日本の未来を考えよう

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■「日本の未来を考えよう」(出口治明著)

年のはじめは、これからを考えるのにふさわしいときだ。読売新聞の書評委員を務めるなど経済界屈指の読書人・教養人として著名な出口治明氏(ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長兼CEO)の「日本の未来を考えよう」(クロスメディア・パブリッシング 2015年9月)は、そのための恰好の1冊だろう。

年の初めにこれからを考えるための恰好の1冊

出口氏は、70以上の国、1200を超える都市を訪れた経験を踏まえ、「日本ほど素晴らしい国はない」との結論を得た。また、「日本の未来は明るい」という。それは、「未来は現在の日本に生きている私たちがつくり上げるものだから」で、「暗い未来を導きそうな課題が目の前にあるのなら、それをしっかり受け止めて、明るい未来になるように対策を講じればいいだけ」と断ずる。「ただ、そのためには日本のありのままの姿をきちんと『知る』ことが必要」だとする。「相互保険」の生みの親にして、第一生命の創立者矢野恒太が1927年に出した統計データブック「日本国勢図会」(現在は、公益財団法人矢野恒太記念会から出版)、通称「図会」(ずえ)、その世界版である「世界国勢図会」を、出口氏は毎年必ず買って、眺めることを習慣としているという。矢野が、「図会」をつくったのは、これからの若い世代に、「客観データ」の価値を知らしめ、それによって主体的な判断を下せる「自立した日本人」を1人でも増やすためであり、出口氏は、この矢野の狙いを現代的に活かそうと、この本を世に問うたのだ。「人は『国語』で議論すると答えがたくさん出てきて議論が拡散しがちになるが、『数字』を介してみると、議論が収束して世界の姿がはっきりと見える」とし、物事を考える上での「タテ軸」(時間軸・歴史軸)と「ヨコ軸」(空間軸・世界軸)を持つことの重要性を指摘し、本書では、それを具体的なデータ(数字)で示すことで、日本が抱えている課題をよりクリアにすることを目指した。

変化への対応力の弱まりが衰亡の始まり

序章が、「『知っているようで知らない日本』のおさらい」で、やや専門的だが、日本は、購買力平価ベースのGDPでは、アメリカ、中国、インドについですでに4位であること、市民1人あたりの生活水準は、G7のなかでは、イタリアについでビリから2番目であること、アジアでも、ブルネイ、シンガポール、香港、台湾についで5位で、もうすぐ韓国に抜かれる見込みであることがわかる。また、世界一の「超高齢化」社会になることも示される。

冒頭第1章は、まさに「世界一の公的借金大国ニッポン」だ。第3章の「マスメディアを信用しすぎる日本人」で、出口氏は、「日本人がマスメディアを信頼しきっている限り、『世論』と呼ばれるものはマスメディアがつくり上げることとほとんど同義です。その『世論』をつくるマスメディアを政府が抱え込もうとするのは、不健全ではありますが、しょうがないことかもしれません。」とし、「その連鎖を断ち切るには、私たち市民が知恵をつけ、判断力を磨き、マスメディアに対しても厳しい目を向けられるよう成熟する必要がありそうです。」とする。第4章の「日本は世界に稀な小さい政府!」という明らかな事実も何故かマスメディアではほとんど報じられない。

優れた政治学者がローマ・ヴェネツィアの歴史を振り返り、アメリカや日本の行くすえを洞察した「文明が衰亡するとき」(高坂正堯著 新潮選書 1981年)は、出口氏のいう「ヨコ軸・タテ軸」をしっかり踏まえた珠玉の1冊だ。変化への対応力の弱まりが衰亡の始まりだという。この卓越した洞察を新年にあらためてかみしめたい。

経済官庁(総務課長級 出向中)AK