物事には必ず表と裏がある。同じ事象であっても見方を変えれば、その印象は180度異なるものになる。

 リオデジャネイロ五輪アジア最終予選(兼アジアU−23選手権)を見ながら、そんなことを感じている。

 準々決勝の試合前日。公式会見に臨んだイランのモハマド・ハクプール監督は、対戦相手である日本についてこう話していた。

「全員の力が接近していて、同じやり方で戦える。スター選手はいないが、チームとしてすばらしい。組織されていて、みんながハードワークすることができる」

 実に的確に、日本サッカーの特徴を言い表していると思う。

 現在の日本、特に育成年代において、よく言われることのひとつが、「どの選手もみな、同じような選手ばかりだ」ということ。つまり、「選手にこれといった特徴がなく、個性がない」という意味だ。

 たしかに、勤勉でよく動き、それなりに技術は高いが、プレーに強引さがなく、当たり前のことを黙々とこなすような選手が多くなっているのは事実だろう。

 その結果、優れたストライカーやドリブラーは、なかなか現れてこない。それは日本の憂うべき現状として、一般的には受け止められている。

 だが、その状況を裏から見たらどうだろうか。

「突出した個が存在せず、同じような選手しかいない」ということは、裏を返せば、「誰が出ても戦力は大きく変化しない」ということ。つまり、特定の選手に頼らなくとも、常に選手を入れ替えながら戦うことが可能になるというわけだ。

 日本の弱みであるはずの「憂うべき現状」も、見方を変えれば「強み」になる。そのことを証明するように、日本は今大会、まさに総力戦で勝ち上がっている。

「この大会には全員を使うつもりで来た。(全員を)使いながら勝ち続ける力をグループリーグで示せたと思う。それは(メンバーを)変えながら行かないと勝てないということでもある」

 同じ公式会見の場で、手倉森誠監督がそう語っていたように、この大会の日本は試合ごとに選手をうまくローテーションさせながら起用することで、コンディショニングを高めている。

 グループリーグでの先発メンバーは第1戦から第2戦では6名が、第2戦から第3戦では10名が入れ替わっていたが、決勝トーナメントに入ってもそれは変わらず、準々決勝でもグループリーグ第3戦から8名が入れ替わった。

 準々決勝の相手であるイランは、グループリーグ第3戦から中3日。対する日本は中2日と1日分の不利があったが、入れ替わった8名の選手について言えば、グループリーグ第2戦から中5日である。日程の不利を覆すには十分な試合間隔だった。

 イランにしても準々決勝に照準を合わせ、グループリーグ第3戦では一部主力を休ませはした。だが、日本戦での先発メンバー11名のうち、3名は全4試合に先発し、7名が3試合目の先発出場。一方の日本は、先発メンバー11名のうち、6名が3試合目、残る5名は2試合目の先発だった。

 こうなると、前の試合からの間隔だけでなく、蓄積疲労の差も見逃せない。コンディションの差は、試合時間が進むごとに明らかになっていった。

 前半こそ、押し込まれる時間が続いた日本だったが、徐々にイランはペースダウン。DF岩波拓也が「75分くらいから、相手がプレスに来られなくなった」と言えば、FWオナイウ阿道も「相手が後半途中からバテてきたので押し込めた」と振り返る。

 後半の終わりごろにはイランの選手の足がつり始め、延長戦に入ると、流れが一気に日本へと傾いた。迎えた延長前半の6分、MF豊川雄太がヘディングシュートを決め、日本は待望の先制点を手にした。

「勝てたのはみんなのおかげ。みんな120分間ハードワークしてくれていたので、自分が助けられたらいいな、と。点を取ることが一番の助けになると思っていた」

 殊勲の豊川がそう語ったように、結果的に途中出場の背番号14がヒーローにはなったが、この勝利はそれまでの時間で猛攻に耐えながら相手を疲弊させ、消耗戦に持ち込んだ全員の力によるものである。

 前線で攻守に走り回ったオナイウが語る。

「向こうはバテていたけど、こっちは最後まで走れていた。自分もかなりジャンプしたり、走ったりしていたが、よく(足が)つらなかったなと思う」

 これこそ、ローテーション制によるコンディショニングがうまくいっていることの証である。

 だが、コンディショニング成功の理由はそれだけではない。岩波が語る。

「久しぶりに120分間の戦いをしたが、西さんのご飯のおかげで足がつらずに最後まで走れた」

 今回のU−23代表には、過去にワールドカップなどで日本代表専属シェフを務めてきた西芳照氏が帯同し、日本食を提供している。おかげで選手たちは食が細くなることもなく、モリモリ食べているという。

 長い海外遠征では、当然ストレスもたまるだろう。そんななか、ひとときの楽しみとなるおいしい食事は、フィジカル面ばかりか、メンタル面でのコンディショニングにも大きな影響をもたらしているようだ。

 もちろん、いかにコンディショニングに成功したとしても、主に前半の苦しい時間帯を耐え切れなければ、自分たちの強みを生かす終盤勝負の展開に持ち込めない。

 少々押される時間帯があったとしても、「相手は簡単に点を取らせてくれないが、こっちがゼロに抑えていれば勝てる」(岩波)という自信が生まれてきているからこそ、我慢して消耗戦に持ち込める。

 手倉森監督は「最後は勝てばいいんだというメンタリティ」を、しっかりと選手に植えつけた。GK櫛引政敏は言う。

「120分間走れるのは日本人のよさ。耐えるという部分では自分たちのいいところが出せたと思う」

 日本はその後、MF中島翔哉の2本のミドルシュートで2点を追加。延長にもつれこむ接戦も、終わってみればスコアは3−0まで広がっていた。

 仮に100の力を持つチームであっても、連戦を重ねるうちに、出せる力は70まで落ちてしまうこともありうる。だが、80の力しかないチームでも、コンディショニングを高めることで連戦下でも80の力を出せれば、互いの力関係は逆転する。

 この大会で日本がやっていることを、例えて言うなら、そういうことだ。

 途中出場の豊川が決勝ゴールを決めるなど、選手起用に冴えを見せる手倉森監督だが、こうしたチームマネジメントにこそ、抜群の手腕が発揮されている。

 対照的に開催国のカタールは、準々決勝の北朝鮮戦を延長の末に2−1で勝ちはしたが、選手は目に見えて消耗していた。前線の何人かを除き、主力のほとんどを固定して4試合を戦い続けた結果、大会序盤に見せた勢いは、明らかに失われている。

 日本は中3日で迎える準決勝でも、おそらくローテーション制を採る。キャプテンのMF遠藤航をはじめ、何名かは準々決勝に続けての出場になるだろうが、先発のうち5名程度は入れ替わるはずだ。彼らにとっては、グループリーグ第3戦から中6日。満を持しての出番である。

 率直に言って、突出した選手はおらず、チームの小粒感は否めない。試合内容についても、これでいいのか、という気持ちは少なからずある。

 だが、超過密日程でもパフォーマンスを落とさず、今持てる能力をフルに発揮し続けるという点では、今大会の日本は際立っているといえる。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki