[書評]村上陽一郎『やりなおし教養講座』
「ベストセラーは読まない、買わない」。著者、村上陽一郎先生の「教養のためのしてはならない百箇条」の範を犯して、評者はこの原稿を書いている。

 パリ大学とボローニャ大学。大学の起源は、12世紀の中世ヨーロッパに出現したこの2つの大学に求められる。ウニベルシタスというギルドから出発した大学組織は英国に渡り、オックスフォード大学とケンブリッジ大学へと発展した。

 オックスブリッジでは、大学自体は学位授与機関でしかなかった。その代わりに、卒業生の寄付などで建てられた寮である「カレッジ」が教育機関として存在した。教員と学生の生活の場であった「カレッジ」で織り成された様々な対話が、教育そのものであった。学問の専門性などで課題があるものの、この伝統は今でも続いている。

 著名な経済学の大家にケンブリッジ大時代のカレッジ生活の様子をお聞きしたことがある。チューターと呼ばれる教員との、お茶やお酒の席での話が主だった。この先生や、応援してくださる先生方との面会では必ず、酒が入る。本書を読み終えるまで、先生方のこのもてなしの意味が分からなかった。

本書は、村上先生と教え子さんたちが、お茶やお酒を嗜み、悠然とした時間が流れる中で、「教養とは何か」という命題について論じたものだと評者は想像している。現在の大学改革状況を見回すと、法律家や行政マンを養成する専門職大学院は花盛りだが、これら人材の考え方の根幹を成すべき学部教育はおざなりになっている。大学教育を考える意味でも、自らの規矩を探索する意味でも、一読をお勧めする。(NTT出版、2004年12月刊、1680円)【了】

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