『フラジャイル』第2話は急性アルコール中毒の救急搬送だったが実は…… Givaga/PIXTA(ピクスタ)

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 先日スタートした、長瀬智也さん主演の医療ドラマ『フラジャイル』(フジテレビ系)。医療の影武者・病理医の存在意義とその果たす役割の重さに、観る者がグイグイ引き込まれた。

 ところが、初回の平均視聴率9.6%(ビデオリサーチ調べ:関東地区)の結果に「低空飛行」との声も。だが、実際に観なければ、数値では表わせない内容の面白さや俳優陣の好演ぶりもある。

 「『フラジャイル』のストーリー自体は、ドラマならではの展開ですが、病理診断の重要性はよく描かれていたと思います。長瀬さん扮する岸京一郎の『俺の言葉は絶対だ!』という決め台詞、多くの病理医が"一度は言ってみたい"と感じていることでしょうね」

 専門家の立場から初回の鑑賞評をそう語るのは堤寛教授(藤田保健衛生大学医学部病理学)。「野村周平さんが演じるスーパー検査技師の縁の下の力ぶりに、もっと光が当たるといいですね」と、今後の展開に期待を寄せた。

臨床検査技師は二人三脚の「相棒」

 「病理診断科に送られた検体の顕微鏡標本をつくるのは臨床検査技師の仕事です。つまり正確な病理診断は、病理医と病理検査技師の共同作業によって初めて可能になるのです」

 第2話のテーマは救急救命だったが、第1話でも手術を一時中断して、執刀医が病理医の迅速な診断を仰ぐ場面が描かれた。一般の人の多くが、治療における病理の重要性に驚いたはずだ。

 堤教授が、がん手術を例に解説をする。

 「病理医には<術中(じゅっちゅう)迅速診断>といわれる特殊な業務があります。これは手術をしている最中に、本当にがんなのか、どんな手術をしたらいいのか、断端部(=手術した切断面の切れ端)にがん細胞がないかどうか、リンパ節に転移がないか、もっと追加で切るほうがいいのかなどを、10〜15分以内で決めます」

 時間的猶予が10〜15分! まさに臨床検査技師との"二人三脚"の呼吸が問われる場面だ。

 「組織(=臓器)を急速に凍らせて薄い切片を作製します。この凍結切片の作製も病理検査技師が行ないます。同時にこれは病理医がその場にいないとできない、高度な専門性の高い診断行為であり、適切な手術の実施に必須の業務です」

治療方針のほぼ総てを左右する存在感

 院内で患者が亡くなると、その死因や病態を特定するのも病理診断科の仕事である。

 「患者さんの死因究明・病態解明のために病理解剖も行ないます。この際はご遺族の同意が必須です。病理解剖は<剖検(ぼうけん)>とも呼ばれています」

 病気に対して幅広い知識をもつ病理医は、臨床検査部門全体に関わる事例も多い。
「院内感染防止対策、安全管理、倫理委員会、廃棄物委員会などを含めた医療機関内のさまざまな管理的な役割を担うことも少なくありません」

 現代医療、とりわけがんの診療では、外科手術やホルモン療法、抗がん剤治療など、具体的な治療方針のほぼ総てが「"病理診断で決まる"といっても過言ではありません」と堤教授は語る。

 「がんの最終診断は病理診断に委ねられます。たとえば乳がんの場合は通常、まず細い針を無麻酔で刺す<細胞診>が行なわれ、続いて局所麻酔下で太い針を刺す<針生検>が行なわれます。臨床的にがんが強く疑われるときは、細胞診を省略して、いきなり針生検が選ばれることが増えてきました」

 「がん場合、悪性度(=組織学的異型度)も判定します。病理診断の結果によって、手術法や治療法が変わるのです。同じ臓器のがんでも、悪性度や進行度によって治療や生命予後(=あと、どれくらい生きられるか)が大きく異なるからです」

 主人公の天才病理医・岸京一郎。彼のもう一つの決め台詞である「うち(病理)は10割出しますよ」が意味する重要性が、堤教授の説明からも解る。
(文=編集部)

「宮崎智尋の今週の病理診断」*
番組サイトでは、宮崎智尋役の武井咲さんがナビゲーターとなって実際の病理診断の組織画像を紹介。よりドラマを愉しむにはオススメのコンテンツだ。
*http://www.fujitv.co.jp/FG/shindan/index.html

堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。