文字通り五輪代表チームに昇格した手倉森ジャパン。もし落選していれば6大会ぶりの敗退だった。6大会連続出場が当たり前の出来事に聞こえるのに対し、24年ぶり、四半世紀ぶりに味わう敗退は、滅多に起きない不幸が起きたことを意味する。監督は汚名を着せられ、辛い立場に追い込まれる。

 北京五輪予選の最終戦をふと思い出す。相手はサウジで負けたらアウトという状況。辛くも0−0で引き分け、出場切符を手に入れた反町監督は試合後のインタビューで、こみ上げる熱いものを必死に堪えていた。

 いかにも強気そうな反町監督の涙声もさることながら、メンバー交代を試合中一度も行わず、スタメン11人で90分を乗り切ったその采配からも監督の苦悩を察することができた。「4大会連続」の重圧のあまりガチガチになり、恐ろしくてメンバー交代さえできなかったとは、こちらの見立てだが、いずれにしてもその出場劇は、悲壮感漂う決して美しい姿ではなかった。

 4大会が6大会連続に増えた今回。真っ先に心配されたのは手倉森監督の采配だった。大丈夫か? 当時の反町監督のようなガチガチの采配に陥れば危ないとの心配はしかし、全くの杞憂に終わった。過去の日本人監督の中でもダントツ1位。手倉森監督は真っ先に拍手喝采を送るべき対象になる。

 8年前、北京五輪予選の最終戦(サウジ戦)に出場した選手の顔ぶれは、本田、岡崎、西川など、後に代表の主力に上り詰めた選手ばかり。使われなかったサブにも興梠、内田などが名を連ねていた。手倉森ジャパンのメンバーが今後、どれほど化けるか定かではないが、現状では8年前のレベルにないことは確か。今回のメンバーが、このまま化けることなくA代表の中心に収まれば、日本はW杯出場さえおぼつかない状況に陥るだろう。

 選手と監督との関係について整理すれば、選手の方が勝っていたのは8年前。今回は監督が選手に勝っていた。監督采配こそが最大の勝因。

 何よりメンバーのやりくりが巧かった。(この原稿は決勝戦を前に書いているので)準決勝までの5試合で言えば、第3GKの牲川以外、登録選手全員が出場。しかも各選手、それなりの時間プレイしている。サイドハーフ4人の起用法はとりわけ秀逸だった。

 欧州では普通に見かける珍しくない采配ながら、日本では稀。メンバー交代が3人制になったのはW杯では98年フランス大会からなので、比較対象はそれ以降になるが、日本人でこの手の使い回し術を披露したのは、2013年U−17W杯本大会に臨んだ吉武監督と、昨年、女子W杯を戦った佐々木監督ぐらいなものだ。不運に泣いた吉武監督はともかく、佐々木監督はグループリーグで多くの選手を使ったはいいが、終盤に上手くチーム力として集約することができなかった。

 代表の外国人監督も同様。とりわけ欠けていたのはジーコ、ザッケローニになるが、我々日本人がそれを求めていなかったことも確か。2014年10月に行われたブラジル戦。時の監督アギーレが、本田、武藤などのスタメン候補を後半から使えば、なぜベストメンバーを使わないのかとメディアは一斉に反発。そのメディアに異を唱えるファンも少数に限られた。その後に行われたアジアカップで、対戦した4試合すべてにアギーレが同じスタメンで臨んでしまったことと、それは大きな関係がある。

 昨年8月上旬、中国の武漢で開催された東アジア選手権に臨んだハリルホジッチも、手倉森監督に劣った。水本と米本を1分たりともピッチに立たせることができなかったのだ。しかし、この時もまたその点に突っ込もうとするメディアはいなかった。最下位という成績に、何より目くじらを立てた。