紙一重の勝利だった。わずか1点差の3連覇である。あたたかい満員観衆の拍手を受け、パナソニックのスクラムハーフ(SH)、田中史朗は小さなからだを震わせて泣いた。

「勝ったことと、ファンの方の数の多さで......。こんな光景をずっと夢に描いていたので......。3連覇と日本ラグビーの人気、両方の喜びが込み上げてきたんです」

 24日。トップリーグの年間王者を決める決勝トーナメントの決勝戦だった。秩父宮ラグビー場には2万5千人が押しかけていた。ロスタイム。スタンドが歓声と悲鳴で揺れた。

 パナソニックは東芝の執念の反撃を受け、ゴールラインを割られてしまった。点差は1点。右中間からのゴールキックを決められれば、逆転負けとなってしまう。

 ほとんどのパナソニックの選手はゴールキックの軌道を直視していない。田中もそうだった。31歳のSHにはこんな記憶がある。ニュージーランドに挑戦した時、同じような状況で「ただ勝利を信じて祈れ!」と言われたことがある。SHは東芝フルバック(FB)のフランソワ・ステインが蹴る際、ボールに向かってダッシュした。

「僕たちの勝ちを信じて、ボールにプレッシャーをかけに行きました。"信じよう""信じよう"と声をかけて。最初、どちらが勝ったかわからなかった。でも、後ろを見たら、チームメイトが喜んでいたのです」

 東芝の逆転キックはわずかに外れ、パナソニックが27−26で競り勝った。最後の最後にトライを許したが、冷静に考えれば、インゴール中央にボールを運ばれなかったことが幸いした。

 ステインの独走を懸命の戻りで止めたウイング北川智規のタックル。東芝センターのリチャード・カフィが蹴ったボールにも、FWが3人、ちゃんと戻っていた。バウンド悪く、トライはされたが、相手にボールを自由に扱う余裕は与えなかった。

 実は最後のシーン、主将のフッカー(HO)堀江翔太は足を滑らせてボールを取れなかった。

「やってもうたな、と思ったんですけど」と、主将は笑った。

「僕が滑った後も、周りが最後の最後までボールを追い掛けて、(相手を)ポスト下に回り込ませなかった。最後まで勝負をあきらめなかったことが、こちらに勝利を呼び込んだのかな、と思います」

 ワールドカップ(W杯)での日本代表の活躍で沸いたシーズンのトップリーグを締めくくるのにふさわしい熱戦だった。ワンプレー、ワンプレーの動きが速く、コンタクトプレーも激しく、パスプレーは確実だった。

 昨年12月の両者の対戦は17−17で引き分けていた。その互角の実力の中で、あえて勝負を分けた部分を探るとすれば、フィフティーンのゲーム理解力、判断、精度の高さだった。修羅場をくぐり抜けてきた経験値、円熟味である。

 チームの成長を聞けば、堀江主将は「コミュニケーション能力がどんどん上がってきました」と言った。田中も「コミュニケーション」と即答した。試合中、パナソニックは選手から、よく指示の声が飛び出す。プレーに一応、決めごとはあるのだが、誰かが異なる動きをしたら、周りの選手がそれに判断よく、瞬時に反応していくのである。

「アンストラクチャー(崩れた局面)の王者」と言ってもよい。例えば、後半20分のパナソニックのトライである。ピッチの中盤で相手の短いキックを捕った田中はタックラーを弾き飛ばし、スペースをついて前にイッキに出た。これに左ライン際で上がってきた堀江が反応し、タックルされると、さらにフォローしたセンター(CTB)のJP・ピーターセンにパス。今季でチームを離れるピーターセンが左隅に飛び込んだ。ゴールも決まって、27−14。これは大きかった。

 田中が「うちはみんな、リアクションがすごい。僕が(相手ディフェンスの)裏に抜けた瞬間、堀江やJPが動いてくれたから、トライにつながった。1人というより、チームでとったトライです」と胸を張れば、堀江は「ひとりが違う反応をした瞬間、全員が反応するというのはいつも、練習から言っていることなので」と笑顔で説明した。

 判断の早さ、正確さ。これはもう、日本代表が何人も並ぶ選手たちが、よき指導のもと、質の高い練習をしているからだろう。名将ロビー・ディーンズ監督は「"ナイツメンバー"の成長が非常に著しかったシーズンだと思います」と漏らした。

 ナイツメンバーとは、試合に出ないメンバーを指す。パナソニックの愛称が『ワイルドナイツ(野武士軍団)』。チームでは試合メンバーを「ワイルド」、それ以外を「ナイツメンバー」と呼ぶのである。両者でワンチーム。

 日本代表もそうであったが、強いチームとは試合以外のメンバーの貢献なくしてはありえない。この日のスクラム、ラインアウトで見せた修正力の高さも、ブレイクダウンでのディシプリン(規律)も、ふだんの濃密な練習と切磋琢磨があればこそである。

 両チームの反則数は、東芝の「6」に対し、パナソニックは「3」だった。決勝トーナメント3試合で計25本のキックをすべて成功させた大会最優秀選手のスタンドオフ、25歳のヘイデン・パーカーはこう、言い切った。

「チームとしての1年間の努力の結果がこうなったのです。僕のキックもチームメイトが頑張ればこそです」

 王者はまた、日本ラグビーをけん引する使命を帯びる。涙が乾いた田中はスタンドのファンに向けて声を張り上げた。

「ラグビー界の戦いはこれで終わりじゃない。2019年まで、みなさんのあたたかい応援をお願いします。僕たちも頑張ります」

 2019年にはワールドカップが日本で開催される。日本ラグビーをリードする日本代表の選手たちの熱い思いが垣間見えたトップリーグの盛り上がり、ワイルドナイツの3連覇だった。

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu