SMAP問題を機に労組結成が議論に

写真拡大

SMAP解散騒動は、5人の「生謝罪会見」により一応の決着をみた。同時にジャニーズ事務所による過度な縛り付けの存在も改めて浮き彫りとなった。

大手事務所が牛耳る日本の芸能界では、独立・移籍がなかなか認めてもらえず、場合によっては干されてしまうことが「暗黙の了解」としてまかり通っている。ネット上では労働組合結成の必要性を訴える声も高まっている。

「芸能事務所縛り」は「日本にはびこる巨悪の一つ」

初報から5日目の2016年1月18日、5人は「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)で緊急生会見を行い、騒動を謝罪した。ファンの願いどおり「解散」は免れたようだが、中居正広さんら「独立組」のこわばった表情や憔悴しきった様子が注目を集めた。

一連の騒動では、「SMAP育ての親」である女性マネジャーがメリー喜多川副社長との関係悪化により独立を画策し、これに木村拓哉さんを除く4人が追随しようとしたとされている。しかし計画は失敗。結局、マネジャーは芸能界から退くこととなり、4人が出戻りという形で「収束」したようだ。

そうした内部事情が報道を通じて公にされていた上で行われた先の会見は、ファンの目にジャニーズ事務所側の「勝利宣言」と映った。ネット上では「公開処刑」「ブラック企業そのもの」といった批判が相次ぐと同時に、不自由な立場に置かれた芸能人の労働環境を問題視する声も上がった。

芸能プロ事情にも詳しい紀藤正樹弁護士は今回の件を受け、タレントの独立を事実上許さず、独立すれば芸能界から追い出す「芸能事務所縛り」についてブログで言及している。これは「日本にはびこる巨悪の一つ」であり、労働基準法、独占禁止法、不正競争防止法といった多くの法的問題をはらんでいるというのだ。

ジャニーズ事務所のような大手芸能事務所の支配体制を崩すためにも、芸能人たちによる労働組合結成が必要だとする声も高まっている。

米国では芸能人の労働組合が活発

エンターテインメントの聖地・米国では芸能人の労働組合が活発だ。1933年設立の映画俳優組合(SAG、現在SAG-AFTRA)は、約16万人の組合員を抱える巨大組合として存在感を示している。対する日本には、俳優の西田敏行さんが理事長を務める協同組合「日本俳優連合」(会員約2500人)があるが、現状、芸能界に大きな変革をもたらす存在とはなり得ていない。

そもそも日本と米国とでは芸能事務所の仕組みが大きく異なる。「芸能人はなぜ干されるのか?芸能界独占禁止法違反」(鹿砦社)の著者でフリーライターの星野陽平氏は米国の事情についてこう解説する。

「日本は芸能事務所がタレントのすべてを管理していますが、米国では、みな養成学校に自腹で通い、出演交渉や金銭交渉を行ってくれる『エージェント』に履歴書を送って個人契約を結ぶんです。エージェントは法律であっせん手数料しか取ってはいけないことになっているので、スクール運営やマネジメント業務はできない。そのため俳優たちはマネジャーをつける場合、マネジメントカンパニーに依頼するなどして別途契約することになる」

日本の芸能人が事務所に所属する「会社員」的存在ならば、米国の俳優らはエージェントと対等に仕事をする「個人事業主」というわけだ。

では、事務所支配体制の日本においても、米国のような強い労働組合ができる可能性はあるのだろうか。

鍵を握るのは「ネットの力」

「日本音楽事業者協会(音事協:有力芸能事務所が加盟する業界団体)はタレントが強くなると困るので、当然黙っていないはずです。ただ、可能性はあると思います。たとえば82年には島田紳助さんが『吉本連合組合』を結成し、デモ行進も行っています。いま鍵を握るのは『ネットの力』でしょう」(星野氏)

今回のSMAP騒動では、ネットニュースの事務所批判記事が注目を集めた。YouTubeでは謝罪会見動画が何度も再生され、ツイッターではスマスマ放送後にサーバーがダウンするほどの盛り上がりをみせていた。

「ネットの反応をみても明らかなように、事務所による従来のメディアコントロールがきかなくなってきているんです。労組を作りたいと考えている人もいる。ファン側から労働組合の必要性を強く発信し、ネットメディアとともに世論形成していくことが大切だと思います」(星野氏)

ちなみに星野氏によれば、現在のような事務所支配の歴史は実はそれほど長くはないという。

「戦後、1953年に映画会社間の俳優の貸し出しを禁じる『五社協定』ができるまでは、俳優に仕事をあっせんする『俳優ブローカー』が活躍し、俳優も映画会社に対して強い立場にあったんです」

国民的アイドルをめぐる騒動は日本の芸能界に何か変化をもたらすか――。今回の一件で注目を集めているのはSMAPの今後だけではない。