グループステージで3連勝を飾ったサウジアラビア戦の翌日、センターバックの植田直通(鹿島)は言葉を噛みしめるように言った。

「やっと来た、という感じがあります。いつもここが"僕たちの壁"になっているところなので、必ず乗り越えなければならないと思っています」

 リオ五輪アジア最終予選を戦う手倉森ジャパンが辿り着いた準々決勝。4強入りをめぐる関門は、僕たち――植田らの世代のみならず、日本サッカー界にとって近年、鬼門として存在している。

 1994年にアジア予選を突破して以降、7大会連続出場を果たしていたU−20ワールドカップ(かつてはワールドユース)は、2008年のU−19アジア選手権の準々決勝で敗れて以来、4大会連続ベスト8止まりで、その道が閉ざされている。

 2014年1月に立ち上げられた手倉森ジャパンは、これまで2度の国際大会に出場したが、2014年U−23アジア選手権オマーン大会、2014年アジア大会仁川大会のいずれも準々決勝で敗れている。リオ五輪への出場権が懸かる大一番はその先の準決勝であり、3位決定戦だが、そこに辿り着くためには、日本サッカー界にとって"大きな壁"として存在している準々決勝を乗り越えなければならない。

 その鬼門となる準々決勝で対戦するイランは、手倉森ジャパン初陣の相手でもある。

 チームの立ち上げとなった2年前のU−23アジア選手権。グループステージ初戦で対戦し、先制されたが、原川力(川崎F)、浅野拓磨(広島)のゴールで一時は逆転。しかし、後半にひっくり返されると、手倉森監督は2枚替えの強気采配で矢島慎也(岡山)、松原健(新潟)を右サイドに送り込み、直後、中島翔哉(FC東京)がミドルシュートを叩き込んで引き分けに持ち込むという激闘を演じた。

 もっとも、手倉森ジャパンは21歳以下のチームだったが、イランは2歳年上のU−23代表チーム。当時のチームにいて、現チームにも選ばれているのは10番を背負うFWアルサラン・モタハリと、19番のMFエフサン・パフラバンのふたりしかいない。

 彼らはいずれも、中国とのグループステージ第3戦でゴールを奪った要警戒選手だ。だが、2年前のチームのほうが攻撃がダイナミックで、現チームはこじんまりとしているように見える。

 そうした要因のひとつと言えそうなのが、チームのエースで、昨年10月に行なわれたA代表同士の日本対イラン戦にも出場していたFWサルダル・アズムンが病気のため、今大会にエントリーされていないことだろう。また、ヨーロッパでプレーする別の2選手も、所属クラブの許可が下りなかったために参加していないという。

 モタハリとパフラバンに加え、警戒すべき選手は17番のメフディ・トラビだ。すでにA代表の一員でもある左ウイングは、中国とのグループリーグ第3戦で直接FKを叩き込んでいる。

 一方、3連勝に加え、ここまで23人中22人を起用し、競争意識も改めて高まっている日本にとって、不安要素のひとつがケガ人である。

 右サイドバックとして初戦、2戦目でフル出場した室屋成(明治大)は左足を打撲し、タイ戦翌日の練習は別メニューをこなしていた。しかし、欠場したサウジアラビア戦翌日の練習には元気な姿を見せており、前述したトラビとのマッチアップで奮闘してくれるだろう。

 ただ、同じく初戦と2戦目に先発し、右足付け根付近に炎症を起こしている鈴木武蔵(新潟)は、欠場したサウジアラビア戦翌日の練習も別メニュー。イラン戦には間に合わないかもしれない。

 鈴木が欠場する場合は、従来の4−4−2ではなく、久保裕也(ヤングボーイズ)を1トップとして起用する4−2−3−1に変更して戦う可能性もある。4−3−3の布陣に近いイランに対し、中盤でのマークをはっきりとさせられるからだ。その場合、2列目に並ぶのは、矢島慎也、中島翔哉、南野拓実(ザルツブルク)となるだろうか。

「毎試合、よくなっている」と久保も言うように、試合を重ねるごとに日本攻撃陣の間の連係は高まってきた。だが一方で、一進一退のゲームを決めるのは、北朝鮮との初戦がそうだったように、しばしばセットプレーであることが多い。

 チームは北朝鮮戦の2日前、非公開でセットプレーを入念に試しており、北朝鮮戦前日に手倉森監督は「10個ぐらいやったので、楽しみにしていてください」と語っていたが、まさにその言葉どおり、北朝鮮戦ではそのパターンのひとつで決勝ゴールをもぎ取った。

 すでにグループステージ突破が決まっていたサウジアラビア戦では、「今まで見せたもののなかでやっただけ」と久保が明かしたように、"新しい形"は見せていない。

 左足の貴重なキッカーである山中亮輔(柏)は、「失点しないことを第一に考え、セットプレーなどで丁寧にチャンスを作っていけば、得点に近づくと思う。フリーキックは位置次第でトリックプレーもできるので、チャレンジしてみたい」と意欲を見せており、イラン戦では新たにどんなパターンが披露されるのかにも注目したい。

「攻守が切り替わった瞬間が勝負。あとは持久戦になれば、こちらに強みがある。勝ち急がない、攻め急がない、しっかりコントロールしながらゲームをできるかがポイントになる。イランは、よいときはものすごいパワーを出してくるが、悪いときはパワーダウンして、我々にやらせてくれる時間があるはず。そうしたよい時間に仕留められるかどうか」

 手倉森監督はそう言って、イラン迎撃に自信を見せた。グループステージ3連勝と波に乗る手倉森ジャパンが鬼門となる、ベスト8突破を狙う――。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi