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今回のお題は「最後の晩餐に食べたいもの」である。

絵に描いたようなネタ切れになっている感が否めないが、代わりに言いたいことがあるかというと、ない。「伝えたいことは特にない」というのが、このコラムの一貫したテーマでもあるのだ。

○食べるに食べられずにいるあの食べ物

食べ物のことについては、今までペペロンチーノやペペロソチーノ、ペペロンやチーノのことなど多く語ってきたが、今回は人生の最後には何を食べるかという話だ。

私には、長らく食べたいと思いながらも、未だに食べるに至っていない物がある。「最後の食事」とするなら、それが最有力候補になると考えている。

私はパスタが好きだが、ピザも大好きだ。イタリア人から陽気さとコミュニケーション能力を奪い尽くしたら私になる、というぐらいイタリアンが好きなのである。

その昔、「貧乏人は麦を食え」と発言したとしてマスコミに叩かれた首相がいたが、今の貧乏人は麦など食っておらず、何を食っているかというとパスタを食っている。

麺自体が安く、炭水化物ゆえに腹持ちも良い。ソースも安価であり、それすら買う金がなければ塩でも振って食べれば良い。私がペペロンチーノを常食できるのも、コスパが良いおかげである。

しかし、ピザはまだ貧乏食とは言い難く、「貧乏人はピザを食え」と吹かす政治家の報道も今のところないようだ。つまり、私にとってパスタはカジュアルだが、ピザはフォーマルなのだ。

ハンカチーフの代わりに胸ポケットにピザを忍ばせたいと思っているし、スカーフのごとく首にピザを巻きたいと思っている。それを入り口で「お客様、そのお召し物ではちょっと」などと止めてくる店は三流だ。

正装というのはその国によって違うもので、腰に干し首を三つぶら下げるのが最も礼を尽くした姿だという民族もいるだろう。アツアツのモッツァレラチーズが乗ったピザを首に巻きながらも涼しい顔でいることがどれだけ紳士的行いであるかわからない店などこちらから願い下げだし、他所の文化を認めない狭量さは、このグローバル社会において時代遅れとしか言いようがない。

話がとんでもない勢いでズレたが、ともかく私はピザが好きである。

特におススメはローソンの冷凍ピザである、300円以下で買える上、レンジで調理するものなのに、ピザのパリッとした食感も出せているという優れものであり、味も非常に良い。まるでローソンの回し者のようだが、別に金をもらっているわけではない。くれると言うならいくらでももらうつもりだが、とにかく一銭ももらえなくてもいくらでも褒めたい一品で、舞踏会などに招かれた際にはぜひ首に巻いていきたいピザなのだ。

しかし、このピザを知ってしまったばかりにどうしても頼めない物がある。ピザーラやピザハットなどのいわゆる「宅配ピザ」である。冒頭で言及した「長らく食べたいと思いながらも、未だに食べるに至っていない物」がこれである。

○カレー沢氏と宅配ピザの距離感

ホームページなどで宅配ピザの写真を見るとどれも非常に美味そうであり、実際美味いのだろう。自分はマウスで数回クリックするだけで、ピザ屋の人がピザ専用の設備で調理し、しかも自分の家まで冷めない内に持ってきてくれる、ピザ愛好家にはたまらないサービスだとも思う。

しかし、値段にはどうにも承服しかねるのだ。1枚あたり平気で2000〜3000円近くする。ローソンのピザが300円以下であることを考えると、宅配ピザのピザは畳一畳ぐらいの大きさでないとおかしい計算になる。もしそうであるなら喜んで2枚頼み、敷布団にピザ、掛布団にピザという夢を叶えるつもりだが、どうやら座布団ぐらいにしかできないサイズであるらしい。

焼肉や飲み会で数千円出すことに対してはそんなに躊躇しないのだが、それはどこで飲み食いしても値段がそこまで大きく変わらないからだ。ピザに関しては、なまじ300円以下で美味いピザがあると知ってしまったがために、約10倍の値段を払う踏ん切りがつかない、というのはあると思う。

これまで私は、何か良い事があるたびに宅配ピザを頼もうとした。今日こそ、今日こそ頼んでやるぞと、まるで風俗店の前を何往復もする童貞のように逡巡した。そして結局、値段を見て断念する、ということを繰り返していた。

別に、宅配ピザに価格に見合う値打ちがないと思っているわけではない。値段には当然至れりつくせりのサービス料も含まれているだろう。ただ、自分が宅配ピザを頼むに値する人間なのかを考えると、いつも「NO」という結論に達するのである。

よって、最後の晩餐には思い残すことをなくすためにも宅配ピザを頼もうと思うのだが、そもそも最後の晩餐ってどういう状況だ、とも思う。病気でもう明日死ぬという状態なら、多分ピザとか食えないと思うし、食事ができるのかさえ怪しい。

たとえ健康であっても、今日地球が木端微塵になりますよ、と言われて「よっしゃ! じゃあ最後にピザでも食っちゃいますか!」という発想になるかというと甚だ疑問であるし、宅配ピザの人も地球最後の日にまでピザを配達してはくれないだろう。

それ以前に、そんな日に飯を食っている場合なのだろうかとも思うが、おそらく私は何をすべきか考えている内に木っ端微塵になっているタイプである。

だったらもう何も考えず、「地球が滅びるでごわすか! なら大好きなピザを頼むデブ!」と部屋一面にピザを敷き詰め、その上を全裸で転げまわろうと思うので、宅配ピザの方々は、それどころではないかもしれないが、地球最後の日でも注文を受けつけていただければ幸いである。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「負ける技術」(2014年)(文庫版:2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品は「猫工船」、「やわらかい。課長起田総司」(単行本1〜2巻)、「ニコニコはんしょくアクマ」(単行本1〜2巻)。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年1月26日(火)掲載予定です。

(カレー沢薫)