ドラッグストアで撮影中の山下

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 インバウンドによる爆買いで混雑する北海道札幌市内の店に、カメラに囲まれた男性がいた。中国向けに口コミを広げたいサッポロドラッグストアが彼を呼びドラマを撮影しているという。中国人観光客や中国人従業員らにサインや写真を頼まれている。いったい誰なのだろうか。

■中国で一番人気の日本人ネットタレントが日本と中国の潤滑油に

 山下智博は3年前に中国へ留学した。上海大学美術学院大学院生の30歳。おしゃれとはいいがたい古風なサラリーマンメガネに七三分け。中国で「紳士の大体一分間」として、毎日1分程度の動画を主要なサービスで配信し、bilibili動画、youku/Tudouをはじめ、WeiboやWeChatなど多数に展開している。その動画再生回数は3億8千万回(2016年1月現在)を超え、文字通り「中国で一番有名な日本人ネットタレント」となった。

 中国でbilibili動画が誕生してまもなく山下は、動画をアップした。山下が中国で人気者になったきっかけの一つだ。彼がbilibili動画に映像を公開すると「本当の変態日本人がやってきた」「おまわりさんこのひとです」と弾幕が流れていった……。

 一風変わった風船人形を彼女に見立てて地下鉄に乗ったり、ピカチュウのように全身タイツで歩いたりと、きわどい動画も多かったという。その後は曜日ごとにテーマを込めた一分間の動画「紳士の大体一分間」をはじめた。定番の「やってみた」動画だけではなく、日本の若者で流行っているような「おまわりさんこの人です」などユニークな日本語を教えたり、文化や商品なども紹介。1億再生、2億再生と再生回数は伸びていった。

「最初は叩かれるんじゃないかと思いました。 即、強制送還をされる覚悟でアップしました。実は留学して半年くらいで、中国語もしゃべれなくて友達もいない。正直、自暴自棄になって、なんでもいいからやろうと思って」

 しかし結果は真逆だった。多くの人が山下を受け入れたのだ。

「日本人で動画をアップした人がほとんどいなかったんですよ。同じくらいの年齢の人は、みんな国とか関係なく楽しいことが好きなんです。バカなことをやってみたり、楽しいと思うことを精一杯やるのを見るのも楽しいみたい。反日感情が強いという偏見がこっちにあったと反省しました。あ、私は普通の日本人なんですが、中国のみんなが言うんですよ変態だって」

 bilibili動画はニコニコ動画をオマージュした親日が集まるプラットフォームだという。そして利用者も政治と文化は別ととらえ、多くを吸収しようとしているという。山下には毎日、動画やWeiboに質問がくるという。「日本の平均初体験は?」「高校生活はアニメみたいなの?」といった同世代が気になる情報に対して統制が聞いているTVや雑誌では手に入らないからだ。日本の日常が知りたい人へ、山下がパイプ役になっている。

 日本のアニメなどのポップカルチャー、サブカルチャーが中国でも浸透しているのにそれを伝える人がいなかった。その隙間に彼という人がスッポリとはまり、コミュニティの輪の中心になろうとしている。その証拠に中国国内で開かれるコミケなどのイベントに今は引っ張りだこだという。

 彼が教えた日本語がアレンジされ、危ない言動を注意するジョーク「おまわりさんこの人です」と入力を面倒に成ったユーザが始めたのが「110」だという。彼発信のこの言葉は、大量の110弾幕が並ぶのが恒例のようだ。

■もっと笑で人を楽しませたい。ギャグドラマを作る理由

 日本で「あまちゃん」が流行った時、より深いコンテンツをつくろうと自主制作したドラマがbilibili動画独占配信となりトップにバナーが貼られて知名度は加速。その他プラットフォームとも共同でドラマなど作品を制作し、100万再生、500万再生とアクセスと増やしていった。その速度は中国のネット人口に比例して加速しているという。