歓喜はない。安堵感だけである。試合が終わると、グラウンド中央に青色ジャージの円陣ができた。パナソニックのキャプテン、フッカー(HO)堀江翔太が声をかける。

「やっと、ここまでこれた。いつも通り、1週間しっかりと準備しよう。準備で結果が決まるぞ」

 16日の秩父宮ラグビー場。トップリーグの年間王者を決める決勝トーナメントの準決勝。王者パナソニックは円熟した強さを発揮し、神戸製鋼を42−10で下した。

 横綱相撲である。ゴールライン際まで押し込まれても、ちっとも慌てない。前半、ほとんど自陣で戦いながら、トライは許さない。堀江は静かにこう言ってのけるのだ。

「我慢を続けて、(相手を)止める自信が一人ひとりにありました」

 その裏付けは、個々の高いスキル、フィジカル、判断力、コミュニケーション、経験、そして1週間の準備にあった。特に神鋼が得意とするラインアウトモール対策はみっちりやった。序盤、その効果が出た。

 ラインアウトモールを防ぐためには、ラインアウトで相手にボールを取らせないのが一番である。相手のHOは負傷の木津武士に代わって出場した2年目の長崎健太郎だった。パナソニックは「スローイングの精度が低い」とみた。

 前半4分の自陣ゴール前左の神鋼ボールのラインアウトだった。長崎の投入に合わせて、ラインアウトの前(2番目あたり)のフランカー(FL)西原忠佑が跳んで、相手ボールを邪魔した。モールは組ませない。

 1分後。またも自陣ゴール前左の神鋼ボールのラインアウト。こんどはロック(LO)谷田部洸太郎が前で跳んで、ボールを奪取した。窮地を脱す。さらに1分後の自陣左のラインアウトも西原が邪魔をした。パナソニックのロビー・ディーンズ監督は言った。

「ゲーム序盤に彼らの強みであるラインアウトモールをしっかりと阻止できたのがよかったと思います」

 自陣からやっと抜け出したら、スクラムでコラプシング(故意に崩す行為)をもらい、難しい位置からの約40mのペナルティーゴール(PG)をスタンドオフ(SO)のヘイデン・パーカーが蹴り込んで、3点を先取した。スクラムでも、堀江が長崎を揺さぶり、相手スクラムの要のプロップ山下裕史の押しを半減させた。

 巧いというか、狡猾というか。コンタクトエリアでは、パナソニックの選手の無駄のない動きが光った。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)でもディフェンスでも、個々の反応とスピードがはやいから、パナソニックは数的優位に立てるのだった。

 堀江が説明する。

「コンタクトエリアのひとつひとつをしっかり判断していくというのを意識しました。ディフェンスは判断とコミュニケーションです。うちには、もともと三洋(三洋電機=現パナソニック)の時にできたディフェンスの文化が残っていますから」

 文化とは、タックルの強さは当然として、コミュニケーションの取り方、声の掛け方、互いの間隔の保ち方、立ち上がりのはやさなどを指す。ディフェンスへのこだわり、意思統一、プライドでもある。いまの王者にはディシプリン(規律)が加わった。

 この日の反則数は相手13に対し、パナソニックは4だった。勝利の立役者は1人で27点を挙げた25歳のパーカーだったが、それを引き寄せたのは15人のラグビー理解度の高さと粘り強いディフェンス、攻守の切り替えのはやさにあった。その象徴が世界レベルの29歳、堀江である。

 堀江はいつも自然体。ミックスゾーンには、好物のシウマイ弁当をぶら下げてゆったりと現れた。昨年のワールドカップ(W杯)では日本代表の副将として活躍した。自身の成長を問えば、少し考え、こう漏らした。

「少しは自信がついたんじゃないですか。すべてに対して」

 堀江は、チャレンジングなラグビー人生を歩む。モットーが『勇気なくして栄光なし』である。帝京大卒業後はニュージーランドにラグビー留学し、NO8からHOに転向した。日本代表として2011年W杯で無勝利に終わると、13年から2シーズンは南半球最高峰のスーパーラグビーに挑んだ。

 昨年の今ごろは首の故障に苦しみ、指先がしびれていた。それでも主将としてケガを押して奮闘した。2月に手術をし、1年が経とうとしている。

「そりゃ、いまは手足の動きは全然いいですよ」と堀江は小さく笑う。

「でも、僕はその時その時のベストを出そうとしてきました。1年前も今も同じぐらいの気持ちなんです。変わりません」

 自覚と責任感が強い。2月に始まるスーパーラグビーには、堀江は海外のオファーを断り、初参戦の日本チーム『サンウルブズ』のメンバーとして挑戦する。なぜ?

「いっぱいスーパーラグビー(の海外チーム)に行って、選手が集まらないとサンウルブズができないという話もあって......。日本代表でスーパーラグビーを経験した選手がチームにいないと、見ているファンも残念だと思うんです。『堀江さんが(サンウルブズに)入るならやりますよ』という選手もいて、その選手たちを裏切ることもできませんよ」

 そういえば、先週の試合後はめずらしく、レフリーに意見した。反響があった。

「立場上、僕しか言えないので」

 さあ、24日は決勝戦。3連覇がかかる。相手は昨年12月に引き分け(17−17)の死闘を演じた東芝となった。

「ここまできたら、勝ちたいですね。(勝負のポイントは)FWでしょう。スクラム、ラインアウト、ブレイクダウンを含めて、FWがどれだけ、チャレンジできるかというところじゃないですか」

 入念な準備と揺るがぬ自信。円熟の主将堀江が引っ張るパナソニックが3連覇に照準をピタリと合わせている。

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu