「バンティング・ダイエット」が南アで人気(shutterstock.com)

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 年々貧富の格差が広がるこの世界。アフリカの健康問題について問われたら、多くの人は「飢餓」「栄養不足」「感染症」といった程度の認識しかないだろう。ところが実際は、ここ20年ほど一部の国では肥満が急速に拡大している。

 特に南アフリカ共和国は、サハラ砂漠以南の国で最も肥満率が高い。世界保健機関(WHO)によれば国民の4人に1人が肥満で、貧困層の黒人女性の肥満率が最も高いという。

 大きな原因のひとつは、アフリカ地域の都市化の加速だ。労働の場が地方から都市部に移るにつれ、多くのアフリカ人が健康を害するようになったという。肥満が関係する糖尿病や心臓疾患、がんなどの生活習慣病が死因の上位を占めている。

8週間の肉食で7圓慮採未棒功

 そんななか、南アフリカのケープタウンで最近注目され、大きな支持を集めているダイエット法がある。パンや米、トウモロコシなどの炭水化物や糖質を制限し、代わりに肉やバター、チーズやクリームをたっぷり摂るという「バンティング・ダイエット」と呼ばれる食事療法だ。

 このバンティング・ダイエットは、南アフリカでも肥満が大きな問題となっている、最貧地区や黒人居住区で広まり始めている。普及を強く押し進めているのは、この食事療法を信奉する女優でタレントのユオーディア・サンプソンさんと、栄養学を専門とするティモシー・ノークス教授らだ。

 ノークス教授の考えによると、バンティング・ダイエットは加工食品が登場し、穀類やシリアルなどの炭水化物の摂取が大幅に増える前の「昔の食生活」に回帰すること。サンプソンさんも「このダイエットは私にとって、曾祖父母たちの食生活に戻ることを意味します」とインタビューに答えている。

 サンプソンさんとノークス教授は昨年、労働者階級が居住する地区の住民を対象に、40人の減量希望者を募集。バンティング・ダイエットグループを結成して減量プログラムを実施したところ、多くの人が減量に成功。8週間で7圓慮採未棒功した参加者は「服がブカブカになり、肌のツヤもよくなった。周りからもほめられる」と喜んだ。中には、血圧や糖尿病の薬が不要になった人もいたという。

 ただ黒人居住区の住民の大半は、炭水化物の多いトウモロコシ粥を主食にしており、肉や卵は「ぜいたく品で手が出ない」という声もある。それに対してノークス教授は、「レバーや腎臓、骨髄、豚足といった安い部位を使えば1日当たりの食材費は30ランド(約240円)程度。コストカットは可能だ」と話す。

19世紀に開発されていた糖質制限ダイエット

 お気づきのように、バンディング・ダイエットは最近日本でも流行の「糖質制限」とほぼ同じ。呼び名は、1860年代に初めて提唱した英国人、ウィリアム・バンティング氏にちなんでいる。一般的に新しい考え方だと認識されている糖質制限ダイエットは、すでに19世紀に開発されていたものなのだ。

 だが、このダイエット法は当時も論争の的になり、医学界では科学的な説明がつかないと大きな批判にさらされた。そして、現在もさまざまな議論があり、評価が分かれている。

貧困層の人々を前向きな気持ちにさせる

 ヒトの身体は糖質を制限すると、蓄えた脂肪を燃焼してエネルギーにするため体重が落ちる。さらに食後の血糖値の上昇が抑えられるため、脂肪が蓄積されにくく太りにくい身体になる。アメリカでは昨年、米国人の食生活に関するガイドライン(2015年版)で「食事によるコレステロール摂取と(動脈硬化などの病気の危険を増すこともある)血清コレステロールの間に明らかな関連性はない」と結論付け、「コレステロールは過剰摂取を心配する栄養素ではない」ことが示された。

 ところが、糖質制限に否定的な医師のなかには、いまだに「極端に高タンパク・高脂肪の食事になることで動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高める」と主張する者は少なくない。

 もちろん、南アフリカでの試みに対しても「危険だ」という意見がある。ノークス教授はそれに対して「批判する人は、食習慣が引き起こす病気が南アの貧困層にどれほど蔓延しているか理解していない」と反論している。特に糖尿病とその合併症は深刻な問題だ。

 そして、もうひとつ重視すべきは、このダイエットが貧困層の人々を前向きな気持ちにさせていることだ。痩せて健康になるだけでなく、人生で初めて自分の生活を自らが管理しているという感覚と自立を感じる。そんな理由から、明るくなった女性も多いという。

 サンプソンさんとノークス教授は、最も貧しい他の黒人居住区にもこのダイエットを導入すべく計画中だ。実践的な試みは、バンディング・ダイエットが栄養学的な根拠をさらに示し、コスト的に見合うものなのかを示唆してくれるかもしれない。その成果は、今後も大いに注目されるだろう。
(文=編集部)