の述懐。

「トライだと確信していたので、早くキックオフのセットをしようと思ったんです。次の準備をして、みんな、もう1本(トライを)取りにいこうとの気持ちを持っていました」

 結局、そのままノーサイド。15−49で試合は終わった。学生の何人かは泣いた。約1万3千人の観客からは、帝京大にもあたたかい拍手が送られた。岩出雅之監督は言った。

「学生はよくがんばったと思うし、まだまだ力が足りなかったとも思う。もし、このゲームを自分たちで納得していれば、さわやかな笑顔が出たんじゃないかと思います」

 学生王者には厳しい状況だった。もともと、日本代表5人を並べるパナソニックとは戦力も経験値も差がある。日程的にも、1週間前にTL決勝を戦ったチームに対し、帝京大は大学選手権決勝から3週間も空いていた。どうしても「試合勘」に差が出る。それが前半、後半の入りに出た。

 その環境にあって、学生王者は学生らしく挑んだ。特にブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)。「体のぶつけ合いでは負けていなかった」との坂手主将の言葉通り、コンタクトエリアでは押しこむ場面もあった。相手のジャッカルを警戒し、2人目の寄りが速かった。

 特筆すべきは、パナソニックが得意とするターンオーバーをほとんど許さなかったことである。ディシプリン(規律)と基本プレーがしっかりしているからだろう、反則は相手の「12」に対し、帝京大はわずか「2」だった。ランプレーにしても、フルバックの位置に入った尾崎晟也ほか、スタンドオフ松田力也、ウイング竹山の才能は輝きを放った。

 やはりチーム環境は学生ではずば抜けている。例えば、坂手は昨年12月の試合で左ひじを脱臼したのに、約1ケ月で後半40分間プレーした。左肩でタックルにも入った。東芝病院の高圧酸素カプセルを利用したほか、帝京大学スポーツ医科学センターやチームのトレーナー、栄養士のサポートを受けた。坂手主将は「効果はありました。周りに感謝したい」と言う。

 もっとも、それでもTL王者との差は大きかった。何が? と問えば、坂手主将は「巧さ」と答えた。

「タックルに入れたし、人数も合っていたのに、相手にゲインされてしまった。(パナソニックは)体の使い方が巧いのです。簡単に倒れないし、体を少しずらしてくる」

 アタックで言えば、局面を重ねても、なかなかトライを奪えなかった。最後にパスミス、キャッチミス、コミュニケーションミス、判断ミスが出てしまった。これはもう、プレーに余裕がないからだろう。

 フィジカルはもちろん、フィットネス、スキル、連係プレー、状況判断......。それぞれの質もあるが、余裕を作るためには、なんといっても"慣れ"、すなわち経験値アップである。岩出監督は高速道路の運転に例えた。

「初心者ドライバーは余裕がないでしょ。教習所とは違うじゃないですか。慣れが大事なんです。余裕を作るためには、いい準備といい経験が必要じゃないですかね」

 帝京大は今季、昨夏のパナソニックとの練習試合以降、TL勢とは試合をしてなかった。本気で『打倒! TL王者』を目指すなら、もっとTLとの試合を増やす必要がある。ただ、それも互いの日程があるため難しいのだが。

 今回の一発勝負の日本選手権のやり方が来季も続くとは思えない。スケジュールが変われば、準備のやり方も変わってこよう。いずれにしろ、大学の視点に立てば、一番は日本ラグビーの未来を担う若者たちをどう育成していくかの仕組みづくり、大学の指導体制、環境作りである。

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu