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●「怪獣ブーム」とは
 今から50年前の1966年1月2日、記念すべきウルトラシリーズの第1作目『ウルトラQ』が放送を開始した。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などのアニメを見ていた子供達は、一斉に怪獣の虜となった。すでにゴジラ映画は6本を数え、前年の1965年にはガメラがデビューした。『ウルトラQ』終了後、これに拍車を掛けたのが同時期に始まった『ウルトラマン』と『マグマ大使』。見た事もない巨人が大怪獣を退治していく雄姿に、日本中の子供達のパッションがマックスで弾けた。
 これに触発された東映も『キャプテンウルトラ』『ジャイアントロボ』『仮面の忍者赤影』と次々に怪獣の登場する番組を制作。大映はガメラのシリーズ化に併せて『大魔神』を発表し、日活と松竹も大手の意地を見せて参戦した。そして少年誌はこぞって怪獣特集記事を組み、怪獣関連の出版物や玩具が記録的セールスを計上した。これは「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象となり、『ウルトラセブン』が終了する1968年まで続いた。
 ちなみに『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まる1971年から1974年にかけて再ブームを起こすが、これは「第二次怪獣ブーム」(「変身ブーム」ともいう)と呼ばれ、最初のブームは「第一次怪獣ブーム」として厳密に区別されている。


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『怪獣大戦争』
1965年・東宝
監督/本多猪四郎
特技監督/円谷英二
脚本/関沢新一
出演/宝田明、ニック・アダムス、水野久美、土屋嘉男ほか

 1965年12月から翌年1月まで公開された東宝の正月映画『怪獣大戦争』は、ゴジラ映画6作目にして、1966年に起こる怪獣ブームの夜明け前に位置する作品だった。

 地球連合宇宙局は、富士(宝田明)とグレン(ニック・アダムス)を宇宙ロケットP-1号に乗せ、新発見されたX星の探査に派遣する。宇宙局では富士の妹も働いていて、その彼氏の貧乏発明家・哲男(久保明)との結婚を兄は頑なに認めない。だが哲男の発明した痴漢防止警報器レディ・ガードが、世界教育社という企業に5000万円の破格値で売れる。契約に現れたのは波川と名乗る美女(多くのマニアが崇拝する水野久美様)だった。

 その頃富士とグレンは、X星で黒とグレーの制服に単眼サングラスで統一されたX星人に遭遇する。統制官(東宝特撮の常連怪優・土屋嘉男)と呼ばれるリーダーの説明によると、X星人は全ての行動を電子計算機(当時のコンピューターの呼称)に委ね、全ての物質をナンバーで呼ぶ。そして害獣である怪物0(キングギドラ)を撃退するため、怪物01(ゴジラ)と怪物02(ラドン)を借りたいと頼み、見返りに癌特効薬の提供を約束する。

 彼らの超科学力でX星へ強制的に運ばれたゴジラとラドンは、2匹がかりでキングギドラを痛めつける。飛んで逃げるキングギドラ。その時「事件」は起きた。キングギドラを見送るゴジラが「シェー」をしたのだ。しかも4連発! 館内がざわついた(笑)。昨年『おそ松さん』としてリメークされた『おそ松くん』に登場するイヤミの有名なパフォーマンスだ。ゴジラにこれをやらせる事に周囲のスタッフは反対したが、円谷英二監督は観客を喜ばせようと曲げなかった。結果、ゴジラのシェーは『怪獣大戦争』の代名詞となったのだ。

「シェー」ゴジラのフィギュア、筆者私物。

こちらも筆者私物。

 さて、X星の女性は電子計算機の審美眼によって全て波川と同じ顔に整形されていて、彼女と交際していたグレンは驚愕する。そしていつのまにかP-1号が模造されていて、統制官は「我々が作ったイミテーションの方が本物より優秀です」と嫌みを1発かまし(シェー!)、癌特効薬の製造法が収録されたテープを富士らに渡す。ゴジラとラドンをX星に置き去りにし(泣)、X製P-1号で地球に戻ってテープを再生してみると「地球をX星の植民地星とする」と。X星人が侵略者とわかり、世界中がパニックに陥る。

 ゴジラが眠っていた湖にはX星人のアジトがあり、波川はX星のスパイだったのだ。そうとも知らず契約金の未払いに腹を立てていた哲男は、波川をアジトまで尾行して捕まってしまう。そしてグレンはX星人のダミー会社・世界教育社を訪ね、波川を問い詰める。「結婚しようと言ったのは嘘か」。「違う! あなたの監視役を続けているうちに、あなたは計算違いの人となったのです」。そこへX星の上司が現れ、波川をグレンの目の前で光線銃によって処刑する。ちなみにニック・アダムスは妻帯者にも関わらず、撮影期間中に「妻と別れるから結婚して」と水野久美を真剣に口説いていたという(苦笑)。

X星人 統制官と波川。筆者私物。

 グレンは哲男と同じ牢に監禁されるが、上着のポケットから「X星人はある種の音に非常に弱い」と書かれた波川の手紙を発見する。「それで僕の発明を!」と合点がいく哲男は背広からレディ・ガードを取り出しスイッチオン。すると見張り達が「ギャア〜!」と苦しみ出し、檻にすがって悶絶する1人から鍵を奪って脱走に成功する。しかしX星人はそれを一番恐れていたのに、哲男の身体検査をしていなかったとは何てマヌケな......。

 アホな防衛軍は「地球が保有している水爆を全て撃ち尽くしても、最後まで抵抗する」と発表する(おいおい)。「それはマズイだろ」と宇宙局は、電磁波を遮断するAサイクル光線で怪獣コントロールを解き、グレンと哲男が持ち帰ったX星人の弱点情報から、レディ・ガードを大音響に増幅して流すという二段構えの作戦を軍に提案する。3大怪獣が大暴れして被害が広がる中、ついに地球側の反撃が開始される。レディ・ガードの音が民間のラジオや12連スピーカーから一斉に流れ出すと、耳を塞いで右往左往する樟運傭はパニックに陥る。ちなみに、この作品の良さが解るティム・バートンは、『マーズ・アタック!』(96年)で痴呆バアサンの歌を拡声器で流して火星人を撃退する(笑)。

 さらに2段目の作戦を畳みかける。司令官の「攻撃開始!」でAサイクル光線が発射され、同時に流れ出すBGMは伊福部昭の名曲「怪獣大戦争マーチ」! 電磁波が遮断されたゴジラはまたも「シェー」して昏倒(笑)。ほか2匹もダウンして動きが止まる。七転八倒し助けを求める部下達に「我々が地球に負けるはずがない! 今に計算通りになる」と強気の統制官。だがついに力尽き、「我々は未来に向かって脱出する。まだ見ぬ未来に向かってだ」と宇宙船の自爆スイッチを押す。

 自由の身となったゴジラとラドンはキングギドラに本能で立ち向かう。激戦の末、3匹はもつれながら崖から海面に落下。キングギドラはそのまま宇宙へと逃げ帰り、ゴジラとラドンは行方不明となる。地球侵略は痴漢防止警報器によって阻止され、哲夫も意外な救世主として何とか富士に認められるのであった。

 作品には、未来のコンピューター社会に対する警鐘が込められていたという。X星では全ての物質をナンバリングしたが、今日ではマイナンバー制度が始まった。統制官の言う「まだ見ぬ未来」とは「今」なのか? だが怪獣映画本来の楽しみ方は、そんな説教じみた事より、怪獣同士の豪快な肉弾戦や破壊のカタルシスにある。そして冷徹なX星人達が計算外の出来事に慌てふためく姿はどこかユーモラスで、ゴジラがシェーをし、地球を救ったのはゴジラではなく痴漢防止警報器(笑)と、昭和の怪獣映画は壮大なギャグでもあるのだ。

(写真・文/天野ミチヒロ)

1966年の正月に発売された「週刊少年サンデー」。筆者私物。