何だか話がうますぎはしないか。

 そんな気にさせられるほど、あまりに順調すぎる日本の勝ち上がりとなった。

 リオデジャネイロ五輪アジア最終予選(兼アジアU−23選手権)のグループリーグ第2戦。日本はタイに4−0で完勝し、2連勝で勝ち点を6に伸ばした。およそ前評判が高かったとは言い難いチームが、最終戦を残しての悠々たる決勝トーナメント進出である。

 大苦戦を強いられた初戦の北朝鮮戦から一転、この日の日本は、終始落ち着いた試合運びでタイをねじ伏せた。手倉森誠監督も満面の笑みでこう語る。

「前回苦しんだ分、こういう褒美が来るのかな」

 特に初戦から大きな改善が見られたのは、守備面である。

 FW鈴木武蔵、久保裕也と取るべき人が取ったこともあり、注目は4ゴールを量産した攻撃面に集まりがちだろう。だが、このチームの戦いのベースとなるのは、しっかりとした守備。そんな手堅いチームらしく、タイの長所をうまく封じることが試合の流れを引き寄せる要因となったことは間違いない。

 タイは選手それぞれが高い技術を持ち、ショートパス主体のパスワークを武器とする。それに対し、日本が早くボールを奪おうと焦ってしまえば相手の思うつぼだった。キャプテンのMF遠藤航は言う。

「一発で飛び込まないのが大事な部分。ガマンして抜かれないようにして、ワンツーとかの動きにはしっかりとついていくところは意識した」

 たしかにタイは、10m四方程度の狭いエリアに3、4人が入り、細かくパスをつなぐ技術には長けていた。あたかもミニゲームを見ているかのがごとく、日本の選手がもてあそばれるシーンは何度かあった。

 だが、言い換えると、タイができたのはそこまでだった。中盤やサイドで少々パスをつながれたところで、日本の選手が慌てて次々に飛び込んで守備のバランスを崩すようなことさえしなければ、ペナルティーエリア内までボールを運ばれることはない。

 MF矢島慎也が「守備ブロックの前でつながれる分には怖くなかった。相手の18番(MFチャナティップ)だけはブロックの中に入ってきて、嫌な位置にポジションを取ってきたが、航くんが強く行って(止めて)くれた」と振り返ったように、危ないシュートにつなげられることはほとんどなかった。

 後半に入ると、すぐにリードを2点差に広げたこともあり、「センターバックのふたりがみんなに声をかけて守備ブロックを下げ、相手にボールを持たせる形にした」(矢島)。

 DF岩波拓也は「前から(守備に)行きすぎて、2トップの選手が疲れていた部分もあったので、1回下がって守備をしようと全員で話した」と明かし、こう続ける。

「何でもかんでも前から行って(ボールを)取れるものではないし、相手も足下(の技術)はうまかったので、様子を見ながら、取れるところでサイドバックの動きをスイッチにすることで、チーム全体が(プレスを)ハメこんでいくということがうまくハマったと思う」

 3日前の北朝鮮戦を踏まえ、チーム内でいちばんの問題点と指摘されていたのは、やはり守備面、それもとくにDFラインだったという。相手のロングボール主体の攻撃に対し、DFラインがズルズルと後退した結果、全体が間延びして選手間の距離が広がり、守備面ばかりか、攻撃面にも悪影響を与えてしまったからである。

 岩波は「ミーティングで、監督やコーチからDFラインがよくなかったという指摘があった。自分がラインを下げていた部分があったので責任を感じていた」と語る。

 だが、このタイ戦ではDFラインを高く上げ、コンパクトな守備ブロックを保ちながらも、試合展開に応じて選手たちが自らの判断でブロック設定の位置を下げる柔軟性も見せた。同じ無失点とはいえ、ただただ受け身で耐えるしかなかった北朝鮮戦とは、明らかに内容は異なる。岩波が満足そうな表情で口を開く。

「今日の試合で、もう一回自分がやれるというところを見せないといけなかった。勝ちが必要な試合でいいアピールもできたし、納得できる試合だった」

 それにしても、この大会の日本は怖いくらいにいい流れに乗っている。

 北朝鮮戦は一方的に押されながらも勝ち点3を拾うと、先発を6人も入れ替えて臨んだタイ戦は、新しく入った選手が活躍しての圧勝である。

 結果的に4−0となったタイ戦にしても、試合の流れが変わる可能性がまったくなかったわけではない。言うまでもなく、日本が2−0でリードして迎えた54分に与えたPKの場面である。これが決まれば1点差。試合はどうなったか分からない。

 しかし、相手キッカーが軸足を滑らして、PK失敗。岩波が「ああいうのが入らないのは、チームがいい状況にあるということ」と語ったように、試合の流れを一変させかねないピンチが、むしろ日本にさらなる勢いをもたらす結果となった。

 日本を後押しする追い風は、試合後も続いた。

 タイ戦後に行なわれた北朝鮮−サウジアラビアは、互いに点を取り合うシーソーゲーム。北朝鮮が2度のリードを奪うも、サウジが2度とも追いつき、69分にはついに3−2と逆転した。このまま試合が終われば、グループリーグ最終戦で日本はサウジとB組1位をかけて対戦するはずだった。

 ところが、試合終了まで残りわずかの85分に北朝鮮が同点ゴールを決めて、両チーム痛み分け。この結果、すでにグループリーグ突破を決めていた日本の、1位通過まで決まってしまったのである。

 率直に言って、あまりに事がうまく運びすぎていて気味が悪いくらいである。老婆心を承知で言えば、何か落とし穴が待っている前兆ではないかとさえ思えてくる。

 戦前の低評価からも分かるように、チーム全体が危機感を持って大会に臨んでいることが、この結果につながっている面はあるだろう。矢島は「今までベスト8で敗退してきた大会にはなかった一体感がある。この大会にかける思いが一人ひとり強い」と語る。

 ただ、グループリーグ第3戦のサウジ戦が"消化試合"になってしまうことで、いい意味での危機感や緊張感が薄れてしまう危険性は否めない。

 準々決勝まで中2日で4試合が続くなかでは、日程的余裕を持って準々決勝に臨める状況を作れたことは、普通に考えればプラス材料である。手倉森監督も「準々決勝を見据えながらの起用ができる。多くの選手を3戦目に使っていきたい」と話す。

 だが、今のチームにとっては、勝たなければならない緊張感を保ったままの"ガチンコ勝負"が続くほうが、勢いそのままに最重要の準々決勝、準決勝に入っていけたのではないか。そんなふうにも思える。

 チームが今、いい状態にあるのは間違いない。しかし、だからこそ、サウジ戦の使い方は存外難しくなった。つまりは、いかにこの勢いを殺さず、かと言って勢いに乗り過ぎて過信を生むこともなく、準々決勝につなげるか、である。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki