のもと家「特撰ロースかつ定食」(2000円)

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おいしいとんかつを求めて、東京中のとんかつを食べ歩く3人の食いしん坊・山本益博、マッキー牧元、河田剛が同じ店をそれぞれ採点する「東京とんかつ会議」。そのなかでも、3人が太鼓判を押す店舗が「東京とんかつ会議・殿堂入り店」。審議の結果、第8回の殿堂入り店として選ばれたのは港区芝公園にある「のもと家」だ。

【写真を見る】ランチで人気の高い「ロースかつ定食 ランチ」(1000円)

■ のもと家「特選 ロースかつ定食」(2000円/160g)

■ マッキー牧元「肉がきめ細かく味が濃い」

サラリーマンが多い場所柄もあるが、ご主人のとんかつに対する真摯な思いが響いているのだろう。昼時に出かけたが、開店前から行列ができている。

今回は昼の「ロースかつ定食」(1000円)を食べてみて、あらためてその思いを強くした。肉の質といい脇役陣といい、“1000円の質”が実に高い。都内の1000円で食べられるとんかつでは群を抜いていて、1000円でもいいものを出そうという、ご主人のとんかつへの愛を感じた。

議題の「特選 ロースかつ定食」(2000円/160g)は「ロースかつ」よりも肉がきめ細かく味が濃い。これもまたお値打ちで、とんかつを食べる醍醐味を十二分に伝えてくれる。

サクサク弾ける中粗の衣も痛快、油切れもいい。前回は、衣がやや勝ちすぎている感があったが、今回は肉とのバランスがとれて、とてもいいとんかつである。ただもう少しラードにコクがあれば、よりおいしくなるのではと思った。

キャベツはみずみずしく、とんかつの味をいったん切る柚子大根のお新香も健在、ソースはやや甘め、ご飯もいい。豚汁自体はおいしいが、ゴマ油の香りがとんかつとぶつかりくどくなるような気がした。

とんかつへの調味料も、茎わさび、とんかつ醤油、自分で擦るゴマとサービス十分。だが、一度始めたものをやめるには勇気がいるかも知れないが、この優れたとんかつには、塩とソースだけで十分ではないだろうか。

■ 河田剛「黒豚の力を十二分に引き出している」

以前は、浅草で「豚珍館」という名前で営業していた店である。浅草の虎姫一座というレビュー劇団を気に入ってよく観に行くのだが、その帰りがけに見つけた(あき山や二代目遠山も同様にして見つけた)。

夜の早い浅草で重宝な店だったが、いつの間にか閉店してしまった。しかし、幸いにも数カ月後に店名を変え、大門で営業を再開した。

この店は浅草時代から鹿児島の六白黒豚をメインの食材に据えている。六白黒豚はしっかりした旨味があり、上手に揚げれば、とんかつには最適である。のもと家の主人は黒豚の力を十二分に引き出している。一方、ラードとパン粉は試行錯誤を繰り返し、改善を図っており、より香り高く、口当たりがよいものになっている。

ランチの1000円の「ロースかつ定食」は鹿児島県産の白豚だそうだが、こちらも質が高く、この値段で食べられるとんかつとしては都内屈指と言ってよいだろう。

鹿児島の食材を扱っていることもあって、甘口の醤油と茎わさびをつけて食べることを勧めている。時々目先を変えるのには面白い。ただ、豚肉の力強さを考えると、塩と辛子が最も味が引き立つようだ。ゴマと合わせて使うソースはあまり出番がなくなってしまう。

ご飯はいつ出かけてもブレが少ない。お新香の柚子大根は、格好の箸休めである。特筆すべきは豚汁で、適度な歯応えのある野菜がたっぷり入っており、味付けは過剰にならず、名脇役と言ってよい。

海老フライにはプリッとした歯応えとほのかな甘みがある。かつてのミシュランガイドのフランス版では、星が増えていく時期の店が最もおいしいとも言われていたが、そうした勢いを感じる店である。

■ 山本益博「赤身の味のあること!」

昼時の混みようは尋常ではない。今回、3人揃っての「殿堂入り」審議のため、時間を合わせ開店前に出かけることにした。

店は雑居ビルの2階にあり、とんかつ店としてはかなりハンデがあるロケーションにもかかわらず、開店前から薄暗い階段に、すでに何人もの人が並んでいた。

3人揃っての食事のため、メニューから、「ロースかつ定食 ランチ」(1000円)、「特選 ロースかつ定食」(2000円/160g)、「特選 ヒレかつ定食」(2000円)の3品を注文。すると、開店前からのビジネスマンたちが行列する、その秘密の一つが解き明かされた。

ランチタイムのみのロースかつ定食1000円が実に立派なのだ。肉質も揚げ方もほとんど他の定食に見劣りしない。ボリュームもしっかりとある。特記項目で褒めたいほどの内容充実ではなかろうか。

ランチのロースかつがこれほどだから、特選 ロースかつ、特選 ヒレかつは言うまでもない。

食べる順序として、ヒレかつから食べ始めると、火の通しは八分ほどで、ヒレ肉の香りと甘みを生かした揚げ方。続いて、ロースに手を伸ばす。芯までジャストに熱が入った赤身の味のあること!さらに、脂身は透き通った味で、舌の上ですぐに溶け出し、爽やかな香りである。衣のサクサクした食感がさらに心地よい。

これほど完成度の高い「とんかつ」であれば、調味料の変化球は必要ないのではなかろうか。

おすすめの茎わさびはケミカルな味を含んでいて、かえって豚肉の味わいを損ねてやしないか?添えるのならば、おろし立ての本物のわさびではなかろうか?心強いのは味噌汁、お新香へもとんかつ同様の愛情を注いでいること。

いつの日か、このロケーションから脱出して、路面店での「のもと家」を期待したいものである。そのためにも、「とんかつ会議」は応援を惜しまないと思う。

【東京ウォーカー】