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●公道を走れない日本の現状
セグウェイの日本デビューから今年で10年。驚きをもって迎えられた革新的な一人乗り移動機器(パーソナルモビリティ、以下:PM)だったが、国内で普及するには至っていないのが現状だ。世界を見わたすと、観光ツアーやパトロールなど、セグウェイを使ったサービスが社会に浸透している地域は先進国を中心に数多く存在する。法律によりPMの公道走行が認められていない日本では、PM自体の普及(市場形成)が進まず、PMを用いた新たな事業モデルが誕生する土壌も整っていない。日本の大手自動車メーカーも長年にわたり開発を続けるPMだが、公道走行に関する法整備(規制緩和)が進展しない限り、日本のPM市場がガラパゴス化の新たな一例になってしまう危険性は高まっていくばかりだ。

セグウェイという乗り物が米国で発表されたのは2001年のこと。先進国を中心に出回っている現行のセグウェイ(いわゆる第二世代機)は、2006年に市場デビューを果たした。この頃には先進国を中心に法整備が進み、現在では欧州の多くの国と米国の大部分(45州)でセグウェイによる歩道・自転車道(公道)走行が可能となっている。先進国でセグウェイによる公道走行が規制されているのは日本と英国くらいだ。セグウェイの国内正規総販売代理店であるセグウェイジャパンなど、日本でPMの公道走行実現を目指す企業は地道な実証実験を続けている。

○長年の実験も抜本的な規制緩和には結びつかず

茨城県つくば市の「つくばモビリティロボット実験特区」でPMの公道走行に関する実証実験が始まった2011年以来、セグウェイジャパンなどは1万6,000km以上の走行試験を行ってPMの安全性を検証してきた。これまでの結果としては、事故のみならず特段の「ヒヤリハット」事案も発生していないという。ちなみに、ドイツがセグウェイ関連の法整備のために実施した走行試験の総距離は3,000kmだ。

そもそも海外では、この10年の間にセグウェイが坂道を登ったり、悪天候の中を走行したりした実績が積み上がっている。適切な場所で適切な事業者が運営すれば、日本でもPMによる公道走行のリスクは低減可能だと考えられるが、日本でPM関連の法整備が進まないのはなぜだろうか。

道路運送車両法(1951年制定)の規定により、日本ではPMを小型特殊自動車あるいは原動機付自転車に分類し、こういった乗り物の保安基準をPMにも適用している。PMで日本の公道を走る場合は、保安パーツの設置やナンバープレートの取得などが求められるが、セグウェイをはじめとするPMで保安基準を満たすのは現実的に不可能だ。米国や欧州では、セグウェイを新しいカテゴリの乗り物として分類することで、法的に公道走行を可能とした。

日本ではPMを無理やり現行法の枠内で取り扱っているため、自動車並みの安全基準を満たさなければ原則として公道走行を認めない。日本の規制当局は、PMを既存の乗り物の一種として扱うか、新しい乗り物として扱うか、またはロボットと考えるのかといった部分、つまりは定義づけに戸惑っている印象だ。

○実証実験であれば全国展開は可能に

つくば市などの実証実験は、国土交通省が道路運送車両法の保安基準を特例的に緩和したために実施可能となったものだ。国交省は2015年7月、つくば特区のようなPMの実証実験を全国で実施できるようにするため、道路運送車両の保安基準を改正するなどの措置をとった。これにより、日本でPMの普及を目指す企業や自治体は理論上、PMの実証実験を日本全国で実施できるようになった。ただし、つくば市の実験が抜本的な法改正に結びついていない現状を見ると、実験の件数が増えたとしても、PMの公道走行解禁が早まるかどうかは未知数だ。

●観光資源にもなりうるPM
○規制緩和なくして市場形成なし

国交省に話を聞くと、規制が日本におけるPM普及の壁になることは同省としても避けたいようだが、規制当局としては、安全性を担保することが何よりも重要との立場から、なかなか規制緩和に踏み込めないというのが現状のようだ。公道走行に関する規制緩和が進まない限り、日本でPM市場が育つ可能性は低いと思われるが、規制当局側には、規制緩和と市場形成は「鶏が先か、卵が先かという関係にある」(前出の国交省職員)という感覚がある。PMの規制緩和に関する問題は、自動運転車やドローンなどの新たなテクノロジーが日本で普及するかどうかの試金石と捉えることもできる。

PM分野では、発火の可能性があるほど粗悪なコピー品も市場に出回り始めており、海外では粗悪なPMを出火原因とする火災も実際に起こっている。この手の製品はネットを通じて日本でも購入することができるため、日本でも粗悪なPMによる事故や火災が発生する可能性がある。セグウェイジャパンなどの日本勢が規制緩和に向けた実証実験を進めている間に、粗悪品が日本市場に出回り、事故などでPM全体の評判を落としてしまうような事態も起こらないとは言い切れない。

○セグウェイツアーが人気アクティビティに

公道走行が可能な国では、セグウェイを用いた新たなサービスが生まれている。その代表格がパトロールと観光ツアーだ。米国や欧州では、警察や警備会社がパトロールにセグウェイを導入した事例が豊富。セグウェイでベルリンやパリなどの観光地を巡る「セグウェイツアー」は、旅行サイトの「トリップアドバイザー」で利用者の9割以上が5つ星の評価を付ける人気アクティビティに成長している。

東京、横浜、京都など、日本にも魅力的なルートを提案できる観光地は豊富に存在しそうだが、PMによる公道走行が不可能な以上、日本でセグウェイツアーの企画が林立するという状況は望むべくもない。日本政府が訪日客の拡大を目指すのであれば、PMの観光利用についても柔軟な検討を進めてほしいところ。2020年の東京オリンピックを控えた今、観光や警備とPMの組み合わせには一考の余地がありそうだ。

○新規事業の創出に知恵を絞るセグウェイジャパン

セグウェイに乗ると目線が少し高くなり、走行時には自然と周囲に興味が向く。こうした特性は、観光ツアーやパトロールといったサービスにマッチした。見逃せないのは、これらのサービスがユーザー発信で生まれたという点。セグウェイが普及したからこそ、セグウェイを用いた新たなサービスも生まれたわけだ。日本でPMの普及に努めてきたセグウェイジャパンは、セグウェイを単に売るだけではなく、セグウェイをプラットフォームとして捉え、新たな事業モデルをデザインする「サービスプロバイダ」としての機能を強化していく姿勢を示している。

セグウェイジャパン取締役でマーケティング部 部長の秋元大氏は、セグウェイを既製品に取って代わる単なる乗り物とは考えず、「移動する楽しみ」に特化した新たなモビリティと捉えることが重要と指摘する。セグウェイを用いた事業モデルの創出に知恵を絞る秋元氏は、社会やライフスタイルに対してセグウェイが提示できる新たな価値を追求している。

秋元氏が注目している新規事業の1つがシェアリングだ。太陽光発電、蓄電、交通系ICカードなどとの組み合わせにより、セグウェイのシェアリングを環境配慮型の都市開発案件に導入する事業モデルも視野に入っている。セグウェイの導入を前提とする都市計画が具体化すれば、セグウェイジャパンはセグウェイの納入から運営までを一貫して実施できる。都市部でセグウェイを展開する取り組みとして、セグウェイジャパンは近いうちに、東京急行電鉄と共同で二子玉川駅周辺でのシティガイドツアーを実施する予定だという。

●イノベーションで先行する海外勢
○海外勢はPMとロボットの融合に本腰

日本勢がPMの公道走行解禁を待っている間に、米国のセグウェイ(SEGWAY, INC.)はPMとロボットの融合に本腰を入れ始めた。この動きを後押しするのは、中国の小米科技(シャオミ)と米国のインテルだ。

2001年のセグウェイ発表以来、米セグウェイは何度か買収されている。現在の親会社は、自身も立ち乗りタイプのPMを手掛ける中国のナインボットという企業だ。ナインボットはセグウェイのようにハンドルを握って乗る二輪PMのほか、ハンドルが乗り手の膝あたりにくる小型PM「ナインボット・ミニ」を展開している。ナインボットによるセグウェイ買収劇には、資金を提供する形でシャオミが絡んでいる。ナインボットは買収当初、自社製品とセグウェイを別ブランドで展開するとしていたが、今年に入り両社のブランド統合を発表した。セグウェイブランドに自社製品群を組み込むことで、PM市場の席巻を狙う意図が見てとれる。

ナインボットは今年1月、米国のネバダ州ラスベガスで開催されたCES 2016の会場においてロボット事業への参入を大々的に表明した。セグウェイブランドの実績と信頼性を前面に押し出し、「セグウェイ・ロボティクス」と名付けた新事業には、シャオミとインテルが参画を表明している。インテルCEOのブライアン・クルザニッチ氏は、CES 2016の基調講演にナインボット・ミニのような乗り物に乗って登場。その乗り物は講演の後半に再び姿を現すと、壇上で「ロボット・モード」に変形して見せた。ロボット・モードの乗り物は壇上を動き回り、目の部分に搭載したカメラで映像を写すなどのデモを行った。

PMとロボットの融合というイノベーションは一見すると単純だが、シャオミとインテルが絡んでいる以上、海外勢が同事業に商機を見出しているのは明らかだ。インテルはロボット事業への取り組みを後押しすべく、ナインボットに対して融資も行っている模様。日本のPM市場が早い時期に成熟していれば、このようなイノベーションを日本企業が世に問うていた可能性もあったかもしれない。

○イノベーションが日本で起こる可能性は?

セグウェイの販売台数をみると、世界累計の約10万台に対し、日本での実績は3,000台程度にとどまる。規制のある日本で販売台数が伸びないのは仕方がないにしても、乗り物を売るだけのビジネスと捉えた場合、世界で10万台という数字も決して多くはない。しかし、セグウェイが市場に出回っている地域では、セグウェイを用いたサービスが市民権を得つつあり、セグウェイを核とするイノベーションが起こりつつあるのが現状。公道走行が可能になったとしても、日本でPMが流行るかどうかは未知数だが、PMを用いた新規事業や、PM関連のイノベーションが日本で起こるとすれば、その前提条件となるのが公道走行に関する法整備だといえるだろう。

公道走行に関する規制緩和を見据えて、日本の自動車メーカーもPMの開発を進めている。後編では、トヨタとホンダによるPM事業への取り組みを見ていく。両社に共通するキーワードは、「PMと人間の調和」。PMとロボットの融合に商機を見出し、PMの新たな可能性に本気で取り組み始める海外勢も出現するなか、日本勢も遅れをとってはいられない状況だ。

(藤田真吾)