BBCの人気テレビドラマシリーズ「SHERLOCK/シャーロック」。アーサー・コナン・ドイルの推理小説を原作に、舞台を現代にアレンジ。ベネディクト・カンバーバッチ扮する探偵のシャーロックと、マーティン・フリーマン演じる医師のワトソンが、さまざまな難事件を解決していく。これまでにシーズン3(計9回)放映され、シーズン4の制作を、世界中のファンが待ち望んでいる。



なんという倒錯!


そんな大人気シリーズの最新作「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」は、ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にしたスペシャル・バージョンで、本国イギリスとアメリカでは2016年1月1日に放映され、日本では2月19日より劇場公開。
ひとあし先に試写を観てきたので、さっそくレビュー(ネタバレしないように注意しつつ)。

そもそも、このドラマが大ヒットした理由は、舞台を現代に置き換えたことだったはず。
頭脳明晰でエキセントリックなのは原作と同じですが、みずからソシオパスだと言い(正確にはHigh-functioning Sociopath)、PC、スマホはもちろん、その他のテクノロジーやリソースを駆使して事件を解決する、まったく新鮮なシャーロック像をつくったことが、この現代版の魅力。
相棒のジョン・ワトソンも、事件のブログを書いて人気のカリスマブロガーだし。
そんな現代っ子のシャーロックとジョンを、ふたたび古色蒼然たるヴィクトリア朝時代に戻すとは、なんという倒錯! 


というわけで今回の舞台は、1895年の冬のロンドン。
メールではなく電報、ネットではなく新聞、タクシーではなく馬車の時代。
ウェディングドレス姿のリコレッティ夫人が衆目の場で自殺する。が、その数時間後、リコレッティ氏の前に、さっき死んだはずの夫人の幽霊があらわれ、リコレッティ氏を殺害。その後も幽霊による殺人事件が続き、ロンドン中が恐怖におののく。この怪事件を、ホームズとワトソンはどう解決するのか?

ヴィクトリア朝の霧のロンドンといえば、もちろんゴシックホラーですとも。もちろん幽霊ですとも。
お約束ははずさない。
そして、途中で「あっ!」という仕掛けも、もちろん、あります。


ロンドンの霧やガス灯を取り除くことで、現代に生きるホームズとワトソンを自由に映像化できたのに、また舞台を古典に戻すのは矛盾では? 
いや、でもね、わかる。
カンバーバッチとフリーマンによるホームズとワトソンのコンビが、本来のオーソドックスな舞台設定の中で、本来のコスチュームを着て動いているところを見たい!っていう気持ちが、つくり手の人たちの中にどんどん膨らんできて止められなくなったのは、すごくよくわかります。
つくり手がシャーロキアンであれば、なおさらでしょう。


脚本家とキャストの温度差に苦笑


「SHERLOCK シャーロック」シリーズの製作を率いるのは、エグゼクティブ・プロデューサー&脚本家のスティーヴン・モファットとマーク・ゲイティス(以下、MGコンビと略す)。
ゲイティスは、シャーロックの兄のマイクロフト・ホームズ役で出演もしている。

今回の劇場公開では、本編の前後に特典映像が上映されるんですが、そこにMGコンビが登場。

特典映像は、以下のようになっている。

映像特典1「脚本家スティーヴン・モファットと巡るベーカー街221Bの旅」(5分)
  +
本編「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」(90分)
  +
映像特典2「シャーロック製作の裏側〜主要キャスト・スタッフとともに」(15分)

映像特典1では、シャーロックの部屋をヴィクトリア朝風にデコレーションするにあたり、いかにディテールに原作への愛を詰め込んだかを、喜々として説明してまわるモファット。


映像特典2では、ゲイティスが、これまた嬉しそうに、出演者たちに「ねえねえ、ヴィクトリア朝の舞台設定でやってみてどうだった?(ワクワク)」とインタビュー。
これに対して、キャストの温度差がおもしろい。
最初に特別編の話を聞いたときのカンバーバッチの反応は、「じゃ、髪の毛、切っていい?」と、いたって現実的だったらしい(カンバーバッチは、シャーロックのもしゃもしゃヘアをずっと切りたかったそう。確かに、ふだんはおでこをすっきり出してる髪型が多いですもんね)。
そして、フリーマンは、極寒の時期の撮影がイヤでしょうがなかったそうで、「1月には撮影しないって、前に約束したよねッ(怒)」と、顔がまったく笑ってない。
しかし、MGコンビのほうは、
コナン・ドイルの正典で二次創作できて、嬉しくてしかたがない!
っていう喜びを全身にあふれさせていて、微笑ましいこと。

そんな「ご期待に応えて、コスチュームプレイしてみました」感が満載のヴィクトリア朝バージョンなんです。


モファットは、カンバーバッチのシャーロックの魅力をこう語っている。

「ホームズの頭の良さと、一切うぬぼれを感じさせることなくあの推理の冴えとを演じられるということはとても大事です。ベネディクトは、温かみとともに、なんら悪びれるところなく傲慢に推理してみせるところ、その両方のバランスを心得ている。まさに絶妙です」

シャーロックとジョンは二人でひとつ


それに続いて、ゲイティスは、こう語る。

「ドラマの中心は、二人の友情と冒険なんです。(略)ベネディクトは、シャーロックの冷たくてほとんど宇宙人のような面を演じます。ジョン・ワトソンは、そんなシャーロックを人間らしくする役なんです。彼らは、二人でひとつなんです。(略)我々は皆、この二人の登場人物と一緒に成長して来たわけですしね。彼らのことを、書くのも喜びだし、見るのも喜びだし、ともにいる喜びというのがあります」
(引用はともに『洋泉社MOOK 別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本〈増補改訂版〉』より)


ドラマにしろ小説にしろ、個性的な探偵もの、犯罪推理ものの源流には必ずと言っていいほど、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズがいるわけで、その本家本元を自由におもいっきり脚色できるんだから、そりゃあ脚本家冥利に尽きますね。

で、この特別編でも、二人の友情が胸熱なのは言うまでもないんですが、とくにこの作品では、シャーロックの心に秘めたジョンへの熱い思いが垣間見れる構成に……。

待ち遠しいシーズン4のオンエアまで、この特別編で渇きをいやしたい。

シリーズから独立した特別編ではありますが、過去シリーズ(とくにシーズン3)を観ておくことをおススメします(って、そんなこと言われなくたって、ファンは何度もリピートして観てると思いますが)。


●『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』公式サイト
(平林享子)