懐の深さを感じさせる勝負師…全員で戦うチームを作り上げる手倉森誠の手腕

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 チーム全員で戦っていく――。世界中の監督の誰もがそんなふうに言うものの、実際に大会が始まれば、ピッチに送り込まれるのは限定されたメンバーであることが多い。

 ところがU−23日本代表を率いる手倉森誠監督は、決勝トーナメントに入ってもメンバーを固めることはなかった。グループステージで対戦した朝鮮民主主義人民共和国戦とも、タイ戦とも、サウジアラビア戦とも異なる組み合わせ。おそらく誰もが予想できなかった11人をイランとの準々決勝のスタメンに選んだ。

 そのメンバーについて、手倉森監督はきっぱりと言った。

「今日のスタメンは今のベストメンバーというわけではない。今日、イランと戦う上でのベストメンバー」

「今日、イランと戦う上でのベスト」の条件として、コンディションや体力、守備力が重視されたのは確かだろう。3日前のサウジアラビア戦を欠場し、休養たっぷりの選手が6人起用された。その試合にフル出場した選手はMF中島翔哉(FC東京)とDF植田直通(鹿島アントラーズ)の2人しか選ばれていない。さらに、手倉森監督はもう一つ大事な条件があったことを明かした。

「イランの高さが怖かったから、今日の先発は各ポジションでヘディングが強いほうの選手を選んだ」

 一方で、試合当日になって一人だけメンバーを変えたことも明かしている。

「昨日までは、中島ではなく豊川を先発させるつもりだった。でも今日の朝、『あまりにも高さを怖がって相手に合わせ過ぎたら、勝ち運にも見放される』と思った」

 ロジカルとひらめきの選手起用――。結果としてこれがあまりに鮮やかにハマった。

 立ち上がりから攻勢に出たのはイランだった。1トップに入るモタハリにボールを集め、厚みのある攻撃を仕掛けてくる。プレスの勢いも強く、日本はなかなかボールを保持できず、ロングボールで逃げるしかない。時間が経つにつれてイランのラッシュは止んだものの、日本はまるで攻撃の形が作れない。後半に入っても枠内シュートはゼロ。粘り強く守って、セットプレーで活路を見出そうとする展開に変わりはなかった。

 だが、こうした試合展開は、想定の範囲内だった。

「相手の時間帯が長くて我慢する展開になりましたけど、我慢比べに勝てれば、相手の勢いも落ちてくるという予想はありました」

 そう振り返ったのはキャプテンのMF遠藤航(浦和レッズ)だ。指揮官もまた、選手同様に我慢比べをしていた。押され続けていたが、後半の15分が過ぎても、30分が経過しても動かなかった。

 この時、指揮官は「2年前のオマーン大会の準々決勝を思い出していた」という。

 それは、のちに優勝するイラクと対戦したゲームだった。ほとんど一方的に押され続けた劣勢を覆すべく、手倉森監督は早くも55分にFW金森健志(アビスパ福岡)を投入。さらに66分にFW荒野拓馬(コンサドーレ札幌)も送り込んで勝負に出た。

 しかし、ゴールを奪えずに終盤を迎えると84分、一本のロングボールで裏を取られ、ゴールを破られてしまうのだ。「90分で勝負をつけようと考えていた」という強気の采配は功を奏さなかった。

 こうした苦い経験が、イラン戦での指揮官を、勝ち急がず、持久戦に持ち込もうとさせた。ようやく最初の選手交代が行なわれたのは83分、FW浅野拓磨(サンフレッチェ広島)が投入されると、89分にはMF豊川雄太(ファジアーノ岡山)が送り出された。

 浅野の投入は90分で仕留めるためのもの。一方、豊川の投入は延長で勝負を決めるためのもの。まずそれには同点のまま90分間を終える必要がある。残り1分での豊川投入は、延長戦に向けた豊川自身のアイドリングであると同時に、彼の守備力を買って90分間をクローズさせるためのものでもあった。