リオ五輪アジア最終予選の2試合を終え、チームの雰囲気はすこぶるよい。

 もちろん、2連勝を飾ったうえに、グループリーグ突破も決まるという最高の結果を収めているから当然ではあるが、一方で、「雰囲気がよかったから結果が出ている」という側面もある。

 12月のカタール・UAE合宿のころからピッチ内で盛んに声が出るようになり、宿舎でも選手たちが即席の、ちょっとしたミーティングをするようになった。最後2名の選考がかかった石垣島合宿でも明るさに包まれ、ほどよい緊張感を持ってドーハに乗り込んだ。

 昨年3月の1次予選以来の合流となる久保裕也(ヤングボーイズ)は、大会の開幕前に「(当時と比べて)雰囲気が明るくなったし、ポジティブな言葉も増えている。コミュニケーションを取る分、やりやすくなった」とすでに話していた。

 そして2連勝を飾り、チームはさらにポジティブな雰囲気に包まれている。得点した選手がすぐさまベンチに駆け寄っていくシーンが、それを象徴している。

 そんな好ムードを支えているのが、ここまで出場機会のない選手たちだ。

 3月の1次予選の際には右サイドバックのレギュラーだった松原健(新潟)は、4月に右外側半月板を手術し、10月に実戦復帰した。そこから急ピッチで回復に努め、12月のウズベキスタン戦や1月のシリア戦では先発出場したが、今大会では2歳年下の室屋成(明治大)にポジションを譲り、2試合ともベンチを温めていた。

 松原にとって、室屋はライバルである。だが、室屋は嬉しそうに明かす。

「(松原)健くんが練習中に、クロスの蹴り方のアドバイスをしてくれるんです」

 さらに、こうも言う。

「北朝鮮戦の前にも、『俺の分まで頑張ってくれ』と言われました。本当にいい人。今のチームは互いにリスペクトし合っているので、誰がベンチに回っても、誰ひとり文句は言わないんです」

 タイ戦のあとには、南野拓実(ザルツブルク)と菊島良介トレーナーの誕生会が開かれたが、ここで活躍したのが、石垣島合宿で最後の一席を勝ち取った最年少の三竿健斗(みさお・けんと/鹿島)だ。

 誕生会で三竿は、リズム系のネタやジワジワくるようなネタを披露。「(三竿は)やりたがりなので。おかげで盛り上がりました」とオナイウ阿道(千葉)が言えば、手倉森誠監督も「あいつは"そっちのほう"からこのチームに入り込んできた。僕は北朝鮮とサウジの試合を見ていたので立ち会えなかったけど、高いクオリティーのパフォーマンスを示したそうで」と微笑んだ。

 同じく最年少で、まだ出番のない井手口陽介(G大阪)も、先輩たちをイジったりして周囲に笑いを起こしている。「今日はあの人、イジって来いって言ってます」と明かした岩波拓也(神戸)は、「上下関係は必要ですけど、和気あいあいじゃないですが、リラックスすることも大事ですからね」と続けた。

 サウジアラビア戦を迎えるにあたって手倉森監督は、その松原、三竿、井手口の起用を明言している。松原に関して言えば、大会前から「3試合目に照準を合わせるように」と話していたという。

 おそらく、他にもメンバーを入れ替えてくるはずだ。このあとの連戦に備え、遠藤航(浦和)や岩波拓也といった2試合ともフル出場している選手を休ませる一方で、北朝鮮戦で持てる力を出し切れなかった大島僚太(川崎F)、まだこのチームにフィットし切れていない南野、タイ戦で犯してしまったミスを挽回させておきたい亀川諒史(福岡)、サブGKの杉本大地(徳島)や牲川歩見(にえかわ・あゆみ/鳥栖)を起用し、タイ戦に続いてチームの総合力を高めたい。

 第3戦の相手、サウジアラビアはA代表経験者も揃え、「グループBでもっとも強い」と言われていたが、これまでのゲームを見る限り、精神的にムラッ気のあるチームのようだ。

 タイとの初戦は前評判どおり、タイプの異なるアタッカー陣が多くのチャンスを作ったが、前半にPKを外し、後半も先制後の追加点ののゴールはオフサイドで取り消されて波に乗り切れず、1−0で迎えた終盤、相手のパスをDF同士が譲り合う連係ミスから失点。1−1のドローに終わった。

 続く北朝鮮戦では1−2とリードを許したが、後半に入って逆転。しかし、85分にコーナーキックの流れから失点し、これまた3−3のドローに終わった。

 2試合終わって2引き分けの勝ち点2というのは、彼らにとって想定外の事態だろう。とはいえ、北朝鮮とタイが勝ち点1に終わっているため、2位につけているサウジアラビアは日本戦に勝利すれば、自力での決勝トーナメント進出を決められる。それだけに、日本戦には決死の覚悟で総力戦を仕掛けてくるだろう。

 警戒すべきは、タイプの異なる前線のアタッカーたちだ。10番を背負い、A代表にも名を連ねるファハド・アルムワラドはバイタルエリアで決定的な仕事ができる小柄なテクニシャン。7番の右サイドアタッカー、アブドゥルマジド・アルスライヒムはスピードに乗ったドリブルで守備ラインを突破し、大柄な16番、モハメド・カンノは重戦車のようなドリブルを仕掛けてくる。

 日本にとっては今大会、初めての中東との対戦となる。日本の準々決勝の相手はカタール、イラン、シリアのいずれかで、いずれも中東のチームとなる。また、優勝候補筆頭のイラクを含め、この先の決勝トーナメントで顔を合わせる機会が増えるはずだ。

 サウジアラビアの北朝鮮戦がいい例だが、中東勢はゲームをコントロールするより、力で強引にねじ伏せようとする傾向があるため、得てしてオープンな打ち合いになることが多い。サウジアラビア戦は、そうした中東対策の格好のシミュレーションになるはずだ。

「無駄な試合は1試合もないと思うので、グループリーグ突破が決まったからこそ、総合力を見せられるかがひとつのポイント。誰が出ても同じサッカーができることを強みにしたい」と、キャプテンの遠藤航はきっぱりと言った。

 狙うは、全勝での決勝トーナメント進出だ。2試合を無失点で切り抜けた日本の守備陣にとって真価の問われるゲームとなり、チームにとっても総合力と柔軟性がふたたび試される一戦となる。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi