「何もできなかった」。グループリーグ第2戦タイ戦で先発出場したU-23日本代表DF亀川諒史(福岡)は試合後、悔しさを滲ませた。ファーストプレーでミスが出ると、その後もなかなか試合の流れに乗り切ることができず、後半9分にはPA内でファウルを犯してPKを献上。相手のシュートミスにより失点は免れたが、「何もしなかった90分だったと思う」と声を落とした。

「どん底を味わった気分」だった亀川だが、「あの90分は終わってしまったこと」と気持ちを切り替えようとする。そして、「自分はうまい選手ではないし、あれが実力」と受け止めると、自らのプレーを見つめ直して「自分に何ができるか。何で戦っていくか」を改めて考えた。「僕はプロになってから、ずっと『頑張る』ところで下手くそな自分を補ってきた」。導いた答えは原点回帰だった――。

 迎えた準々決勝イラン戦、亀川に再び先発出場の機会が与えられる。「正直チャンスは来るかどうか分からない状態」の中で訪れたリベンジの機会。起用してくれた手倉森誠監督の「期待に応えなければいけない」と意欲を燃やすと、「もう何も恐れるものはないし、失うものはない」と覚悟を決めて戦いの場に向かう。

 序盤から相手に押し込まれる展開となったが粘り強い対応で自サイドからの突破を阻み、前方にポジションを取るMF中島翔哉(F東京)がボールを受ければ果敢にサイドを駆け上がる。たとえボールを呼び込めなくても、「翔哉を助ける」ために上下動を繰り返すなど、120分間泥臭くピッチ上で働いて3-0の完封勝利に貢献した。

 タイ戦で自信を失いかけていたかもしれない。しかし、「あの90分を無駄にせず、次試合に出るときには自分を出さないといけなかった。やっぱり自分のプレーはこれだと、もう一度思い出させてくれた試合になったと思います」と“何もなかった90分”を意味のあるものとした。「まだまだやれる」と自分と自信を取り戻した男は、次戦以降も“らしさ”を発揮してピッチ上を駆け回る。

(取材・文 折戸岳彦)


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