台湾の・蔡英文次期総統と、中国側当局の「かけひき」が本格化しつつある。焦点は中国側や台湾の馬英九政権などが「存在した」と主張する「92コンセンサス(九二共識、1992年合意)」だ。(イメージ写真提供:123RF)

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 台湾の・蔡英文次期総統と、中国側当局の「かけひき」が本格化しつつある。焦点は中国側や台湾の馬英九政権などが「存在した」と主張する「92コンセンサス(九二共識、1992年合意)」だ。

 「92コンセンサス」は、1992年に中国大陸と台湾側が香港で協議した際に得られた合意とされるが、「合意についての双方の理解」が異なり、台湾では「そもそもがでっちあげ」との声もかなり強いなど、きわめて“いわくつきの政治合意”だ。

 蔡次期総統は、「92コンセンサス」の存在を否定してきた。一方の中国は「92コンセンサス」は将来の統一に向けた「第一歩」と見なしており、同コンセンサスを承認することが、蔡政権を容認する最低ラインとの姿勢を示している。

 蔡次期総統は20日、台湾メディアの自由時報の取材を受け、「1992年に大陸側と協議し、共通認識を達成した」ことは事実と表明。自由時報は同発言を21日付で報道し、蔡英文事務所も同日に、同じ内容を発表した。

 蔡次期総統は、1992年の大陸側との協議で、「若干の共通認識と了解を得たことを理解し、この歴史的事実を尊重する」と表明し、「双方はその後、20年以上交流して成果を出した」、「(台湾海峡の)両岸は共同で、この成果を大切にし擁護せねばならない」、「両岸関係を平和と安定、発展の政治的基礎はすでにできている」と表明した。

 大陸側が「92コンセンサス」で最も重視しているのは「ひとつの中国」との文言が盛り込まれていることと考えられる。蔡次期相当は、「ひとつの中国」の考え方と結びついてしまった「92コンセンサス」との用語は避けた上で「共通認識は達成した」と表現した。

 蔡次期総統の発言を受け、中国側では政府の台湾窓口機関である国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官が、談話を発表。

 馬報道官は「92コンセンサスという政治的基礎を維持してこそ両岸関係を長期にわたって安定させることができる」と主張。また、「台湾海峡の両岸は1949年以来、統一されていないが、大陸と台湾が1つの中国であるという事実は変わっていないし、変えることもできない」と述べた。

 馬報道官は、蔡次期総統の表明に直接の反論はせず、中国の従来の主張を、比較的穏やかな言い回しで述べるにとどめた。

 蔡次期総統と中国側の間では、対立をエスカレートさせてしまう言動をできるかぎり避けながら、相手からできるかぎりの譲歩を引き出す「駆け引き」が本格化しつつあると言える。

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◆解説◆
 上記のやり取りを見るとまず、蔡次期総統は中国との「落としどころ」を探っていると理解してよいだろう。蔡次期総統は選挙に際して、対中関係で「原状維持」と説明してきた。中国が蔡政権に反発するとすれば、まず考えれるのが経済による圧迫だ。台湾経済が影響を受ければ、蔡政権にとっては大きな痛手だ。

 一方、中国側にとっても台湾に対する“経済制裁”は、自らへの「ブーメラン」になる可能性が高い。台湾を「引き寄せる」ための最大の障害は台湾人の中国/中国人に対する不信感や嫌悪感だからだ。中国側が台湾に不利益になる行動をすれば、多くの台湾人が改めて「中国は衣の下に鎧をつけている」と見透かすことになる。

 「92コンセンサス」は2000年になって初めて、台湾における対中窓口である行政院大陸委員会の蘇起主任が存在を明らかにした。民進党の陳水扁主席が次期総統に当選し、就任する前という「極めてデリケート」な時期だった。

 陳水扁総統、李登輝元総統、黄昆輝行政大陸委員会元主任、辜振甫海峡交流基金会理事長ら、大陸関係に責任ある立場の主要な人物は次々に、「92コンセンサス」の存在を否定した。しかし在野の立場だった国民党の連戦主席は2005年に大陸を訪問した際、中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)と会談を行い、両党の合意事項として「92コンセンサス」が文章に盛り込まれた。

 「92コンセンサス」について、国民党は「中国はひとつであるが、その意味(どちらの政権が中国を代表するか)の解釈はことなることを、双方が認める」との内容としている。しかし共産党は「中国はひとつとの立場を堅持する」とだけ解釈している。つまり「92コンセンサス」に続けて「台湾を含む全中国を代表するのは中華人民共和国政府」とつけ加えられる解釈だ。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)