都会でも高層ビルは救急過疎地? shutterstock.com

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 上階から眺める景色は壮観だが、危険な代償を伴うかもしれない。高層階に住む人は心停止を起こした際の生存率が低いことが、新たな研究で明らかにされた。3階以上では、上階になるほど生存率が低下し、16階以上では生存の可能性が「ほぼゼロ」であるという。

 その理由は単純に、第一対応者の到着に時間がかかり、治療が遅れるためであると、研究を率いたヨーク地区救急サービス(カナダ)のIanDrennan氏は述べている。

 心停止が発生したとき、除細動(心臓に電気ショックを与え、正常な律動を回復させる処置)を早く行うほど生存率が高まる。除細動を行うまでの時間が長引くほど、電気ショックの有効性は低下するとDrennan氏は説明する。

 この知見はカナダだけに限らず、「高層ビルがある場所では常に、上階への到着の遅れがみられる」と同氏は話す。この報告は、カナダ医師会誌「CMAJ」に1月18日掲載された。

25階以上では生存者はゼロだった!

 心停止は、心疾患の有無にかかわらず、正常な心機能が突然失われる病態であり、心臓への血液供給が閉鎖されて起こる心筋梗塞とは異なる。2007〜2012年にマンション内で心停止を起こした8,000人強を対象とした今回の研究で、退院まで生存していた患者は3.8%であった。

 1〜2階に住む約6,000人の生存率は4.2%であったのに対し、3階以上の住人2,000人の生存率は2.6%にとどまり、16階以上では1%未満、25階以上では生存者は1人もいなかった。

 Drennan氏は、第一対応者が患者のもとへ到着するスピードを上げれば、生存率が向上すると考えられると述べ、ドアの鍵を開けておく、エレベーターをロビーで待機させておくなどの対策を勧めている。

 さらに、住人にCPR(心肺蘇生法)の訓練を行い、AED(自動体外式除細動器)を建物内に備えておくことにより、救急が到着する前に現場に居合わせた人が救命を開始することができ、生存率を向上できると思われる。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のGreggFonarow氏は、「心停止から除細動およびCPRを行うまでの時間が非常に重要。1分過ぎるごとに生存率が悪化する」と述べている。

 2015年に米シアトルで実施された研究でも、建物の大きさや高さが、除細動の実施までの時間に影響を及ぼすことが明らかにされている。「高層ビルでは、AEDやその他の処置への迅速なアクセスにより、応答・治療時間を短縮することが緊急に必要とされる」と、同氏は指摘している。

心肺停止から数分間が生死を分ける

 救急現場での常識として、心肺停止後の1分以内に処置が行われれば90パーセント以上の救命率があり、1分遅れるごとに7〜10パーセント救命率が減少するとされる。脳障害を起こさずに救命するためには、3分以内に気道の確保、人口呼吸、心臓マッサージなどの心肺蘇生を行い、5分以内に救急処置の専門家に渡すことができるかどうかがその人の生存の可能性を大きく左右すると言われる。

 日本では、2004年7月に法改正がなされ、AED(自動体外式除細動器)を、医療従事者以外でも使用することが認められるようになっている。公共施設などでのAEDの設置箇所も増えている。救急車の到着まえの心肺蘇生の可能性も拡大した。

 とはいえ、心肺停止後からの数分間は"ゴールデンタイム"と呼ばれ、この時間内に救命措置が行なわれれば、救命率はきわめて高くなる。

 今回のカナダの研究は2007〜2012年にマンション内で心停止を起こした8000人強を対象としている。しかし、何も高層ビルだけの問題だけではない。日本でいまだに多く存在する救急過疎地でも、この救命の法則が当てはまるのはいうまでもない。
(文=編集部)